第123話 『 帆織智景と覚悟 』

 ――とある平日の放課後。


「ところでボッチたちのクラスは文化祭何やんの?」

「まだ決まってないよ」


 僕は遊李くんと共にバーガーショップに来ていた。

 会話の内容は再来月に開かれる文化祭について。


「というかまだ何も決まってないよ。まぁ、少なからず今週末か来週には実行委員長なり何やるかなり決めるとは思うけどね」

「そっかぁ。うちのクラスはもう実行委員決まって、今は何やるか絶賛大揉め中ぅ」

「あはは。けど、僕らは一年生だから、料理系の屋台を開ける優先順位は低いはずだよね?」

「かもなー。噂だと一年生は五クラス中一枠しかもらえないらしいし」

「となると、どのクラスがその枠を手に入れるか争奪戦になりそうだね」

「俺は楽できればなんでもいいけどね。萌佳と文化祭回ること優先したいし」

「ふふ。二人とも仲良さそうで何よりだよ」

「それはもうラブラブですとも。……で、そういうボッチの方はどうなの?」


 話題は文化祭から僕とアマガミさんの進展状況に移り変わった。

 ニヤニヤと邪な笑みを浮かべる遊李くん。そんな彼に向かって、僕はようやく自覚したアマガミさんへの恋情を告げた。


「その事で報告があるんだけど。僕ね。ようやく分かったんだ」

「分かったって何を?」

「アマガミさんを好きだってこと」

「……へぇ」


 勿論。それは友達としてではなく、異性として彼女に好意を抱いていること。

 それを告げると、遊李は邪な笑みを微笑みへと変えて。


「やっと自覚しましたか。ボッチ氏」

「なんで誠二くん口調なのさ。……うん。やっと、この気持ちの正体を知れました」


 僕はこくりと、強く頷いた。


「今思えば、僕は最初からアマガミさんの事が好きだったのかもしれないね」

「まぁ、積極的に絡んでいった時点で自覚してないけどそういうのはあったんだろうな」

「一目惚れってやつかな」

「ゾッコンだねぇ」

「うん。彼女こと以外考えられないくらいには、彼女のことを好きだよ。あはは。あれだね。自分で言ってて思うけどちょっとキモイね」

「いいんじゃん。恋ってそういうものだと思うよ。俺だって萌佳に惹かれたのは運命だと思ってるし。今は何事も萌佳優先だもん」

「そっか。遊李くんがそう肯定してくれるなら間違ってないのかもしれないね」

「いいのいいの。自分たちさえよければ何でも。周囲の反応に気遣って冷めた関係になるより、相手に好きって伝えられた方が円満な関係築けるってものよ」

「あはは。遊李くんはもう少し周囲に気を遣った方がいいかもしれないと思うけど」


 僕らの前でも当たり前のように白縫さんとイチャイチャし始めるからなぁ、遊李くんは。

 遊李くんは僕からの忠告を適当に受け取りつつ、「でさ」とポテトを摘みながら尋ねてきた。


「好きって気づいたなら、当然告白はするんだよね?」

「したいとは思ってるよ」

「なにその曖昧な回答。てっきりすぐに告白すると思ったけど」


 意外だと目を瞬かせる遊李くんに、僕は苦笑しながら応えた。


「ちょっと色々な事情があってさ。すぐに告白するのは難しいかも。仮にしたとしても、純粋な好意での返事はもらえない気がしてさ」

「ふーん。一筋縄ではいかないって感じ?」

「うん。そんな感じ」


 遊李くんにはまだ、アマガミさんが僕の家で居候していることを報告していない。

 遊李くんは訝しげに眉根を寄せつつも、深くは言及しないでくれた。


「ま、そこら辺の本人たちに任せるとして。……でも、ボッチは天刈さんに告白したいんでしょ?」

「それは勿論。――だから、文化祭の時に告白しようとは思ってる」

「なんだ。ちゃんといつ告白するか決めてるんだ」

 驚きながらコーラを啜る遊李くんに、僕はこくりと頷く。

「いつまでもこのままではいられないからね。区切りはちゃんと着けないと」

「そういうボッチの男らしい所、俺好きよ。男としてめっちゃ尊敬する」

「あはは。この恋慕に気付くまでに時間掛かりすぎちゃったけどね」


 でも、気付いたなら、やはりいつかはこの関係に終止符を打たなきゃいけない。

 その時、僕とアマガミさんの関係が壊れてしまったとしても。

 もう、友達という関係では満足できない自分がいるから。


「ちゃんと、伝えるよ。アマガミさんに。僕の気持ちを。受け止めてもらえるかは別としてさ」

「いや割と勝率高めだと思うけどね」

「そうかな。そうだといいけど」

「でも、そういうことなら親友として応援しないといけないな」

「ふふ。ありがとう。でも出来る限り手は出さずに見守ってて欲しいな。これは、僕が頑張らないと意味がないことだと思うから」

「相変わらず真っ直ぐで意思が強いなぁボッチは。よっ。ザ・主人公!」

「主人公なんて。僕はただの一般人に過ぎないよ。普通の人間で、普通に人を好きになって。でも僕の中で譲りたくないものがあるだけの凡人さ」


 僕はただ、悔いを残したくないだけ。

 僕とアマガミさんの物語がどんな結末が迎えようとも、その時笑っていられるように。

 だから、文化祭までの残り数か月。全力で彼女に好きになってもらえるように頑張る。

 僕のことを友達以上に思ってもらえるように。

 彼女の隣に立つに相応しい男として見られるように。

 そんな決意を立てる僕を、遊李くんは羨望するように見つめていて。


「――頑張れよボッチ。どんな結果になろうと、俺はお前の味方だからな」

「うん。ありがとう。遊李くん」


 中学からの親友にエールをもらった僕は、しっかりと胸に受け止めて強く頷いた。

 覚悟はもう出来ていて。悔いの残らぬように万全を期す。

 僕にとっては、この二ヵ月が人生最大の勝負と言っていいだろう。

 果たして、僕はアマガミさんと恋人になれるかどうか。


「(僕のことを好きになってもらえるよう、これからもっと攻めていかないとっ)」


 そうして、波乱の文化祭が幕を開けていく――。




【あとがき】

文化祭編は完結するまで毎日投稿していく予定です。

でもまだ半分くらいしか書き終わってなーい⁉ どどど、どーすんのぉ?

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