第139話 『 忙しない日々に憩いの時間を 』
週末のリビングでは、もはや習慣された光景が今宵も映し出されていた。
十分にタオルで水分を拭きとられていないまだ湿気の残る金髪。しっかりと手入れすれば燦然と輝くその髪を放っておく目下の少女に肩を落としながら、僕は温風とともに丁寧に櫛で梳いていく。
「アマガミさん。もう狙ってやってるよね?」
「なにがだ?」
怪訝に眉根を寄せながら振り向いたアマガミさんに、僕はジト目を送って、
「直近の週末。アマガミさんいつも髪乾かしてないでしょ」
「さぁ。なんのことか知りませーん」
へらへらと笑いながらそう答えたアマガミさん。やっぱり確信犯だよなぁ。
「僕もアマガミさんの髪乾かすの好きだからいいけどさ、でもできればお風呂出たらすぐに乾かしてほしいな」
「じゃあボッチが風呂に入る前にあたしの髪乾かせばいいじゃん」
「むぅ。そこまで甘やかすつもりはないんだけど?」
彼女の世話好きで甘やかすことは好きだと自覚しているけど、だからといって自堕落させるつもりはない。
「きちんとする所はきちんとして欲しいな」
「でも、あたしが毎日自分で髪乾かしたら、ボッチはあたしの髪触れなくなっちまうぞ?」
それは少し嫌だなぁ。
どうすんだよ? と僕を挑発するように嘲笑を浮かべるヤンキー。
そんな彼女に僕は一度ドライヤーの電源を切ると、警戒心を解いている顔に向かってグッと距離を縮めて、
「――乾かしてる時じゃなきゃ触っちゃダメなの?」
「~~~~っ⁉」
こんな返しは予想していなかったのか、アマガミさんが顔を真っ赤にして反射的に僕から距離を取っていく。
「その顔はズルイ!」
「その顔ってどんな表情?」
「なんかあれだっ……えっちな表情だ!」
余計自分がどんな表情をしているのか分からなくなった。
「べつにそんな顔した覚えはないんだけど?」
「いや嘘だね⁉ あたしを揶揄って楽しんでやがる! 現に今面白がってるだろ!」
「ふふっ。さぁ? それはどうかな」
「確信犯じゃねえか⁉」
くすくすと笑う僕と悔しそうに口を尖らせるアマガミさん。
「さ。髪は乾かし終わったから、もう自由にしていいよ」
ソファにドライヤーを置きながらアマガミさんにそう伝えると、彼女はまだ悔しそうな顔のまま立ち上がった。
そして、僕の隣の席に腰を置いた――かと思えば、乾かし終えた金髪を僕の膝の上に置いてきた。
「怒ってるのに膝枕して欲しいの?」
「怒ってねぇし。ちょっと拗ねてるだけだ。……でも、これは別腹だ」
そう言って鼻を鳴らすアマガミさん。
「ふふ。可愛い」
「うっせ。嫌なら止める」
「僕が嫌がるとでも?」
「――――」
問いかけに答えはない。しかし、代りにこの時間に継続がもたらされた。それが、彼女からの答えのようなものだった。
「頭、撫でていい?」
「髪乾かしてくれた礼だ。好きにしろ」
「それじゃあお言葉に甘えて」
許可を得たことで、僕は優しく、労わるようにアマガミさんの頭を撫で始めた。
「ね、アマガミさん」
「……なんだ?」
「明日はどうしよっか。家でくつろぐ? それともどこか出かける?」
「家でゆっくりしようぜ。ボッチだって家でゆっくりしてぇだろ」
「僕はアマガミさんが出掛けたいって言えばどこにだって着いて行くけど?」
「従順かよ。……ならやっぱ家でごろごろしてぇな」
「――?」
一度、言葉を区切って僕の方に振り返ったアマガミさん。
それから、彼女は僕だけに淡い微笑みを浮かべながら、こう言った。
「だって
「――っ!」
あぁ。
キミって人は。
本当に可愛いなぁ。
キミが可愛すぎて、心が落ち着かないよ。
「それじゃあ、明日は家でゆっくりしようか」
「おう。あ、でも昼飯はちょっと豪華にして欲しいな」
「ふふ。畏まりました。何が食べたい?」
「ボッチが作るものなら何でも美味いから何でもいいや」
「あはは。何でもいいが一番困るんだけど……まぁいっか」
今週の休みも、キミと一緒に。
こんな日々がずっと続けばいいなと思いながら、僕は安らぐアマガミさんと心地よい会話を弾ませていく。
【あとがき】
はい可愛い!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます