第125話 『 朝倉海斗の憂鬱 』
――智景は前に進んでいる。
一方の俺は、何も進んじゃいない。
幼馴染のことを好きだと自覚したくせに、そこから一歩先に踏み出せてすらいない。
……結局、夏休みは幼馴染――琉莉と水族館に一度遊びに行ったきりで、残りは週に一度か二度、琉莉の家に小説を借りる時くらいしか顔を合わせる機会がなかった。
やっぱり俺は、琉莉には『ただ家が隣の幼馴染』としか認識されていないだと否が応でも理解させられてしまって。
「……こっからどうやって進展すりゃいいんだよ」
一人、茜色に染まっていく校庭を見下ろしながら、俺は深いため息をこぼした。
「遊李は白縫と付き合ってて、智景は天刈と上手くやってる。……かたや俺は琉莉と何も上手くいってねー」
自分の周りにこれだけ女子と上手くいっている連中がいると、流石に俺も焦る。なんだか自分だけがこのビッグウェーブに乗り遅れた気分みたいだ。
一人、恋愛の『れ』の字も見えない眼鏡のござるオタクは置いておいて。
「……琉莉ともっと関係進めたい。でも攻め過ぎたら絶対嫌われる」
ただでさえ琉莉の俺に対する好感度パラメーターがどうなってんのか全く分かってないのに、博打に出る気にはなれない。最悪大爆死する。それだけは絶対避けねぇと。
「……琉莉ってどういう男がタイプなんだろ」
ふと脳裏にそんな疑問が降って湧いた。
まぁ、どんな男が好みであれ、俺は絶対タイプじゃねえだろうな。落ち込む。
なら俺は、琉莉の好きなタイプの男にでもなれば少しは好感度が稼げるのだろうか。
「ダメだな。そんなことなんかしても本当に好きになってはもらえない」
好きな相手の為に自分を変える――なんてことは俺にはできない。その考えが我儘で傲慢で身勝手なのは百も承知だ。でも、俺は俺のままで在りたいし、そんな俺を琉莉に好きになってもらいたい。
我ながらに無謀すぎる。
でも。
「飾らない自分を好きになってもらえるって、もう見ちまったからな」
智景と天刈。あの二人は自分を何も変えずに相手を想い合っている。それで未だに付き合ってないのが不思議なくらいだが、とにかく、あの二人の関係は見ていて純粋に羨ましかった。
互いを尊び合い、尊敬し合い、無二の友情を育んでいるあの二人が、俺はただただ羨ましかった。
成りたいと思うのは、あの二人のように。
「その前にまずは自分を意識させないとだよな」
俺はまだ、幼馴染とそんな関係を築けるスタート地点すら立てていない。いやほんと、俺の幼馴染が難攻不落過ぎる。
「この文化祭でどうにか距離をぐっと縮めたいっ。……当日一緒に回ってくんねぇかな」
それはワンチャンありそうだが、しかしそれだけは決定打には到底成り得ないのは重々承知だ。
この鬼畜ゲーに挑んでる感覚。本当に苦しくて放り投げたくなる。でも、止める訳にはいかない。止めたら、バッドエンドの結末しか残ってない。
例え結果がどうであれ、一度やると決めたなら、やり切らなきゃならないんだ。
「文化祭の前に、もっと琉莉と関わっていかないとな」
ギャルゲーでもビッグイベントの前に好感度を上げるのは重要だもんな。ギャルゲーなんて智景の家に三人で泊まった時しかやったことねぇけど。
でも、そういう所はゲームも現実も変わらない。
慎重に、しかし時に大胆に攻めていくことが、ヒロインと結ばれる攻略の鍵。
そうと決まればやることは一つ。
「明日からまた、琉莉と一緒に帰ろ」
きっとこの小さな積み重ねが未来に繋がることを信じて、俺は夕日に向かって決意を改める。
――それでも現実は時に無情だと、この時の俺は知る由もなかった。
【あとがき】
文化祭はボッチとアマガミさん。海斗と琉莉の4人がメインで物語が進んでいきます。頑張れ皆。皆さんもペンライトをお忘れずに(ねぇよww)
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