第134話 『 アマガミさんとサボり 』
「あれ、アマガミさんどこ行ったんだろ」
ふと周囲を見ると、先ほどまで教室にいたアマガミさんが居なくなっていることに気付く。
文化祭の準備を皆で協力するなんて成長したなぁ、と感慨深く思っていたのだが、もしかしたら作業に飽きちゃって帰ったのかな。
「ねぇ、アマガミさん知らない?」
「天刈? いや知らねぇよ。つかそもそも手伝ってたの?」
「いや教室に残ってくれてたじゃん」
「そこら辺でずっときょろきょろしてたのは目にしたけど、帰ったんじゃない?」
「……そっか。ありがとう」
「ん。委員長も忙しいのに手伝ってくれてありがとうな」
実行委員の男子に訊ねてみるも、素っ気なく返答されてしまった。
やっぱり皆、まだアマガミさんのこと怖がってる……というより敬遠してるよなぁ。
アマガミさんが見た目凶悪なのも理解しているし、本人も迂闊に近づくなオーラ発してるから他のクラスメイトたちが話しかけづらいことは百も承知……なのだが、やっぱり僕としてはもっと双方仲良くなってもらいたい。
そう思案しながら、僕はアマガミさんの散策を続けていく。
「ねぇ、アマガミさん見てないかな?」
「えー。委員長が見てないなら私たち知らないよ。天刈さんいつも委員長と一緒にいるじゃん」
「付き合ってんのかー?」
「あはは。残念ながら付き合ってはないよ」
「付き合ってなくてあの距離感はバグってない?」
「バグってるかな?」
「「超バグってる」」
教室の端っこで作業していた女子三人組に訊ねてみるも、こちらも手掛かりなしだった。
軽い恋愛話をしつつ、僕は手を振って彼女たちから立ち去っていく。
お次はペンキを塗っている女子生徒二人に訊ねてみた。
「ねぇ、アマガミさん知らない?」
「あ、ボッチくん」と作業している手を止めて振り返ったクラスメイトは、
「天刈さんならお使いに行ってくれたよ」
「お使い?」
手がかりを見つけたと同時に疑問符が頭に浮かび上がる。そんな僕に、二人はこくりと頷いてから教えてくれた。
「うん。ペンキが足りなくて困ってたら、天刈さんが買ってきてくれるって頼まれてくれたんだ」
「そうそう。話しかけられた時心臓止まるかと思った~」
あのアマガミさんが、自主的にお使いを? バグったのか?
「ボッチくん? どうしたのボーっとして?」
「あ、あぁ。ごめんなんでもないよ」
予想外の出来事に硬直していると二人に心配されてしまったので、僕は慌てて笑みを浮かべて首を横に振った。
理由はどうであれ、アマガミさんが自主的に人と関わろうとしたのだ。それは、半年間彼女を一番近くで見てきた僕からすれば、言葉にはできないくらい感慨深いことで。
「ね、アマガミさんがどこにお使いの物を買いに行ったか知ってる?」
「あ、ごめんそれは知らない。でも、頼んだのがペンキとガムテープだから、近くのホームセンターじゃないかな」
「そっか。それじゃあそれは直接アマガミさんに聞くよ」
「――え?」
ありがとう、と二人にお礼を告げて立ち去ろうとすると、「ちょっと待って!」と呼び止められた。
「ボッチくん。もしかしてだけど、天刈さん追いかけるの?」
「うん。アマガミさんだけじゃ途中でサボりだすかもしれないからね。監視役は必要でしょ?」
「……ただ一緒にいたいだけじゃなくて?」
揶揄うように問いかけてくるクラスメイトに、僕は小悪魔めいた笑みを浮かべて、
「さぁ。どっちだろうね」
答えをはぐらかした。
答えなんて、皆の前で言えるわけないからね。
それじゃあ、と僕は急ぎ足で二人の前から立ち去って、鞄から必要なものだけを取って教室を出ていく。
――あはは。僕ってやっぱり、アマガミさんのこと大好きだな。
逸る足はそのまま、彼女の下へと僕を運ばせた。
****
「アマガミさーん!」
「おっ。本当に来やがった」
数分後。校門から出て数百メートル先の信号機の前で待っていたアマガミさんを捉えると、僕は大きく手を振った。
それから彼女の下まで追いつくと、
「はぁはぁ。よかった、まだ全然進んでなくて」
「連絡もらった時ビックリしたわ。まさか「僕も一緒にいく!」って言われるとは思わなかったぞ」
「アマガミさんが買い物に
「んだとこら。誰がサボるか……とは言い切れねぇか。あたしならやりそうだな」
苦笑するアマガミさんに僕はくすくすと笑いながら「冗談だよ」と言って、
「本当は僕がアマガミさんと一緒にいたかっただけ。だからサボってきちゃった」
「――っ。そういうの、本当にずるいぞっ!」
「あでっ⁉」
ボンッ! と爆発音が聞こえるほど顔を真っ赤にしたアマガミさん。照れた彼女は恥ずかしさを誤魔化すように僕の腕を思いっ切り殴った。結構痛いやつだった。
それからアマガミさんはやれやれと肩を落として、
「あたしと一緒にいたくて教室抜け出すとか、ボッチぃ、お前とんだワルだな」
ニヤリと、口の端を歪めながら嬉しそうにそう言った。
「えへへ。そうだね。僕はすごく悪い人だ。アマガミさんそんな僕は嫌い?」
「いいや。むしろ気に入ってるね。あたしの為に抜け出したっつぅのうがポイント高けぇ」
「ふふ。ならよかった。アマガミさんの好感度は上げておくに越したことはないからね」
「もうMaxなんだけど?」
「じゃあ上限突破させるよ」
「それはあたしの身がもたないやつ!」
止めろと言われても、こればかりは止められない。
だって、僕はもっとアマガミさんと一緒にいたいんだから。
「さ、お使いの物買いに行こうか」
「――。……さも当然のように手を繋ごうとするな」
「恥ずかしい?」
「ちょーハズイに決まってる。誰かに見られたらどーすんだ」
「その時はその時でいんじゃないかな。僕はアマガミさんと手を繋ぎたいな」
「それは家に帰ってからでもよくないか?」
「僕は
「~~っ! ……やっぱお前はワルだ。底なしのワルだっ」
強請る僕に、アマガミさんは真っ赤にした顔を両手で覆って隠しながら呻く。
けれど、やがて彼女は諦観――あるいは感情に従順に――してゆっくりと手を伸ばした。そして、僕の手を掴んで握った。
「言っとくけど、周りに見られて勘違いされても知らねぇからな」
「あはは。それは困るかもしれないね」
「顔がそう思ってねぇ。くそっ。結局ボッチの思う壺じゃんか」
「ふふ。フィジカル最強のアマガミさんを手懐けられるのは僕だけからね」
「うっせ。今に見てろよ。いつかはあたしがボッチを手懐けてやる」
「期待してるよ」
アマガミさんは悔しそうに口を尖らせる。そんな彼女を見て、僕はくすくすと笑う。
そして僕らは、手を繋ぎながら歩き出した。
「ね、アマガミさん。こうして制服着ながら手繋いでるとさ、なんだか放課後デートしてるみたいじゃない?」
「~~~~っ! 離せ! んなハズイことあたしには無理だ! 今すぐ手離せ!」
「だめだめ。もうアマガミさんの手を握ってしまったので、目的地まで絶対に離しませーん」
「うがああああああ! ボッチに嵌められた――――――――っ!」
夕日の沈む歩道に、羞恥心が爆発した金髪JKヤンキーの絶叫が響き渡ったのだった。
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