第169話 『 アマガミさんとパーティー 』
文化祭振替休日も最終日。
「それじゃあ、文化祭成功を祝して……」
「「かんぱーい!」」
今日、僕の家では文化祭の慰労会が開かれていた。……まぁ、慰労会、といっても要はただのパーティーなんだけど。
メンバーは僕、アマガミさん、海斗くんに誠二くん。それから遊李くんと白縫さんの六人。
「ご飯もお菓子も沢山用意してあるから、皆どんどん食べてね」
「ねね。ボッチ。たこ焼きに入れる具材追加で買ってきたんだけど何がいい? イカの塩辛とかチョコとか練りわさびとか色々あるよ」
「遊李くん、勝手にロシアンたこ焼きやろうとするの止めてくれる?」
テーブルにはたこ焼きにピザ、フルーツ、お菓子などが余すことなく置かれている。
「一応すみれ汁と炊き込みご飯も作ったから、食べたい人は僕に言ってね。ちなみに数が限りがあります」
「寮のおかみか。相変わらずの手の込みようだな。なんか悪いな。家貸してもらったのにご飯まで作らせちまって」
「そーだそーだ。お前らはもっとボッチとあたしに感謝しろ」
「智景はともかくなんで天刈にまで感謝しなきゃなんねぇんだよ。お前だって客人のくせに」
「はぁ? あたしは客人じゃねえ。この家の……もごもご」
「何でもない! 何でもないよ~」
「……?」
危うく口を滑らせるところだったアマガミさんの口を慌てて抑える僕。
海斗くんに怪訝な目を向けられつつ、僕は超小声でアマガミさんに言った。
「……ダメでしょアマガミさん! 僕らが同棲してることはまだ誰にも言ってないんだから!」
「……やべ。そうだった⁉」
「おーい。恋人同士でなーにこそこそ喋ってんだー?」
「な、なんでもないよ」「なんでもねぇよモブ」
「モブ⁉」
ジト目を向ける海斗くんに僕は苦笑いを。アマガミさんは適当にあしらう。
アマガミさんの発言に憤慨した海斗くんが「モブじゃねえし!」と地団太を踏む……どうやら上手く誤魔化せたようだ。
ほっと安堵の息を吐くと、既にたこ焼きを焼き始めていた遊李くんが言った。
「海斗ー。ダメよそんな無粋な質問しちゃ。この二人は付き合う前から頻繁に家で会ってるてるんだから。アマガミさんにとってはもうボッチの家は我が家みたいなもんなんじゃない?」
「へー。天刈さん。付き合う前からボッチくんの家で遊んでたんだー。なるほど。どうりで動き慣れてるわけだね。食器とか迷いなく運んできたし」
「そ、そーなんだよ」
「あ、あはは。うん。付き合う前から、アマガミさんとはよく家で遊んでたんだ」
妙に鋭い遊李くんと白縫さんに、僕とアマガミさんは冷や汗を流しながらぎこちなく応える。
まずい。流れが僕とアマガミさんの話題になりかけている……と危惧していたのが、
「私たこ焼きって初めて焼くなぁ。上手くできるかな?」
「大丈夫。上手くできなくても俺がちゃんと食べるし、焦げたやつは海斗と誠二に食わせるから」
「本当⁉ よしっ。それなら安心してチャレンジできるね!」
「萌佳なら絶対に上手くできるよ」
「「なに人に残飯処理させようとしてたんだこのバカップル!」」
たこ焼きを焼くのに夢中の二人はそれ以上追求はせず、皆でのパーティにも関わらず二人の世界に入っていた。……すごいなぁ。ああいうのは見習っていかないと!
「なぁ、誠二」
「なんでしょうか海斗氏」
「このバカップルに痛い目をみせたいと思っている俺がいるのだが」
「奇遇ですな海斗氏。拙者もでござる。いつもいつも処構わずイチャつくこの二人に、そろそろ天誅を下してやりましょうぞ」
「だな。おいそこのバカップル! 覚悟しろよ。今から始まるのは――ロシアンルーレットたこ焼きだ!」
「わぁ! やったね、ゆーくん! ロシアンルーレットたこ焼きできるよ!」
「マジか! うしっ! なら早速わさびとかバナナ入れていきますか!」
「「バカな! この状況に動じていないだと⁉」」
……結局ロシアンルーレットたこ焼きやるんだね。
すっかりたこ焼きを焼くのに夢中になる四人を、僕は微苦笑を浮かべながら見守る。
それから、皆には気付かれないように、
「――っ!」
「(しー)」
隣でどうでもよさそうに皆のことを眺めていたアマガミさん。その肩がふいにビクッと震えたのは、僕が彼女の手を握ったから。
「……少しだけ、いいでしょ」
「……お前っ、ほんと時と場所考えろよな」
呆れつつも、アマガミさんは僕の手を振りほどこうとはしない。ふふ。やっぱり素直じゃないカノジョさんだ。
「ねね、見て見てゆーくん! 綺麗に焼けたよ」
「めっちゃ上手いじゃん。流石は萌佳」
「えへへ。もっと褒めてー」
「おいそこのカップル。イチャつくのはまだ早いぞ」
「そうでござる。真の勝負はここから! 今日こそリア充どもに制裁を下す時!」
「……さっきから海斗たちめっちゃフラグ立てるじゃん」
「何がフラグだ! 立てた覚えも回収するつもり断じてない! お前たちに外れを全部食わせてやるから覚悟しろ……わざび―――――――っ⁉」
「拙者のはハバネロ――――――っ⁉」
「ううーん! 焼きたてって美味しいね、ゆーくん!」
「萌佳のは当たりか。あ、俺も当たりだ……やっぱフラグだったじゃん」
「「くっそー! もう一回だ!」」
皆がはしゃぐ様子を少し離れた場所から見届けながら、僕とアマガミさんは静かに、互いの手の温もりに浸る。
「……そろそろ行かないと皆に怪しまれるかもね」
「……あいつらは好きにやらせとけよ。それよりもあたしはこっちのほうがいい」
「……ふふ。ならもう少しだけ、手繋いでよっか」
「あぁ。もう少しだけ、な」
それから僕とアマガミさんは、皆に気付かれそうになる瞬間まで密かに手を繋ぎ合っていた。
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