第144話 『 片思いと片思い 』

 ――就寝前。


「ふへっ。ふへへ」


 布団に寝転がりながら、あたしは柄にでもなく浮かれていた。

 その理由は至極単純――明日、ボッチと一緒に文化祭を回れるからだ。

 いや分かってるつぅの。んな乙女みたいなものあたしには求められないってことくらい。


 でも、やっぱ嬉しいものは嬉しいんだ。


 一緒に文化祭を回りたい相手にあたしを選んでくれたことが、心臓が飛び出ちまうくらい嬉しい。

 だって、それってつまりあれだろ? 朝倉たちよりも、他のクラスメイトよりも――あたしと一緒にいたいってことだろ?

 それはなんだかあたしがボッチの一番になれたみたいで、優越感に浸らずにはいられない。

 それと同時に、ふとこうも思う。


「……あたしって、ボッチの何なんだろうか?」


 友達? 

 親友? 

 居候してる女?


 それとも――それ以上?


 あたしとしてはボッチの隣にいられるなら何でもいいけど、でも曖昧なこの現状は正直歯痒いというか、気持ち悪い。

 あたしはそろそろ、あたしたちのこの関係をハッキリさせたい。

 あたしは智景に振り向いてほしい。

 ずっと、あたしだけを見て欲しい。

 うるせぇ。また乙女みたいなこと言ってるなって自覚はしてるっつの。

 でも、それがあたしの心の底から欲しいものなんだ。


 友達のままじゃ、いられない。いたくない。


 でも、もしボッチにフラれたらと思うと、脚が竦んで勇気が出ない。また柄にでもなく怖気づく――恋は、あたしを臆病にさせる呪いだ。

 あたしにとっては、この曖昧なままの関係の方が生きていく上では都合がいいのかもしれない。

 だって考えてもみろ。一つ屋根の下で一緒に住んでる相手に告白してフラても、そこで関係が終わる訳じゃねえ。毎日顔合わせなきゃならないんだぜ。気まずいってレベルじゃねえ、もはやただの生き地獄だ。そんな事態になったらあたしは学校の屋上から飛び降りれるぞ。


 ボッチに嫌われたくない。

 ボッチから離れたくない。


 なら、このままの関係に縋り続けるのが妥当なんだろう。

 でもやっぱり、あたしはこのままじゃいられない。

 もう、ボッチを好きって気持ちを押さえられそうにない。

 我慢なんて、したくない。


 あの笑顔に、もっと甘えたい。

 その笑顔を、あたしだけのものにしたい。


「ああもう。これじゃあ埒が明かねぇ」


 ぐるぐると、頭の中は同じ問答ばかり繰り返す。

 あたしの頭は、もうボッチのことしか考えられなくなっていた。

 すぐ隣には愛しいアイツがいるのに、今日はもう会えない。

 でも、明日になれば、すぐにアイツに会える。

 あたしの大好きな人に。

 明日は、そんな大好きな人と文化祭を楽しめる。


「やば。明日が楽しみすぎて寝れそうにねぇや」


 この胸の高鳴りは、もうしばらく落ち着きそうにはなかった。



 ***



 もうじき、夜が明ける。

 今は皆、深い眠りの中だろう。

 少しだけ早く目が醒めた僕は、薄暗い外をぼんやり見つめていた。

 ――この文化祭で、僕はアマガミさんに告白する。

 その結末は神のみぞ知る未来。

 僕はただ、悔いが残らないように全力で当たっていくだけ。砕けたくはないのでそうならないよう頑張ります。


「はは。もう心臓の音が騒がしいや」


 告白のタイミングはいつかは分からない。たぶん、明日、ブンカサイ最終日だと思う。

 まだ時期ではない。それなのに、心臓は既に緊張でバクバクだった。


 これが、恋なのかな。

 これが、恋なんだろうな。


 好きな子に告白することに一喜一憂して、迷って、悩んで、躊躇って――そして、決断する。

 僕は今まさに、その渦中にいる。

 それが、すごく嬉しくて。

 誰かを好きになることなんてなかった僕にそんな感情を教えてくれたのは――いつも僕の傍で笑ってくれた彼女アマガミさん

 キミを好きになってよかったと、初めて好きになったのがキミでよかったと、きっと僕は何年経ってもそう思うだろう。

 それが例え、この恋が実らなかったとしても。

 僕に恋を教えてくれたことに感謝は尽きないから。


「ダメダメ。成功するって信じなきゃ」


 ネガティブな感情は即退散してもらって、僕は両脇を引き締める。

 今日はお互いたくさん働くだろうから、お弁当は豪勢にしようとその為に早起きした。


「アマガミさん。今日も喜んでくれるかな」


 僕のやるべきことは、結局のところ何も変わらない。

 お弁当を二人分作って、寝坊助さんな彼女を起こして、一緒に朝ごはんを食べて、そして登校する。

 エプロンを身に纏って、鼻歌をうたいながらお弁当の準備を始める。

 もうあと何時間かほどで、文化祭が始まる。


 文化祭そこで、四人僕らの物語が決着する――。


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