第198話  『 こうして皆、大人に近づいていく 』

 遊李と共に生徒会に入ってから、一緒に帰る機会が増えた。


「そういや、結局今年はクリスマスどーするんだろうね」

「あー。そういえばそうだな」


 辺りはすっかり日が暮れ、夕闇の帳と星たちの輝きが瞬く空を見上げながら俺は白い息を吐いた。

 俺たちは毎年クリスマスになると、彼女いない連合(遊李除く)として集まって一日中遊ぶのが恒例行事だったのだが、


「今年はないんじゃないのか? 智景、25日はバイトで、24日も予定埋めてるって言ったぞ」

「たぶん天刈さんとデートだろうね」

「かくいう俺も25日琉莉とクリスマス過ごすことになったし」

「え、なにそれ初耳なんですけど」


 詳しく、と腕を引っ張ってくる遊李に俺はぺしっとその手を払いながら、


「琉莉から誘われたんだよ。クリスマスかイヴに話があるから、家に来て欲しいって」

「やだ急展開! もしかしてついに⁉」

「俺も最初はめっちゃ期待した! もしかしてついにって!」


 しかし、しかしだ。


「でも琉莉のやつ、こういう言いやがったんだ!」

「な、なんて言ったの!」

「「生憎海斗が期待してるようなことじゃない」って! 秒で期待打ち砕かれたわ!」

「盛大な振りという可能性も……」

「ゴミを見るような目で言われたんだぞ」

「そ、なんだ。なんか、浮かれてごめん」

「謝るなよ。余計虚しくなるだろ」


 本当に俺の純情を返して欲しい。あの幼馴染はいつも俺を掌の上で弄ぶんだ。

 咽び泣く俺の肩を遊李がぽんと同情するように置いた。やはり持つべきは親友だな。


「でもよかったじゃん。理由はともかく水野さんとクリスマス過ごせて」

「それに関しては僥倖としか言いようがない」


 遊李の言う通り、琉莉とクリスマスを過ごせることには変わりない。なので、これ以上を望むのは贅沢だろう。俺としては琉莉の方から誘ってくれたこと事体がサプライズみたいなもんだしな。


「で、遊李の方はどうなんだよ。白縫とデートすんだろ」

「もち。本当は24、25の両日一緒にいる予定だったんだけど、流石に家族に許してもらえなかったわ」

「まぁ、俺たちまだ学生だしな」


 本気で悔しそうに奥歯を噛みしめる遊李に俺は苦笑い。


「でもそうなると、今年はやっぱり各々予定入ってるって感じだな」

「だね。まさか高校一年生目にして全員カノジョ持ちとなるとは」

「俺は厳密に言えば付き合ってないけどな」

「でも女子と一緒に過ごせるのに変わりはないじゃん」

「……まぁ」

「あ、でも誠二だけは二日とも……いや、しないな」

「誠二には誠二の楽しみがあんだろ」

「「コミケ」」


 俺たちの中で唯一女性と何ら交流のない男子だが、その懸念は杞憂だろうと二人揃って苦笑を浮かべる。今年も誠二はオタクのビッグイベントでそれどころではないはずだ。


「誠二にはコミケでいい出会いがあることを祈りつつ、俺たちは俺たちのクリスマスを満喫しますか」

「だな。満喫できるかはべつとして」

「んな縁起の悪い事言うなよ~。……でも、冬休みの一回くらい四人で遊びたいな」

「だな。智景が忙しくなきゃだけど」

「そういえば智景の両親って年末にこっちに帰って来るんだっけ?」

「らしいな。まぁ、俺も詳しくは知らないし、アイツが嬉しそうに話してんの聞いたくらいだけど」

「じゃあその時に天刈さん紹介するのかな」

「はは。智景ならやりそー」


 僕の自慢のカノジョだよ! とか言って親に天刈を紹介する智景が容易に目に浮かぶ。


「皆、来年も幸せでいられるといいよね」

「だな」


 お互いに白い息を吐いて、そんな祈りにも似た願望をこぼす。

 本当に、そう思う。

 俺たち皆、誰一人傷つくことなく幸せにいられたら、それほど嬉しいことはない。

 ……でもやっぱり、俺が一番幸せにしてやりたいのは幼馴染で。


「なぁ、遊李」

「なに?」

「……先に言っておく。メリクリ」


 マフラーで口許を隠しながら照れ交じりに言えば、遊李は「ふはっ」と笑って、


「うん。メリクリ」


 俺たちはもう違う道を歩き始めているのだと、その言葉を吐くと共に実感せずにはいられなくて。


 少しだけ、遊李たちと過ごした、何も考えずただ笑っていられた中学の日々に戻りたいと思った――。




【あとがき】

カノジョ、意中の子と大切な時間を過ごせるのと引き換えに、男同士でバカみたいに笑っていた日々は来ないという切なさ。

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