第156話 『 弾め。弾め。この鼓動 』
「お待たせ、アマガミさん」
「おっ。やっと来たか」
先に着替えを済ませていたアマガミさんに急いで合流すると、彼女は気にした様子もなくスマホをポケットに仕舞った。
「それじゃあ、早速お昼食べに行こうか」
「…………」
「どうしたのアマガミさん?」
歩こうとした矢先に彼女から訝し気な視線を向けられていることに気付いて、僕は小首を傾げる。
「……もはやこうするのが当たり前のように手を繋ぎにきたな」
「あはは。嫌だった?」
さり気なくアマガミさんの手を握っていることに気付かれてしまい、僕ははぐらかすように苦笑い。
「嫌じゃねえよ。昨日も結局ずっと手繋いでたしな。それを草摩に揶揄われた時は本気で息の根を止めようと思ったが」
「遊李くん人を揶揄うの好きだから。あと思ってたんじゃなくて、本当にあの時首絞めてたでしょ」
「超ムカついたからな!」
ダメだよ、と注意するも、アマガミさんは「あれはアイツが悪い」と反省している様子は微塵なかった。
僕はやれやれと肩を落とし、
「ならどうする? 今日は知り合いに会っても揶揄われないように手は繋がないで回る?」
「……いつも思うけど、ボッチずるいよな」
「え? なんで?」
首を捻る僕にアマガミさんは口を尖らせて、
「ボッチはいつもあたしに選択肢を与えるけどさ。それ、全然選択肢になってねぇから」
「それはつまり?」
だからっ、とアマガミさんは顔を真っ赤にして、
「ボッチから手を繋いできてくれてんのに、離すのなんか勿体ねぇって言ってんだ」
「――ふふっ」
「~~っ。その不快な笑み止めろ!」
「無理だよ。それってつまり、嬉しいってことでしょ?」
「~~~~っ!」
たっぷりと恥じらいが込められた告白を聞いて、僕は笑みを溢さずにはいられなかった。
彼女が僕と手を繋ぐことを嬉しいと思ってくれているなら、離す理由なんて何もなくて。
「アマガミさん」
「な、なんだよ」
「
「――っ。……もう好きにしやがれ。周りに何言われてもあたしは知らないからな」
いいさ。周りにどう思われても。むしろ外堀を埋められて僕としてはラッキーだ。
――今日の僕はいつもより積極的に攻めていくから、覚悟してね。アマガミさん。
「それじゃあ、お昼食べに行こうか」
「……ん」
照れて顔を俯かせるキミの手を引いて、僕は歩き出す。
キミの手を握る度に思う。
あぁ。この幸せな時間が、永遠に続けばいいのになと。
「アマガミさんは何が食べたい?」
「肉!」
「あはは。相変わらずアマガミさんはブレないなぁ。よし、今日は美味しいものたくさん食べようね!」
「へへっ。おう! ボッチの奢りな!」
「なんでさ⁉」
「冗談だよ。あははっ! やっぱボッチを揶揄うのはおもしれぇな」
「もうっ。そんなイジワルするなら何も奢ってあげないよ?」
「マジで奢ってくれんのかよ! しゃーねぇ。今日はもう揶揄うの止めるか」
「全く。アマガミさんはいつも調子がいいんだから」
「へへっ。ちょろいボッチがわるーい」
弾む会話とともに、キミと歩調を合わせて歩いて行く。
文化祭が終わるまで、あと三時間――。
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