第142話 『 閑談 』
「ただまー」
「あっ。お帰り」
アマガミさんから『今から帰る』とメッセージが届いてから約三十分後。リビングの扉がガチャリと音を立てながらゆっくりと開いた。
そこから現れたのは当然アマガミ――なぜか異様にげっそりとしているアマガミさん
だった。
僕はソファーから立ち上がると、そんなアマガミさんの下まで歩み寄り。
「なんかすごくお疲れだね?」
「……あぁ。やっぱ行くんじゃなかった」
「女子会で何があったのさ」
ぐったりと頭を垂れるアマガミさん。
とりあえず彼女を椅子に座らせて、
「何か飲む?」
「じゃあお茶」
「分かった。ウーロン茶しかないけどそれでいいかな?」
「冷たきゃなんでもいい」
ということで、素早くコップにウーロン茶を注いだそれをアマガミさんの目下に置いた。
「はい、どうぞ」
「ん。ありがとな」
短くお礼を述べた後、アマガミさんは勢いよくウーロン茶を喉に流し込んでいった。
その豪快な飲みっぷりを眺めながら対面の席に座った僕は、瞬く間に空になった彼女のコップにおかわりのウーロン茶を注ぎながら訊ねる。
「それで、ファミレスで何があったの?」
「白縫とその他大勢の女子共に、ボッチとの関係を根ほり葉ほり、いや。ちげぇな。洗いざらい吐かされた」
「あはは。それは大変だったね」
どうやらただの決起集会ではなく、恋バナも含めた集会だったらしい。
「べつに吐かされたのはあたしだけじゃねえけど……あたしに当たる割合が尋常じゃなく多かった」
あれはもう尋問だ、と死んだ目をしながら語るアマガミさん。……本当にお疲れ様です。
まぁ、クラスメイトの女子としては気になる話題ではあったのだろう。僕もたまにアマガミさんとの関係を聞かれることもあるし、当人から直接聞ける機会となれば俄然好奇心も疼くものだ。
「で、皆には僕らの関係、どう答えたの?」
「き、気なんのか?」
「もちろん」
ニッコリと笑いながら首肯すれば、アマガミさんは「悪趣味だぞ」と口を尖らせる。
アマガミさんは少しだけ躊躇った後、
「べつに、どうも何も。ボッチとは親友としか答えてねぇよ」
「ふーん。本当にそれだけ?」
「~~~~っ。それだけっ。本当にそれだけだからな!」
顔を真っ赤にしながら声を荒げるアマガミさん。その反応からするに『それだけ』ではないようだが、これ以上追求したら腹パンされそうな予感がしたので止めておこう。
実際僕のその推測は正しく、アマガミさんはジロリと睨みながら「これ以上追求したら腹パンだからな」とわりとガチめなトーンで釘を打ってきた。
殺される前にその話題は終わりして、
「他にはどんなこと話したの?」
「あとは特にねぇよ。文化祭頑張ろうって話が一割、恋バナが九割だった」
「あはは。アマガミさん、そういうの苦手そうなのによく最後まで残ったね」
「実際何度も帰りてぇとは思ったけどな。やっぱあたしは大勢で騒ぐより、ボッチと一緒にいる時間の方が好きだな」
「くぅ! 胸にきゅんと来たよ!」
「へへ。いつもやられっぱなしだからな。たまにはやり返さねぇと」
胸を押さえる僕を見て、アマガミさんはしてやったりと満足げに笑う。
「僕も、アマガミさんと二人きりでいられる時間好きだよ」
「~~っ。すぐやり返すのはずるいぞ!」
「えへへ。やられっぱなしじゃいられない質なので」
僕からカウンターを喰らって顔を赤面させるアマガミさん。やっぱり可愛いなぁ。
意趣返しに成功して微笑む僕。アマガミさんは悔しそうに奥歯を噛んでいた。
「くっそぉ。こんな言葉で狼狽えるとか情けなさ過ぎるな」
「いいじゃない。アマガミさんの照れた顔、僕好きだよ」
「あたしは負けた気がして嫌なんだよ⁉ ……今に見てろよ。いつかぜってぇ、ボッチを顔真っ赤にさせてやるからな」
「ふふ。果たしてアマガミさんにそれが出来るかな?」
「あたしに二言はねぇ。やると言ったらぜってぇに実現してみせる。それがあたしだ」
バシッ! と力強く手を鳴らしながら宣言するアマガミさん。なんともカッコいいけど、いずれ彼女に照れさせられる可能性がある僕としては複雑な心境だった。
でも、やっぱりどこまでも真っ直ぐなアマガミさんは見ていて惚れ惚れするから。
「期待してるよ。アマガミさん」
「おう。照れた瞬間写真で撮ってやるから覚悟しとけ!」
「それは止めて欲しいかな⁉」
文化祭前夜。
大勢の生徒が胸を弾ませる夜に、僕はもう少しだけ、彼女と穏やかで心地よい時間を共有する。
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