第119話 『 お前に贈る誕生日プレゼント 』

「ご馳走様でした」


 アマガミさんが用意してくれた夕飯とケーキを食べ終えて、僕は彼女に感謝するように手を合わせる。


「すっごく美味しかったよ、アマガミさん!」

「べつにあたしが作ったわけじゃねえし、そんな褒めても何も出ねーよ」


 アマガミさんは照れくさそうにそっぽを向いた。

 そんな彼女の微笑ましい一面につい微笑みを浮かべてしまいながら、


「本当にありがとうね。こんなに素敵な誕生日を僕にくれて」

「大袈裟。ふたりでメシ食っただけだろ」

「それでも僕にとっては十分すぎるくらいだよ」


 好きな人に誕生日を祝ってもらえる、その事実がこれほどまでに胸を満たすものだとは思わなかった。

 胸の中に在り続ける確かな温もり。その悦に浸っていると、アマガミさんがそっぽを向いたまま僕の袖を引っ張ってきた。


「あのさ、まだ……あるんだけど」

「――ぇ?」

「だからっ……ボッチに渡したいものが、あんだよ」


 目を瞬かせる僕に、アマガミさんは一度袖を引っ張っていた手を離すと、テーブルの下に手を入れた。

 おそらくは既に用意していたのであろう〝それ〟は、緊張で震えている彼女から僕に差し出さられるように取り出され――


「――ん」


 僕は、アマガミさんと〝それ〟を交互に見やった。


「え、え。これって、もしかして……」

「そうだよ。……誕生日プレゼント」


 ぽつりと、呟くようにして〝それ〟の正体を明かしたアマガミさん。

 まさかのサプライズに、僕は思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。


「いいの⁉」

「おう。有難く受け取れよ」

「うわぁ、すっごく嬉しいな。――本当にありがとう。アマガミさん」

「まだ中身も見てねえのに喜び過ぎだろ」


 アマガミさんは喜ぶ僕を見て苦笑。

 それから僕は、彼女から贈られた誕生日プレゼントを大事に受け取った。


「ねねっ、早速開けてもいいかなっ」

「もうボッチのなんだから好きにしろよ」


 聞くと、アマガミさんはそっぽを向きながら素っ気なく言った。

 ならお言葉に甘えて、と僕は高揚を抑えきれないまま包装紙を剥していく。


「大きさ的にフィギュアっぽいね」

「ふっ。見て驚きのあまり腰ぬかすなよ」

「自信満々だね」

「このあたしが本気で選んだんだ。そりゃ自信あるに決まってるだろ」


 アマガミさんから貰うものならどんなものでも嬉しいのに。

 そんなことを胸裏で呟きながら包装紙を剥し終えた僕は、それを見た瞬間に思わず声を失った。

 数秒後経ってようやく、僕はそれを見つめながらプレゼントの中身を呟いた。


「――ヘッドホンだ」


 しかもそれはただのヘッドホンじゃない。ゲーム用に特別にチューンナップされた、いわるゆゲーミングヘッドホンと呼ばれるものだった。さらに、その最新型だった。

 驚きのあまり硬直する僕に、アマガミさんが緊張からかわずかに頬を朱に染めながら尋ねてくる。


「へへっ。どうだボッチ。嬉しいか?」

「う、嬉しいなんてもんじゃないよ。え、え。というか、なんでアマガミさん、僕がヘッドホン欲しいって分かったの⁉ 僕、アマガミさんに話してたっけ⁉」

「ふふん。このあたしに掛かればボッチの考えなんて全部お見通しだっつーの……ってのは冗談で、色々と聞いて回ったんだよ」

「僕なんかの為にそんな……」

「おい。僕なんか、じゃねえだろ。ボッチはあたしの大事な友達ダチだ。なら、そんな大事な友達ダチの誕生日くらい、ちゃんとしたもの贈りてぇだろ。それに、ボッチにはこの家含めて色々と世話になってるからな。こんなんじゃ足りないくらいだ」


 アマガミさんはそういうけれど、僕には十分すぎるくらい、最高の誕生日プレゼントだった。

 アマガミさんが僕の為に真剣に選んでくれた。その事実だけで、胸が張り裂けるほどに嬉しくなる。

 僕は彼女から贈られた誕生日プレゼントをぎゅっと大切に抱えながら。


「ありがとう。本当に、ありがとう。アマガミさん。これ、大切に使わせてもらうね」

「へへっ。おう。ボッチに喜んでもらえたなら何よりだ」


 向けられる破顔一笑を見つめながら、僕はより一層深く、彼女への恋慕と感謝を募らせた。


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