第145話 『 文化祭スタート! 』
『――これより、万秋祭スタートです!』
気合の入ったアナウンスとともに、僕らの初めての文化祭がスタートした。
「それじゃあ、海斗くん、水野さん、白縫さん、皆頑張ってね」
「おう。午前の部は俺たちに任せとけー」
1年2組の出し物である『お化け屋敷』――その午前の部担当の三人に手を振って別れを告げると、僕は隣で大きな欠伸をかく少女に向き直った。
「よし。行こうか、アマガミさん」
「ん」
淡泊な返事を受け取って、僕らは歩調を合わせながらゆっくりと歩き出していく。
「ふふ。まだ眠そうだね」
「実際ねみぃよ。なんで休日なのに早起きして学校に来なきゃならねぇのか意味分かんねぇ」
「それは今日が文化祭だからでしょ。あ、もしかして昨日は今日が待ち遠しくて眠れなかったとか?」
「べ、べつにそんなじゃねえし」
「素直じゃないなぁ」
揶揄うように聞くと予想外の反応が返ってきて、僕はくすくすと笑ってしまった。
「あのアマガミさんが学校行事を楽しみにしてくれるようになったとは。僕、嬉しくて涙が出そうだよ」
「ちげえわ⁉ 学校行事なんて今も興味ねぇ! ……あ、あたしが楽しみにしてたのはだな……」
「?」
言いかけた直前で口を噤んだアマガミさん。不思議そうに見つめていると、その顔がみるみる赤くなっていく。数秒ジッと見つめていると、やがてアマガミさんは諦観したような、呆れたような嘆息を一つ溢した。
それから、アマガミさんは蚊の鳴くような小さく声を震わせて、
「――ボッチと、文化祭回るのが楽しみだったんだよ」
「っ!」
喧噪の中。耳を澄まさなければ聞き逃してしまいそうなほどの小さな本音を、僕は聞き逃しはしなかった。
「へへ。えへへ。そっか」
「~~~~っ! ああもうっ! だから言いたくなかったんだよ!」
頬を垂らさずにはいられない僕を見て、アマガミさんは本音を晒したことを後悔するように乱暴に後頭部を掻く。
――そんな言葉聞いて、僕が喜ばないはずがないでしょ。
「……なっ」
驚き声はアマガミさんから。
その理由は、
「手、繋ごう?」
僕が彼女の手を握ったからだった。
アマガミさんは繋がれた手を見て狼狽えながら、
「いや、でも、皆見てるし……」
「アマガミさんって人の目を気にする人だったっけ?」
「そ、それはそれ、これはこれだろ! ここは、流石にマズいだろぉ」
イジワルに問いかける僕に、アマガミさんは恥ずかしがって手を離そうとする。
でも、僕は一切退かない。
だって、この文化祭でキミに告白するって決めたから。
押せ押せドンドンだ。告白の前に、もっと距離を縮めておかないと。
アマガミさんが僕しか見えないくらいに。
「アマガミさん」
「な、なんだよ」
警戒する彼女に僕はにこっと笑みを浮かべて、
「今日は絶対に逃がさないからね」
「~~~~っ!」
一瞬。離れかけた手――アマガミさんの手を、僕はぎゅっと握って離させはしなかった。
アマガミさんから声にもならない悲鳴が上がって、羞恥心で潤んだ瞳が訴えるように僕を睨んでくる。
「……ボッチ。イジワルだ」
「ふふっ。そうだよ。僕はすごくイジワルだ。もしかして、嫌いになった?」
「こんなんでなるわけないだろ。……くっそ。眠気醒めちまったじゃねえか」
悔しそうに舌打ちするアマガミさんを、僕は微笑みながら見つめ続ける。
顔を真っ赤にしている彼女は、僕にそっぽを向いたままで振り向こうともしない。
それなのに、どうしてだろうか。
今この瞬間を、途方もなく嬉しいと感じている自分がいる。
それはきっと、アマガミさんが僕を意識してくれていると分かるからだろう。
そんなの、喜ばずにはいられなくて。
「それで、どうしますか? 手、離す? それとも繋いでていい?」
「……勝手にしろ」
「ふふっ。じゃあ、遠慮なくこうさせてもらうね」
素っ気ない返事に甘えて、僕は今よりも強く彼女の手を握った。
少し振り回しすぎたかな――そんな思考を否定するかのように、彼女は無言のまま僕の手をきゅっと握り返してきて。
「――ふふ」
「……んだよ」
「ううん。なんでもないよ」
ジト目を向けてくるアマガミさんに、僕はくすくすと笑いながら首を横に振る。
本当に、キミって素直じゃないね。
でも、そこが大好きで、たまらなく愛しい。
「ね。アマガミさん」
「あぁ。なんだよ?」
「文化祭。二人で思いっ切り満喫しようね」
「……ふっ。しゃーねぇ。子どものボッチに付き合ってやるか」
「あはは。付き合ってくれてありがとう」
文化祭はまだ始まったばかり。
けれど既に、僕とアマガミさんの胸の高鳴りは最高潮を迎えていた――。
【あとがき】
ついに文化祭スタート! 開戦の合図はボッチとアマガミさんの惚気から。そして次話から琉莉と海斗がメインで物語が進んでいきます。
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