第172話 『 アマガミさんと秘密な関係 』

「んー! 今日は久々に思いっ切り遊んだなー」

「ボッチ。今日はありがとねー」

「どういたしまして。僕も久々に皆と遊べて楽しかったよ」


 既に辺りは薄暗く、楽しいパーティーも間もなく終わろうとしていた。


「たまにはこうして皆とリアルで遊ぶのも悪くないでござるな」

「だな。只管にゲームしたり騒いだり……なんか中学の頃思い出したわ」

「それなでござる。やはり友達は一生の財産でござるな」

「誠二のくせにいい事言うじゃん」

「なんでござるか、その誠二のくせにとは。誠に不愉快でござる」


 冗談だよ、と不満を吐露する誠二くんの頭を乱暴に掻く海斗くん。

 その様子を苦笑交じりに見届けていると、


「あれ、そういや天刈はまだ帰んねぇのか?」

「んぁ? ……あぁ」


 海斗くんが僕の隣で退屈そうにスマホを眺めているアマガミさんに怪訝な目を向けながら訊ね、アマガミさんはそれに一瞥をくれて短く頷いた。

 皆はまだアマガミさんが僕の家で居候している事実を知らない。なので、帰ろうにも帰る家がここなのだから外に出る必要はないのだが、そんなことは到底明かせるはずもなく。

 僕がどう誤魔化そうか逡巡していると、意外な方向から助け船がやってきた。


「ダメだよ朝倉くん。二人は恋人になったばかりなんだから。そこは友達として察してあげなきゃ」

「あー。そういうこと。はいはい。分かったよ。お熱くて嫉妬するわー」


 図らずも白縫さんの助けにより、海斗くんからそれ以上の追求はされなかった。

 僕は皆に気付かれないようほっと安堵の吐息をこぼしつつ、またねと手を振った。


「じゃあ、皆また明日学校で」

「おう! ……ボッチぃ。カノジョと二人きりになれるからってあんま羽目は外しすぎちゃダメだぞぉ」

「あはは。うん。肝に銘じておくよ」

「じゃあね、天刈さん。明日もたっぷりいちゃつきましょう」

「お前といちゃついた覚えはねぇよ。またな」

「はうっ! 初めて天刈さんから手を振り返してもらえたっ。……ちゅき」


 アマガミさんに挨拶をもらえたが余程嬉しかったのか、白縫さんがその場に崩れそうになる。それを見事に抱き支えた遊李君は、そのまま白縫さんの手を握りながら踵を返した。

 最後にもう一度だけ手を振って、見届ける背中が少しずつ遠くなっていく。


「いつまでも玄関にいたら冷えちゃうし、僕らもそろそろ部屋に戻ろうか」

「ん」


 淡泊な返事をもらい、ゆっくりと玄関を閉じていく。それはまるで賑やかだった時間に終わりを告げるようで、閑静な空間が僕とアマガミさんに日常へ帰還させたこと報せる。


「――アマガミさんの手。冷たいね」

「ボッチの手だって冷たいぞ」


 僕とアマガミさんの日常。二人きりの、静かで、心地の良い時間。


「ならこうして温めないとね」

「ボッチの好きなようにしろよ」

「……もしかして恋しかった?」

「な、なわけぇねし」

「ふふ。相変わらず素直じゃない」

「うっせ。これ以上余計なこと言ったら手離すからな?」

「ごめんごめん。離したくないから静かにするね」

「懸命な判断だ」


 ふん、と照れくさそうにそっぽを向いたカノジョさんに、僕は微笑みを浮かべながら見つめる。

 皆と過ごす騒がしい時間も好きだけれど、僕はやっぱり、アマガミさんと二人きりで過ごす甘い時間の方が好きだな。

 胸に覚えた確かな温もりに浸りながら、僕はアマガミさんの手を繋ぎながらリビングへと戻っていった。


「リビング片づけたら、一緒にゲームしよっか」

「いいぞ。そうだ。今日は久々に対戦ゲーやろうぜ。なんだか今日はボッチをぶっ倒せる気がするんだ」

「いいね。でも、アマガミさんに簡単にやられるほど僕は弱くないよ」

「やっぱ本気のボッチとの対戦は燃えるな。さっさと食器片してゲームするぞ!」

「分かったから。だから引っ張らないでよ」


 僕とアマガミさんの秘密の同棲生活は、まだまだ続くのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る