第187話 『 生駒高校。第72期生徒会 』

 生駒高校、第72期生徒会のメンバーを紹介しよう。


 生徒会長・彌雲紫苑(二学年)

 副会長 ・御子柴日向みこしばひなた(二学年)

 書記  ・由紀博人ゆきはくと(二学年)

 広報  ・涼宮紅葉すずみやもみじ(一学年)

 広報  ・草摩遊李(一学年)

 庶務  ・朝倉海斗(一学年)


 以上六名が、生駒高校新生生徒会のメンバーである。


「――次期生徒会生徒たちは前へ」


 体育館の壇上に現れた六名に、全校生徒と全職員から割れんばかりの喝采が贈られる。


 それは期待と信頼の証。次の生駒高校を担う生徒会の面々へと注がれたその喝采は、壇上に立つ者たちに生半可ではないプレッシャーと自負を与えるのに十分だった。


 しかし、その中で一人だけ――彌雲紫苑はいつもの不敵な笑みを浮かべていた。まるで、その期待に応えることに何ら恐怖を覚えていないかのように。


「では時期生徒会長、彌雲紫苑から全校生徒へ一言」


 生徒会監督の教員からの指示を受け、紫苑は既に手に持っていたマイクを口許に運んだ。


 それと同時に体育館の拍手が徐々に静まっていき、やがて静寂が訪れる。常人であればまず耐えられないプレッシャーが壇上に押しかかる最中、やはり紫苑は堂々としたままで。


「生駒高校、第72代生徒会長に就任した彌雲紫苑です。まずは私のことを推薦してくださった前生徒会長に感謝を」


 一つ一つの所作は極めて流麗。かつ美しい紫苑に体育館に集う生徒たちは瞬く間に目を奪われる。それは同時に、全校生徒が彼女を〝次期生徒会長〟だと認めさた証だった。


「――私が生徒会長となって皆に誓うものはただ一つだ。この高校をより良きものにし、皆が不便ない学生生活を送れるよう尽力する。そして、今私の隣にいる者達はそれを果たす為にいる心強い仲間たちだ」


 細く華奢な腕が横へ伸び、必然と全校生徒の注目がそちらへ集まる。それに怖気づく者もいれば、背筋を伸ばす者もいる。遊李は前者で、海斗は後者だった。


「まぁ、堅苦しい挨拶はこれくらいにしよう。私もいつまでも肩に力を張っているのも疲れるからね」


 生徒会長らしからぬユーモラス溢れる冗談に体育館に微かな笑いが零れる。特に紫苑と同じ学年にそれが顕著に見られた。やはり彼女をよく知る学年だけあってか、彼女が生真面目な生徒ではないということを理解しているらしい。


 そして、紫苑の静謐かつ厳粛な場で放ったジョークは他学年にも「この人って意外と怖くないのかも」という印象を植え付けることに成功した。


 紫苑は自分の容姿が他人より優れていることを嫌々ながらも理解している。容姿端麗で才色兼備。天才と評される紫苑への羨望。そして、完璧であるが故に生まれる確執も。今回この厳粛な場で放ったジョークは、それを払拭させるのには自ら重畳と評価できるほど効果覿面だった。


「どうか皆も気軽に私たちに意見を出しに来てくれ。学校とは学生が最も多くの時間を過ごす場所。そこが心地よいものでなければ、満足した青春なんて送れないだろう? 生徒会はそんな生徒たちが心地よい場所を創る為にある。――皆でこの高校を、より価値ある高校にしていこう」


 紫苑は挨拶の最後に誰もがハートを鷲摑みされるようなウィンクを投げつけると、途端、体育館には割れんばかりの歓声が沸き上がった。男子、女子問わず黄色い歓声が体育館を埋め尽くす。この瞬間に彌雲紫苑の虜になった生徒たちは数多ほどいたとか。


 とにもかくにも生徒会長としての挨拶は監督である教員が肩を落とすほど上出来で、新生生徒会が歩みだした一歩としては十分と言えよう。


 その後紫苑たち新生生徒会たちに司会から退くよう促され、拍手喝采を受けながら紫苑たちは垂れ幕の内側へと去っていった。


「ふふっ。これからどんな楽しい高校生活が待っているか、実に楽しみだね」


 こうして、第72期生徒会就任式は成功といえる形で幕を閉じたのだった。

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