第155話 『 待ち焦がれた文化祭二日目 』
時は遡り、文化祭二日目。
「ウガアアアアアアアアア!」
「きゃぁぁぁぁぁぁ!」
僕らのお化け屋敷は連日大盛況に見舞われた。
実行委員が本格派を目指したのが功を奏したのだろう。洋風の館を舞台にした造りと僕を除いたお化け役の出来が在校生と一般客から評価され、二日目には他クラスまで続く行列が出来ていた。
「ふぃぃぃ。あっちー」
「お疲れー。天刈さんっ」
「ちっ。気安くあたしに触んな。倉」
「今日もツンツンしてるねぇ~。狼かよ」
午前の当番もそろそろ交代となり、バックルームに戻ってきたアマガミさんが着ぐるみの頭部をすぽっと脱いだ。
「たくっ。こんな着ぐるみ着せられるとか最悪だ。しかも、なんであたしだけ狼なんだ?」
「そりゃ勿論アンタの顔が怖いからだよ。そのまま出たらお客さんが泣いちまう」
「おい倉、どういう意味だコラ。喧嘩売ってんなら買うぞ?」
「そう凄みなさんなって。アンタも顔怖いことは自覚してんだろ」
「……うぐ」
ケラケラと笑いながらアマガミさんの背中を叩くのは、僕らのクラスの中でも特に明るい性格の持ち主の倉三咲さんだ。
彼女はこの文化祭を通してアマガミさんと急速に仲良くなった人物でもある。まぁ、アマガミさん本人はやっぱりまだ僕以外を友達だと認めてないみたいだけど。
でも、アマガミさんに気軽に接してくれる人が触れたのは僕にとって嬉しいことだった。
「お疲れ様。アマガミさん。倉ねぇさん」
「おっ。ボッチだ」
「おっつー委員長」
二人のやり取りがひと段落した瞬間を見計らって合流する僕。僕を捉えたアマガミさんは嬉しそうにぱっと顔を明るくさせ、倉ねぇさんは爽やかな笑みを返してくれた。
「ぷふっ。やっぱボッチのその衣装、何度見ても笑えるな」
「ひど。言っておくけど、今のアマガミさんも相当だからね? 遠くから見たら宇宙飛行士に見えるよ」
「べつにあたしもやりたくてこんな着ぐるみ着てるわけじゃねえよ。これがあたしの役割なんだから仕方なく着てるだけだ」
と楽しく談笑していると、
「……いつもながら思うけど、露骨だねぇ」
「あぁ? 何がだよ?」
「自分の胸に手を当てて聞いてみなさいな」
「? 意味分かんねぇ」
揃って首を捻る僕らを見て、倉ねぇさんはやれやれと嘆息。
アマガミさんは「まぁいいや」と乱暴に後頭部を掻き、
「とにもかにも午前の仕事はこれで終わりだろ」
「あぁ。午後のお化け役ももう準備終わってスタンバイしてるから、私らの出番はもう終いだね」
「じゃあたしは着替えてくっかなぁ」
「せっかくだしそのまま委員長と文化祭回れば?」
「なにがせっかくなんだ! んなハズイ格好で外出れるか!」
ニヤニヤと邪悪な笑みを浮かべながら揶揄う倉ねぇさん。アマガミさんは「もうめんどくせぇ!」と地団太を踏みながら更衣室へ去ってしまった。
「あらら。ちょっと揶揄いすぎたかな」
「気にしなくていいよ。これまであまり人と関わってこなかったから、どう返せばいいのか分かってないだけなんだよ」
「さっすが天刈さんのお世話係。彼女のことなら何でも分かるんだねぇ」
「なんでもは分からないよ。まぁ、倉ねぇさんや他の人たちよりアマガミさんのことを知ってる自信はあるけどね」
「お、委員長がマウント取るなんて珍しいね」
「だってこれだけは誰にも譲りたくないから」
この世界で誰よりもアマガミさんの事を知っているのは僕でありたい。
「あはは。ちょっと独占欲強いかな」
「いや、男ならそれくらいが普通なんじゃない? でも、まさか委員長がそこまで天刈さんのこと好きだとはねぇ」
「うん。ゾッコンだよ」
「それを人前でよく恥ずかしげもなく言い切れるわ」
なんだかこっちが照れてくる、と倉ねぇさんが苦笑。
「で、午後はやっぱ天刈さんと回るの?」
「勿論。今日だけは絶対にアマガミさんと回りたいんだ」
「おっ。それってもしかして?」
「うん。そのもしかして……かもね」
「んんんっ! その誤魔化し方はズルイ!」
内緒、と悪戯な笑みを浮かべれば、倉さんは限界オタクみたいな発狂をした。それから諦観に似たため息を落とし、
「はぁ。じゃあ私は文化祭が終わるまで大人しく結果を待つしかないのか」
「文化祭中にそれをするとは限らないけどね」
「いやそこはして欲しい! じゃないと私、いや私たちか。委員長と天刈さんがどうなったのか気になって寝れなくなりそうだから!」
「ふふ。なら、倉さんの睡眠の為にも頑張らないとかな」
「いや、そこは委員長のペースでいいよ! 私らは、二人のことを応援してるからさ」
「……倉ねぇさん」
「頑張れよ、委員長!」
「いたっ!」
バシンッ! と倉ねぇさんに思いっ切り背中を叩かれる。
「うぅ。アマガミさんほどじゃないけど、結構痛いよ倉ねぇさん」
「あはは! 皆の想いの分まで乗せて叩いたからね!」
「――そっか。なら、皆に最高の報告ができるよう、背一杯頑張らないとだね」
「その意気だよ委員長! 男は当たって砕けるくらいが丁度いい……いや、流石にこれは砕けちゃダメか。あはは」
「ふふ。砕けないことを期待してて」
きっともう、この世界に僕らの恋を邪魔するものなんてないんじゃないだろうか。
そう思わせてくれるのは、屈託なく笑いながら拳を突き上げてくれるクラスメイトが目の前にいるから。
だから僕は、それに応えるように拳を突き上げて、
「行ってきます」
「うん。委員長の健闘を祈る!」
文化祭二日目。
この恋の行く末が、今日、決着する――。
【あとがき】
文化祭編もついに最終盤!
果たしてボッチとアマガミさんの恋の行く末は!
決着の前に甘すぎる二人の文化祭デートをお楽しみください。
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