第163話 『 ハッピーエンドのその先へ 』
「――っ! それじゃあ!」
「待てボッチ! まだあたしは付き合うとは言ってねえ!」
「えぇ⁉」
ようやく想いを伝えられ、アマガミさんからも返事をもらえた直後。何故か彼女に待ったを掛けられた僕。
「ええと、アマガミさん? 今僕らお互いに好きって認め合ったんだよね? なら次は正式にお付き合いしましょうの流れじゃないの?」
「確かに認め合った。けど、その前に一つ確認しておきいてぇことがある」
「な、なにを?」
「これはあたしじゃなく、ボッチに関わる大事なことだからな。ちゃんと確認しておかねぇとダメだ」
「はぁ」
少し置いて行かれ気味の僕に、アマガミさんは一人腕を組みながら頷く。
それからアマガミさんは「ボッチ」と僕の名前を呼ぶと、腕を組むのを止めて急に弱々しい女の子のように振る舞い始めた。
「そ、そのだぞ。あたしは、ボッチが最高に優しくて、甘やかし上手で、料理も勉強もでてきてカッコいいっていうのは知ってるんだ」
「あ、ありがとう」
なんか急に褒められた。
でも、とアマガミさんが継ぐと、途端にその顔が暗くなる。
「あたしは、ボッチと対等でいられるほどの特技なんか何一つもってねぇ。他の女みたいに可愛くなければ暴力的だし、料理だってお前ほど上手くねぇ。運動はできるけど、勉強は死ぬほど嫌いだ」
「ふふ。そんなこととっくに知ってるよ」
「お、おう」
少しだけアマガミさんが照れる。でも、すぐに表情に真剣さが戻って。
「お前があたしのことを好きだって言ってくれるのは、正直死ぬほど嬉しい。でも、何度も言うけどさ、あたしはボッチに迷惑をかけまくってる。例えボッチがそれを迷惑だと感じなくても、あたしはやっぱそう感じちまうんだ」
たぶん、それは居候に関しての負い目だろう。けれど、それは僕自身がアマガミさんを助けたくてやった独善的な行為の結果だし、何よりも僕の両親からその件については既に許可はもらっている。
「あたしは、今のあたしはさ、ボッチの自慢のカノジョになれない。こんな暴力しか取り柄のない不良女だ」
「――――」
「それでもっ! あたしは、ボッチといたいんだ」
彼女の赤瞳が、潤みながらも逸らすまいと必死に見つめてくる。
懇願するように向けられる瞳に、僕はふっと微笑を浮かべながら、その震える華奢な手を握った。
「一つ。訂正させて」
「なんだ?」
「アマガミさんは、決して僕と釣り合わない人なんかじゃないよ」
「――っ」
僕は知っている。
ずっとキミを見てきたから、だから伝えられる。
「アマガミさんはとても魅力的だし、とても可愛い人だよ。僕、何度もアマガミさんのこと『可愛い』って言ってるはずなんだけど」
「あれ揶揄って言ってるだけじゃなかったのか⁉」
「当然でしょ。全部本音だよ」
「あ、あたしって可愛いのか? お前目腐ってねぇか?」
「疑ってくるねぇ。というより自分に自信なさ過ぎじゃない?」
「だって、あたし皆に怖がられてるし。自分で鏡見ても顔怖ぇと思うし」
「僕はアマガミさんの鋭い目つき好きだよ。怒った顔は少し怖いとは思うけど、拗ねた顔はすごく可愛いよ。あはは。だからつい揶揄ってしまうだろうな」
「お、おぅ」
「伝わらないなら伝わるまで言ってあげようか?」
「いやいい! 分かったから! ボッチがあたしのこと可愛いと思ってくれてんのは十分分かったから! だからこれ以上言うな。恥ずかしさで悶え死にそうだ」
ならよし、と僕は満足げに微笑む。
「それとさ。釣り合いなんかも関係ないよ。アマガミさんは僕のことを優秀だと思ってるけど、僕の能力なんて世界中探したらごまんといるよ。僕より優秀なひとたちもね。つまり、僕も凡人の一人ってこと。僕は、ただゲームやアニメが好きなオタクだよ」
「はは。そうだな。たしかにボッチはオタクだ。暇がありゃゲームしてるし漫画読んでるし、ラノベ読んでる。超生粋のオタクだ」
「うん。なんだ。僕のことよく分かってるじゃん」
アマガミさんと一緒でしょ、と言えば、彼女は可笑しそうに鼻で笑った。
一つ一つ。彼女の劣等感を丁寧に解いていく。
僕は君と同じ人で。キミを好きになった男子なんだと、そう伝えられるように。
「僕は周りにどう思われようが、アマガミさんと一緒にいられればそれでいいんだ。キミと過ごした過去や今の時間を、そのまま未来まで続けていきたい」
「それで、ボッチは本当にいいのかよ? あたし、ボッチに迷惑かけ続けちまうぞ」
「いくらでも背負わせてよ。一人じゃ重たいものも、二人で一緒に背負えば軽くなるでしょ。もっと、僕を頼ってほしい」
「……今までよりも、お前に甘えちまうかもしれねぇぞ。お前が鬱陶しいって思っちまうくらいに。それでもいいのかよ」
「僕がアマガミさんを甘やかすこと大好きなのはもうとっくに経験済みでしょ? それよりもアマガミさんの方が覚悟してよね。付き合ったら、僕はもっとキミを甘やかすんだから」
「ま、マジか」
「大マジ。僕はアマガミさんが思ってる以上に、アマガミさんのことが大好きなんだよ」
好きって気持ちも、愛してるって想いも、触れたいという欲求も、これからはちゃんと全部伝えていきたい。だから、
「周りがどうかじゃない。僕は、アマガミさんのことが好きで、これからもずっと一緒にいたい。キミと過ごしたあの幸せの時間を、これからも共に過ごしていきたい」
「……本当に、あたしでいいのかよ。言っとくけど、付き合ったらもう返品も交換も効かねぇからな。こんな面倒な女。断るなら今のうちだぞ」
「キミがいい。ううん。アマガミさんじゃないとダメなんだ。僕の一番は、誰が何と言おうとあま――ううん。
「――っ!」
初めて。彼女のことをあだ名ではなく名前で呼んだ。その瞬間。見つめる少女は大きく息を飲んだ。
今にも泣きそうなほどに潤む赤瞳に、僕は微笑みながら懇願した――。
「アマガミさん。僕と付き合ってください」
「――あぁ。ああっ。
「はい。喜んで」
やっと、言えた。
やっと、繋がれた。
やっと、結ばれることができた。
キミを好きなんだと。
お前を好きなんだと。
お互いを好きなんだと、分かり合えた僕らはそのまま互いを求めるように、
「これからもよろしくね。アマガミさん」
「あぁ。あたしのほうこそ、これからもよろしくな。ボッチ」
満天の星たちが僕らを見届ける屋上で、恋人となった僕とアマガミさんは強く、強く抱きしめ合った――。
【あとがき】
ついに! ついに恋人同士となったボッチとアマガミさん! プロローグから実に163話越しです! なっげぇ!
これまで二人の恋を応援してくださった読者の皆様には改めて感謝を。そしてこれからはさらに甘い二人のお話を楽しみにしていてください。
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