第140話 『 約束 』
「なぁ、これってこんな感じで組み立てておけばいいんだよな」
「うん。完璧だよ~。いつも放課後手伝ってくれてありがと」
「……べつに。ボッチがいるから付き合ってるだけだし」
「……これがヤンキーのツンデレかぁ」
いよいよ今週末に文化祭を控えた教室は、ラストスパートと更に活気づくクラスメイトたちによってその見慣れた風景を変えつつあった。
この文化祭準備期間を経て、アマガミさんもクラスの皆と少しではあるが親睦が深まったように見える。入学当初の彼女と今の彼女を知る僕としては感慨深いばかりだった。
依然として彼女にまだ素っ気なさは残るものの、殆どの女子生徒たちはそれを彼女の愛嬌だと思って接してくれている。
いつか皆がアマガミさんの可愛さに気付いてくれることに胸を馳せながら、僕は彼女の下に寄り、
「お疲れ様アマガミさん。少し休憩しよっか」
「おっ。ありがとなボッチ」
はい、と自販機で買ってきたコーラを渡すと、アマガミさんは「ん」とそれを受け取りながら僕と教室の隅っこまで移動した。
「もう完成間近だね」
「だな。くあぁぁ。ちょっと疲れた」
「ふふっ。本当にお疲れ様」
アマガミさんはこの文化祭準備期間は殆ど教室に居残って作業を手伝っていた。初めは僕がバイトでどうしても手伝えない日は一緒に帰ってたけど、後半は「じゃあたしは作業やってから帰る」と自主的に居残りしていた。その時は流石に僕も驚いたな。
でもやっぱり、それ以上に嬉しさの方が強くて。
「頑張ったアマガミさんには家に帰ったらマッサージしてあげないとね」
「おっ。それはラッキーだな」
「夕飯もスタミナ系料理にしようか」
「っつーことは肉か? 肉だよな。肉以外今日は食べる気しないぞ!」
「分かってますって。唐揚げと生姜焼きだったらどっちがいい?」
「くあぁぁ。なんつー悩ましい二択押し付けてくんだっ」
アマガミさんは数秒ほど眉間に皺を寄せながら悩んで、
「じゃあ唐揚げがいい!」
「ふふ。分かりました。じゃあ、今日の夕飯は唐揚げにしようか」
「いよっし! ボッチの美味いメシ食えるんなら準備手伝った甲斐があるってもんだぜ」
本当に嬉しそうに笑みを溢すアマガミさん。思わず僕も釣られて口許を緩めてしまう。
やっぱりキミの隣が一番居心地がいいと、その可愛い笑顔を見る度に再認識されてしまって。
「ね。アマガミさん。文化祭はどこ回ろうか?」
「はっ。なんだ。あたしと一緒に回るの確定かよ」
「え? 一緒に回らないの?」
失笑するアマガミさんに小首を傾げれば、彼女は「だって」とぎこちなく継いで、
「お前、あたしの他にも友達いんだろ。朝倉とか草摩とか」
「そりゃいるけど。でも、二人は多分それぞれの相手と一緒に回るんじゃないかな」
時間的に余裕があれば四人で回りたいとは思うけど、今年の僕らはきっと、それぞれの意中の相手と文化祭を楽しむのを優先にすると思う。特に、僕と海斗くんは。
「僕はアマガミさんと文化祭楽しみたいなぁ、なんて」
「~~~~っ‼」
少し小悪魔めいた表情で誘うと、アマガミさんの顔がシュボッと火が噴いたように赤くなった。
それからはぁ、と重たいため息が吐かれると、
「……しょーがねーな。暇なボッチに、このあたしが相手してやるよ。有難く思えよな」
「あはは。そこは素直になってくれると嬉しいなぁ」
「う、うるせ!」
照れてそっぽを向いてしまうアマガミさん。
そんな彼女の可愛い反応にくすくすと笑いながら、
「それじゃあ、文化祭は二人で楽しもうね」
「――おう。めちゃくちゃ奢ってもらうからな」
「あはは。いいよ。たくさん奢ってあげる」
「はぁ。そこで引かないのがボッチらしいな」
「僕から一緒に回ろうって誘ったんだもん。そりゃ奢りますよ」
「ふっ。ならボッチが金欠になるくらい食ってやろ」
「そ、それはちょっと勘弁してほしいかな」
頬を引きつらせると、アマガミさんは「冗談だよ」と微笑して僕のおでこにデコピンを入れた。痛くない。揶揄うような強さ。
「な。ボッチ」
「なぁに、アマガミさん」
「あたしも、楽しみだ。ボッチと文化祭回んの。自分らしくねーとは思ってるけどさ。今すげぇわくわくしてる」
「――うん。僕も、すっごくわくわくしてる。きっと、最高の文化祭になるよ」
アマガミさんとだからだろう。こんなにも胸が高揚しているのは。
その高揚が、彼女を少しだけ大胆にさせて。
「……少しだけ。少しだけ、手、繋でいいか?」
「……いいよ。僕もたぶん、今のアマガミさんと同じ気持ちだから」
準備で賑わう教室。その隅っこで、僕らは約束を交わすように密かに手を繋ぎ合った。
【あとがき】
連日レビューをしていただき感謝です。もう土下座を超えて土下寝です。
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