第124話 『 帆織智景と朝倉海斗 』
「はぁ。文化祭とかだりぃ」
「おい天刈。なんでさも当然のように男子コートに入って来てんだよ。お前女子なんだから白縫のとこいけ」
「あたしがどこにいようとあたしの勝手だろうが。あとお前と話してねぇ。あたしはボッチと話してんだ」
「……あはは。まぁまぁ、二人とも落ち着いて」
午後の体育にて。僕の下にサボりに来たアマガミさんと海斗くんが睨み合っていた。
相変わらずこの二人は犬猿の仲なようで(それでも以前と比べれば仲良くなったように見える)、バチバチに火花を散らす二人を僕は苦笑を浮かべながら仲裁する。
「いいじゃない少しくらい移動しても。今はアマガミさんのチームの試合じゃないんだから」
「ほれ見たことか」
「ぐぬぬ。智景が甘やかすからコイツが調子に乗るんだぞっ!」
「僕はいつだってアマガミさんの味方だから。でもアマガミさん、試合になったらちゃんと出ないとダメだよ?」
「うーい」
アマガミさんを甘やかしつつも、けれど然るべきところはしっかりと正す。それが僕のやり方だ。
そんな僕にアマガミさんは不服そうに返事した。
「はぁ。お前ほんとすげぇな。よくこんなヤンキー手懐けられるわ。素直に感服する」
「手懐けてるつもりなんかないよ。アマガミさんがいい子なだけ」
「いや全然コイツいい子じゃねえから。智景の前だと猫被ってるだけだから」
「んだとコラ。誰も猫被ってなんかねえよ。ボッチの言う事聞くのは当たり前だろうがぶっ飛ばすぞこのキザ野郎」
「ほら見ろ! この口の悪さ! そして人を殺しそうな目つき! 智景、やはりお前はコイツに騙されてる!」
「口の悪さもアマガミさんの個性だし目つきだって鋭くてカッコいいじゃない。僕はアマガミさんのこの目、好きだよ?」
「――おおぅ。そっか。そうなのか。……へへっ」
「あの天刈の殺意を一瞬で朗らかな空気に変えただと⁉」
「あぁ⁉ 誰も朗らかになんかなってねぇよシバくぞ!」
「お前は本当に智景以外に懐かねぇな!」
当たり前だボケェ! と全力で叫ぶアマガミさん。ある意味では漫才にも見える二人の口論を僕は平和だなぁ、と微笑みながら見ていた。
やはりアマガミさんが他の人たちと仲良くなる未来はまだ先かもしれない。でも、以前に比べたらこうしてクラスメイトと話せているので、少しずつ進展いるのも確かだ。
二人の喧嘩漫才を見守っていると、女子コートの方から白縫さんがアマガミさんに手を振りながら呼んでいた。おそらくもうすぐ試合が始まるのだろう。
アマガミさんは白縫さんに手を振り返すと、気だるそうに立ち上がって女子コートに戻っていった。
「じゃあちょっくら行ってくるわ」
「うん行ってらっしゃい」
お互いに手を振る。
それから僕から離れていくアマガミさん――その後ろ姿を見届ける僕はぽつりと、呟くように海斗くんに言った。
「――海斗くん。僕ね、アマガミさんに告白しようと思うんだ。文化祭で」
「――――」
僕の言葉に海斗くんは黙った。否定もしれなければ肯定でもなさそうな反応に、僕はわずかに戸惑う。
「反対しないの?」
「……もう好きやれって感じ。そら智景が決めた事なら応援したいけど、でもやっぱ複雑さは残ってるよ」
「アマガミさんはいい人だよ」
「不本意ながら知ってるよ。天刈が智景に対して対等でありたいって気持ち見たからな。そういう真っ直ぐさは見習わねぇとなって思った。負けた気分だよ」
「あはは。だよねぇ。アマガミさんはいつだって真っ直ぐだ」
誰にも媚びへつらうことなく我が道を行く彼女。その姿に僕は憧れて、惹かれて、そして惚れた。
「まぁ、だからさ。お前の恋愛に関してこれ以上とやかく言うつもりねぇよ。遊李と誠二と同じで、お前の恋の行く末を見守るとするわ」
「あはは。そこはアドバイスとかしてくれると嬉しいんだけど」
「バカ言え。俺だって恋愛初心者なんだぞ。アドバイスなんてできるわけねぇ」
女子は何考えてるか全然分かんねぇ、とぼやく海斗くんに、僕も同意見だと苦笑。
「――海斗ー。委員長ー。次お前らのチームの番だぞー」
「おっ。もうそんな時間か。うし、行くか」
「だね」
クラスメイトに呼ばれて、僕と海斗くんはよっと立ち上がる。
「……俺も、頑張らねぇとな」
海斗がぽつりと呟いた言葉を、僕は聞き逃しはしなかった。
――頑張ってね。
僕も彼も、恋愛初心者。
似た者同士。お互いを鼓舞し合う。
お互いに、それぞれの恋慕を抱く女性と結ばれる未来を願って――。
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