第164話 『 アマガミさんとご報告 』
閉会式を終え、廊下には各クラスからの喧噪が木霊していた。
「結局閉会式サボちゃったね」
「いいんじゃねえのべつに。あんなのはただ座ってセンコーのつまらねぇ話聞くだけなんだから、抜け出して正解だろ」
「ダメだよアマガミさん。学校行事はきちんと最後までやり遂げないと」
「おいおい。言っとくけどなぁ。今回はあたしに非はねぇぞ。なにせ話したいことがあるからって屋上に誘ったのはボッチなんだからな」
「あはは。そうでした。今回は完全に僕の責任だね」
「まぁ、でも? そのおかげでボッチとこ、ここ恋人になれたわけだし? 全責任を押し付ける訳にもいかねぇな」
まだ僕らの関係を声にするのに恥じらいがあるのか、顔を赤面させて視線を彷徨わせるアマガミさん。
そんなぎこちない態度に思わず笑ってしまえば、拗ねた彼女が口を尖らせて。
この時間の全てが、愛しくて仕方がなかった。
「……どうしたの?」
不意に彼女の行く足が止まり、僕は不思議そうに小首を傾げて問いかけた。
あと数歩で僕らの教室に着くという直前で、アマガミさんは体をもじもじさせながら、
「いや、流石に教室に入る時は手離そうぜ」
「…………」
どうやらこの状態で教室に戻ることに躊躇いがあるようで、アマガミさんは繋いでる手を離さそうとする――しかし、
「――っ⁉」
「ダメ。絶対に離してあげない」
刹那だけ離れた手を、僕は意地悪に掴んで決して逃がしはしなかった。
「付き合ったこと。早速皆に報告しにいかないとね」
「やっ、それはマジで勘弁――っておいボッチぃ⁉」
「ほら、行こう! アマガミさん!」
アマガミさんの懇願を無視して汗ばむ手を引けば、僕らを迎えていたのは――
「ただいま、皆」
僕とアマガミさんが教室に入った途端。それまで賑わっていた教室が一気に静まり、視線が一斉に僕らへと注がれる。
手を繋いでいる僕たちにまず初めに声を掛けたのは、口を戦慄かせた白縫さんだった。
「ボッチくん。それに天刈さん。もしかして、もしかしてそれって!」
目を燦然と輝かせながら訊ねてきた白縫さんに、僕は彼女――恋人と握っている手を皆に見せびらかせるように掲げ――
「うん。今日から、僕とアマガミさんは『恋人』になりました」
高らかに、皆に知らしめるように、堂々と告げた。
瞬間。それまでの静寂が嘘かのように喧噪が教室を満たした。
驚声。祝福する声。歓喜の声――皆が、僕とアマガミさんの恋を祝福してくれていた。
『――皆には協力してもらったからね。ちゃんと報告はしないと』
実は僕とアマガミさんが先生や他の生徒に気付かれず屋上に行けたのは、クラスの皆が僕の告白に協力してくれたからだった。本当に、皆には心から感謝だ。
「お、おめでど~~~~二人とも~~~~っ!」
「うおっ! おい、急に抱き着くんじゃねえよ白縫!」
「だっで! だっで~! 本当に二人のこと応援してたからあ~!」
天刈さん大好きな白縫さんが感極まって涙を流しながらアマガミさんに抱きついた。頑張って白縫さんを振りほどこうとするも、思ったより白縫さんの力が強くて中々引き剥がせないでいる。
そんな仲良しな二人の光景に僕も思わず笑ってしまって、クラスの皆もお腹を抱えながら笑っていた。
「おめでど~! 天刈ざ~ん!」
「ああもう分かったから! だから泣くな! あと鼻水垂らすな……っておい! あたしの制服に鼻水付けんじゃねえ!」
「わたしのあまがいざんがあぁぁぁぁ!」
「あたしはお前のものじゃねえけど⁉」
喧噪は、更に増す。僕は男子に囲まれて、アマガミさんは女子に囲まれて。
もう、一匹狼はいない。
僕らは既に、大勢の人たちに祝福されている。
それを、今日という日に再認識させられて。
「「おめでとう、二人とも!」」
「ありがとう。皆」
「お、おぅ。サンキューな」
こうして、今年の文化祭はそれぞれの恋心に一つの決着を迎えながら、無事に閉幕した。
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