第165話 『 アマガミさんとカレシ 』

「もうすっかり冬だねー」

「だな」


 長いようで短かった二日間の文化祭も終わり、僕とアマガミさんは帰路に着いていた。

 晴れて恋人同士になった僕らは今、堂々と手を繋ぎながら歩いている。


「夕飯は鍋ものにしようか」

「いいじゃん。さんせー」

「アマガミさんは何鍋が食べたい?」

「またあたしの好きなものばっか作ろうとしやがって。たまにはボッチが食いてぇもん作ってもいいんだぞ」

「まぁまぁ。これは僕がアマガミさんに好きなもの食べて欲しくて聞いてるから。だからアマガミさんの食べたいもの教えて欲しいな」

「お前ってやつは。はぁ、あたしを甘やかしすぎなんだよ」

「だって好きだから」

「――っ。す、好きとか、簡単に言うなっ」


 顔を赤くしたアマガミさんに怒られてしまう。けれど、僕は微塵も引くつもりはなかった。


「ごめんね。でも、ようやくアマガミさんと付き合えたからさ。それが嬉しくて」

「……ボッチ」

「だからしばらくは毎日のように好きって言うかもしれないから、覚悟しててね」

「あたしの心臓がもたないやつ⁉」


 アマガミさんは「これから先が思いやられる」と重たいため息を吐いた。あははごめんね。アマガミさん。

 でも、これだけは自分でも抑制できる自信がないんだ。

 何ヵ月も前から、ずっとキミに好きだって言いたかったんだから。


「……今気づいたんだけどさ」

「あぁ? なんだよ?」

「僕ってもしかしたら……結構愛が重たいかも」 


 それを言葉にするのが少しだけ恥ずかしくて、頬を掻きながら言えば、アマガミさんは可笑しそうに鼻で笑った。


「今更かよ。あたしはとっくに気付いてたぞ」

「えぇ。本当に?」

「おう。本当だ。だってお前は付き合う前からあたしを超甘えさせたからな。そんなの、普通のヤツはやらねぇと思うぞ」

「僕のこれって異常なのかなぁ」

「あたしはボッチ以外の男なんて知らねぇし興味ないから聞かれても答えらんねぇよ」


 アマガミさんは「でも」と継ぐと、


「ボッチはそのままでいてくれ」

「……アマガミさん」

「あたしは、ボッチのそういう所がいいんだ。いっつもばかみてぇにあたしを甘やかそうとするお前がいい。あたしは、お前になら素直でいられる」


 真っ直ぐに。僕を見つめる赤瞳が胸の内を曝け出してくれる。

 それが、どれほど嬉しいことなのかは、もう言葉にしなくとも分かるよね。


「ねぇ、アマガミさん」

「なんだよ?」

「好きだよ」

「――っ。そ、そうか」

「大好き」

「お、おう」


 キミを好きって気持ちが止まらない。

 あぁ、本当に。僕はアマガミさんのことが大好きなんだな。


「僕。世界一の幸せ者だね」

「なんでだよ?」

「アマガミさんと恋人になれたからだよ」

「~~~~っ。分かったから! お前があたしのことをす、好きだってことはもう十分っ分かったから! だから一旦落ち着け!」

「無理。家に着くまでずっと好きって言い続けたい」

「お前はあたしを悶え殺す気か⁉ 死ぬ気でその気持ちを押さえろ! さもなくばあたしが家に着く前に死ぬぞ!」

「大丈夫だよ。人間は愛の言葉を囁かれたぐらいで死にはしないから」

「容赦ねぇなお前⁉ あれだから! これ以上言ったらこの手離すからな!」

「むぅ。それを脅しに使うのはずるいよ。離したら逃げるじゃん」

「逃げなきゃあたしがお前に殺されるんだよ」

「はぁ。分かったよ。なら最後に一回だけ言わせて」

「……あと一回だけだぞ」


 渋々と頷いたカノジョに、僕は全霊を乗せた愛を告げる。


「大好きだよ! アマガミさん」

「~~~~っ。……恥ずか死ぬぅ!」


 恋人になったキミと、新しい日々が始まる。

 そして、僕らの一日はまだ終わらない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る