第158話 『 ワガママに付き合ってよ 』
「さて、次はどこ回ろうか」
引き続き、パンフレットを片手に文化祭を散策中の僕とアマガミさん。
「アマガミさんはどこか行きたい場所ある?」
「んあ? あたしはべつにどこでもいいぞ」
「もぉ。せっかくの文化祭なんだから思いっ切り楽しもうよ」
「いやそういう意味で言ったんじゃねぇよ。ボッチとならどこでもいいって意味……」
「――――」
「ちがっ! 今のは言い間違え……っ」
「へぇ。アマガミさん。そう思ってくれてたんだ」
ニタリと笑いながら指摘すれば、
「忘れろ! 今すぐに!」
「えへへ。やだ」
今日はもう何度目かも分からない声にもならない悲鳴を上げたあと、羞恥心で潤んだ目で僕を睨んでくる。
「僕と一緒にいること、楽しいと思ってくれてるんでしょ。そんなの忘れたくないに決まってるよ。僕にとってそれは、とても光栄なことなんだから」
「大袈裟だろ。あたしなんかと一緒にいて満足とか、ボッチの価値観は安すぎだ」
「そんなことはないと思うけどな。そもそも文化祭を女の子と一緒に回れるってだけで、男子側からすれば勝ち組だって思うけどね」
「あたしは周りに女として見られてねーみたいだけど」
「僕から見ればアマガミさんはとても可愛い女の子だよ」
「~~~~っ」
アマガミさん。またまた照れる。なんかもう高熱を出したみたいにずっと顔が真っ赤だった。
「おおおお前はっ! いつもいつもそうやってあたしを揶揄ってくるな!」
「むぅ。こればかりは反論せざるを得ないね。僕はアマガミさんことを一切」揶揄ってません。全部本音です!」
「猶更質が悪い! あ、あたしのどこが可愛いんだよっ⁉」」
「え、言っていいの?」
「おい。その嬉々とした顔やめろ。分かった言わなくていい。言われたら絶対耐えられないやつだ」
「それは残念。それじゃあ、家に帰ってから教えてあげるよ」
「悪魔かっ⁉ 家に帰ってからも言わなくてもいいわっ!」
僕が残念に口を尖らせていると、アマガミさんは顔を逸らしながら、僕だけに聞こえるくらいの声量で呟いた。
「……もう。ボッチに可愛いと思われてんのは十分分かったから、だから言わなくていい」
「――ふふ」
そういう所も含めて、アマガミさんは可愛い。
思わず頬を緩めてしまう僕を見て、アマガミさんは不服気に頬を膨らませた。
「お前、今日はやけに積極的だな?」
「そうかな。いつもこのくらいだと思うけど?」
「いつもこのくらい積極的に来られたら今頃あたしは悶え死んでるよ。なーんか企んでんだろ?」
ジロリと懐疑的な視線を向けてくるアマガミさんに、僕は一切怯むことはなく「さぁ」と悪戯に微笑みを返す。
「教えてあげてもいいけど、でも教えたらきっと、アマガミさんはもっと悶え苦しむことになるかもね」
「なっ、そんな恐ろしいこと企んでんのか⁉」
「ふふふ。僕が何企んでるか教えてあげよーか?」
「や、やっぱ言わんでいい! なんか急に怖くなってきた!」
「安心してよ。遅くても家に帰るまでには僕が今日何企んでるかは分かると思うから」
「うぅん。それならまぁ、無理に吐かせる気はねぇな。でも、あたしの心臓は持たせてくれよ?」
「それはアマガミさん次第かな」
「どんな恐ろしいこと企んでんだお前⁉ あれか⁉ あたしを呪う系のやつか」
「あー。受け取り方次第では呪い系になるかも?」
「冗談だったのに本気だった⁉」
アマガミさんがぶるっと全身を震わせる。あはは。別に警戒されるようなことじゃないんだけど、ちょっと意地悪が過ぎたかな。
「積極的に攻め過ぎるのもよくないね。ちょっと反省しないと」
「本当に反省する気あんのかぁ? 一秒後にまたあたしを揶揄ってくるんじゃねえのか?」
「それは僕に揶揄われたいって期待してるのかな?」
「やめろぉ! これ以上は本当にあたしの心臓がもたねぇぞ!」
「ふふ。冗談だよ。最後までアマガミさんと文化祭を楽しみたいんだから、名残惜しいけど揶揄うのはここまでにします」
「助かったぁ」
ほっと安堵するのは早いよ、アマガミさん。
「でも、こういうのはまだまだ続けるからね」
「こういうのってどういうことだ……あ」
眉根を寄せた彼女に、僕は理解を強要するようにそれを目の前へと持ち上げた。
それとは――今尚固く握られた、『互いの手』だった。
「文化祭が終わるまであと二時間。僕はそれまで、アマガミさんのことを離さないからね」
「~~~~っ! ……もうほんとっ、勘弁してくれ」
「ふふっ。今日はだけはダメ。僕のワガママに付き合って」
「ああもうっ。ボッチといるとずっと心臓が五月蠅くなる!」
照れたキミを、僕は優越感に浸るような微笑みを浮かべながら見つめる。
揶揄いすぎてごめん、胸中で謝りながらも、僕は決して繋がれた手を離すことはなかった。
【あとがき】
久々に★レビューをいただきました。ありがと----っ!!
そしてボッチ。お前やっぱSだろ。
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