第157話 『 アマガミさんと文化祭二日目 』
「んむんむ」
「このたこ焼き美味しいねー」
「ごくっ。……だな。焼きたて買えてラッキーだったわ」
昨日のお昼はアマガミさんのリクエストで僕の手作り弁当だったけど、二日目は文化祭の気分を味わうべく催しものから選ぶことにした。
「でも食堂の豚丼が売り切れたのは残念だったね」
「人気らしいからな。買えなくてもしゃーないだろ」
「昨日は余裕があって買えたらしいんだけどねー」
「食堂のご飯もの全部売れ切れって知った時は詰んだかと思ったけど、こういう小物で腹満たすのもいいもんだな」
僕らのテーブルにはフランクフルトにフライドポテト、お好み焼きとバラエティ豊かな食べ物が並んでいた。最も、それは殆どアマガミさんのものだけど。
「そんなに食べてお腹壊さないでね?」
「平気だって。あたしの胃は頑丈なんだ。これくらい余裕だっつの」
そう言って、アマガミさんはたこ焼きを一つ大きく口を開いて頬張った。
「あっつぅ⁉」
「焼きたてなんだから熱いに決まってるでしょ。はぁ。ほら、お茶飲んで」
「ほふほふぅー」
「何言ってるか全然分からないから、飲み込んでから言ってください」
僕のお茶を渡せば、アマガミさんは熱さにもだえ苦しみながらそれを受け取った。
ごくごくと豪快な喉の音が暫く鳴ると、
「ぷっはぁー! し、死ぬかと思った!」
「熱々のたこ焼きを食べたくらいで人は死にません」
「そんなに言うならボッチも頬張ってみろよ。ぜってぇあたしみたく悶え苦しむから」
「そんなバカな真似しません」
「あ、今遠回しにあたしのことバカだって言っただろ?」
「言ってないし思ってもない。何ならテンパってるアマガミさんのこと可愛いと思ってたよ」
「人の苦しんでる所を見てよくそんな感想言えたな⁉ 悪魔かお前⁉」
「あれ、ここは照れないんだ?」
「そう簡単に照れるもんか。ふんっ。そんな陳腐な言葉にいちいち狼狽えるあたしじゃねぇ。覚えときな」
てっきり「可愛いとか言うなっ!」と反論をくらうと思っていた僕としては予想外な反応だった。むむ。そうなると意地でもアマガミさんを照れさせたくなるな。
「じゃあ、あーんしていい?」
「なんでだよ⁉」
「だってアマガミさんの照れ顔みたいので」
「もう少し本心を隠そうとしろよ。んなこと言われたら絶対させねぇ」
「そっか。それじゃあそれは家でするね」
「なんで家ならオッケーって解釈になった⁉ 家も外もダメに決まってんだろ!」
「そんなあ⁉」
「なんでそんなショック受けてんだよ⁉」
アホらし、と嘆息を吐いたアマガミさんはそのまま次のたこ焼きを食べた。
さっきとは違って二口に分けてたこ焼きを食べきったアマガミさん。それから口直しに飲み物を飲もうとしたのだろう――ふと、そんな彼女の手が止まってることに気付いた。
「どうしたのアマガミさん?」
「……いや。なんでねぇ」
怪訝に小首を傾げた僕の問いかけに、アマガミさんはぎこちなく応答したあとに何事もなかったかのようにペットボトルを手に取った。
しかしそれは、彼女の目の前に置かれていたものとは別のペットボトルで。
「――あ」
瞬間。僕は気付く。
気づいてしまえば、彼女に聞かずにはいられなくて。
「べつにいいんだよ?
「――んぐっ!」
悪戯な笑みを浮かべながら言えば、アマガミさんの顔がたちまち赤く染まっていき、
「ば、バカなこと言ってんじゃねえ!」
「あははっ。照れた」
「おまっ……ボッチぃ! 家に帰ったら覚えてろよっ。あたしを揶揄ったことぜってぇ後悔させてやるからな!」
「僕は一切揶揄ってるつもりはないんだけど?」
「猶更質悪いわっ⁉ お前、自分が何言ってるか自覚……してる顔だなそれは!」
「ふふっ。さぁ。どうでしょうか」
「くあぁぁぁぁ! なんつー腹立つ顔だ!」
アマガミさんが苛立ちを露にするように乱暴に頭を掻く。そんな荒れている彼女を、僕はなんとも悪戯な笑みを浮かべながら見つめていた。
アマガミさんをこんな風に揶揄うことができるのは、僕だけの特権。
築き上げた信頼が為せる、二人だけの特別な時間。
「僕、やっぱり好きだな。アマガミさんを揶揄うの」
「~~~~っ! もう知らん! ボッチの分の昼飯も食ってやる!」
「うん。好きなだけ食べていいよ」
「うぅ。そうやって揶揄って甘やかすのはずりぃ!」
「えへへ。だって好きだから。アマガミさんとすること全部が」
「~~~~~~っ!」
声にもならない悲鳴が上がったあと、アマガミさんは何かを誤魔化すようにたこ焼きを頬張りだした。
照れて、顔を真っ赤にして、僕のことをチラチラと見てきて――彼女の全てが、愛しくてたまらない。
募る。恋慕が。愛が。愛しさが。
『――大好きだよ。アマガミさん』
アナタを大好きというこの気持ちを、早く伝えたくて仕方がなかった――。
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