第174話 『 今日、一緒に寝てもいいか? 』
文化祭にその後のパーティー。学校にアルバイトと、ここ連日多忙だった僕にも、ようやくゆっくりする時間が訪れた。
とりあえず午前は洗濯物と家内を軽く掃除して、昼食を取った後はリビングのソファーで撮り貯めていたアニメを見ることにした。
「こんな風にラブコメ観てると、僕らもいちゃいちゃしたくなるね」
「ばかなこと言ってると離れるぞ」
「嘘です冗談です。なので離れないでください」
「たくっ。あたしを揶揄うの控えるって言ったくせに」
「あはは。僕としては心の中で思ったことを言ったまでなんだけど」
「~~~~っ! ばかっ。ボッチのばか!」
結構痛い攻撃を喰らいながらも、僕はアマガミさんから離れることは決してなく、アマガミさんも怒り終わると拗ねた顔のまま肩を寄せてきた。
「ふふ」
「なんだよその顔。いいだろべつに。今日はお前、バイト休みなんだし、少しくらい甘えても」
「アマガミさんはどんどん可愛くなっていくね」
「う、うるせー! やっぱ離れる!」
恋人になってからなのか。アマガミさんは以前より僕にスキンシップを求めてくることが増えた気がする。
アニメに夢中になっていくと自然とアマガミさんの腕が伸びてきて、そして僕の腕をガッチリ掴んだ。抱きつき癖は健在のまま、僕はそれが可愛いので相変わらず密かに彼女の癖を楽しんでいる。
夕方はスーパーに買い物へ。
「アマガミさんは何が食べたい?」
「んー。そうだな。なぁ、ボッチってビーフシチュー作れるのか?」
「ビーフシチューが食べたいの?」
「たぶん。それかおでんで迷ってる」
「随分と極端な二択だね。うん。ビーフシチューも作れるよ」
「じゃあそっちがいいな」
「たまにいいかもね」
ということで夕飯はビーフシチューに。
夕食後は僕の部屋でゲームをして。
「おら! これでも喰らえ! ってなんだその避け方!」
「まだまだ詰めが甘いねアマガミさん。戦いに油断禁物。そしてカノジョであろうとゲームでは負けられないんだ僕は!」
「くっそぉ! また負けたー。もう一回! もう一回勝負だ!」
「うん。何度でも相手してあげる」
一時間ほど遊ぶつもりが気がつけば二時間も経っていることに気付き、慌てて入浴を済ませる僕ら。
「へへっ。休みの日はボッチが髪乾かしてくれるから楽でいいや」
「こういう時じゃないとアマガミさんの髪を堪能できないからね。それに、僕が手入れした髪を見るのが存外優越感に浸れるんだよ」
「心配すんな。もうあたしはボッチのもんだから」
「不覚にもきゅんと来たよ!」
もう友達じゃない。恋人との憩いの時間。それがもたらす心の安寧は、あまりに大きくて。
「それじゃあ、おやすみ。アマガミさん」
「おう。おやすみ」
同じ家に住んでいる僕らは、もう顔を合わせていない時間などないんじゃないかと思うほど一緒にいる。けれど唯一、眠る時だけはそれぞれの部屋で別れなきゃいけなくなる。
手を振る胸の内には、名残惜しさが込み上がる。
ぱたりと扉を閉じると、途端に静かな部屋に虚しさを覚えて。
早く明日になれ。そんな焦燥に駆られながら布団に潜った――その直後にそれは起きた。
不意にこんこん、と扉をノックする音が静かな部屋に木霊する。
何事かと被った布団を剥いでベッドから出た。そして急ぐように扉を開ければ、そこには赤い瞳を潤ませ、何かを伝えることに恥じらうように指をもじもじさせながら、僕のことを上目遣いで見つめてくるアマガミさんが立っていて。
そして僕が「どうしたの」と聞く間もなく、アマガミさんがぽつりと呟いた。
「今日、一緒に寝てもいいか?」
「――ぇ」
そのお願いが、揺れる赤瞳の懇願が、微睡に呑まれる心臓をドクンと跳ね上げた。
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