第117話 『 切り札は〝ござるオタク〟 』
「あ――――――っ! ダメだ全然決まんねぇ!」
引き続き屋上にて。あたしは絶賛ボッチへの誕生日プレゼントに何を贈るか苦悩していた。
「考えれば考えるほど何贈ればいいのか分からなくなってきた⁉」
「もうお前が鼻かんだティッシュでもあげろよ」
「いよいよ匙投げだしやがったなてめぇ。真剣に考えなきゃぶっ飛ばすつっただろ」
「パラハラ上司にもほどがあんだろ。そもそも無理難題が過ぎんだよ。ボッチが喜んでお前も喜べるものとか、そんなものこの世に存在しねぇよ」
「いや絶対あるわ。あたしはぜってー諦めねぇからな」
こんな中途半端で終われるかっての。あたしはボッチに最高の誕生日プレゼントやるんだ。
「もうこうなったらボッチに直接聞いた方が早くない?」
「いやダメだ。あたしは不器用だからそんなことしたら絶対すぐ勘付かれる」
「ボッチくん一部を除いては鋭いもんね」
「? 一部ってなんだ?」
「ふふっ。さぁ、なんでしょうか」
白縫の言葉に怪訝に感じて尋ねてたが、不快な笑みにはぐらかされてしまった。
喉に小骨がつっかえたような違和感を覚えていると、突然、
「おい、天刈」
「なんだ……ってあぶねぇな。急にスマホ投げてくんな。叩き落すぞ」
「叩き落すなよ!」
何の前触れもなく朝倉があたしに向かって自分のスマホ投げてきて、慌ててキャッチ。
朝倉は「ナイスキャッチ」と親指を立てると、気だるげな瞳を向けながらあたしに命令してきた。
「そのまま電話出ろ」
「は? 電話? 誰と?」
「誠二」
「誰だソイツ?」
「俺たちのゲーム仲間の丸眼鏡陰キャオタクだよ」
眉根を寄せるあたしに、海斗は大きな欠伸を掻きながら、
「たぶん俺らだけじゃもう手詰まりだ。それに、誠二ならたぶんお前の理想のプレゼント思い当たる可能性があるぞ」
「意味分かんねぇ。なんでその丸眼鏡陰キャオタクがあたしの欲しいもの分かるんだよ」
「ボッチと趣味が似てるから」
朝倉の言葉に草摩が「なるほどね」と声を上げながら頷いた。
「たしかに誠二なら分かるかもね。ゲームしてる時もたまにボッチと欲しいものについて話してるの聞くし」
「超重要人物じゃねえか⁉ なんでコイツのこともっと早く教えてくれなかったんだよ」
「この場に居ないから忘れてたんだよ。いいから出るならさっさと出ろよ」
「急かすな。分かってるつの」
フェンスにぐったりと背を預ける朝倉に促されながら、あたしはスマホを耳に充てた。
そして数秒後、
『……もしもし海斗氏? 拙者に何か用でござるか……』
「朝倉じゃねえ。あたしだ」
『その声はもしかして天刈愛美⁉ なぜ海斗氏のスマホから貴殿の声が……は⁉ まさか海斗氏を拉致し……』
「んな訳ねぇだろ。普通にコイツのスマホ借りただけっつの」
動揺するござるオタクにあたしがどうして朝倉のスマホを借りて電話しているのか端的に説明すると、ややぎこちない声が返って来る。
『なるほど。一通り状況は把握したでござる。確かに来週はもうボッチ氏の誕生日でござるな』
「あぁ。そこでお前に、どんなプレゼントならボッチが喜んでくれるか聞きたくてな」
『正直ご期待に添えられるかは不安でござるが、一つほどボッチ氏が貰って喜ぶものなら思い当たる節があるでござるよ』
「マジか! なんだ! すぐ教えてくれ!」
その言葉だけで既に期待できるもんだ。
テンションが上がったあたしは急かすように促すと、ござるオタクは一拍間を置いてから告げた。
『――ヘッドホンでござる』
「ヘッドホン?」
復唱するあたしにござるオタクは『そうでござる』と肯定すると説明してくれた。
『正確に言えば『ゲーミングヘッドホン』でござるな。音質やマイクの性能がゲームに特化されたもので、端的にいえばゲームをより快適に遊べるものでござる』
「確かにそう聞くとボッチが欲しそうなものだな」
『えぇ。しかもどうやら、ボッチ氏のヘッドホンは最近調子があまり良くないようで、近々買い替えようか悩んでいるみたいでござる』
「むちゃくちゃグッドタイミングじゃねえか!」
まさに誕生日プレゼントにもってこいのものを教えてくれたござるオタク。
それなら確かにボッチが喜びそうだし、何よりあたしも優越感に浸れそうだ。ボッチがあたしの贈ったヘッドホンを付けてゲームする、うん。悪くねぇ。むしろ良い。
……決まりだな。
「へへっ。ありがとなオタク。それに決めるわ」
『いえお気になさらず。値段はピンからキリまでありますが、学生の財布事情でもギリギリ許容範囲内だと思うでござるよ』
「いくらかは気にしねぇよ。ボッチに最高のプレゼント贈りたいからな」
『ではその気概に敬意を証して、後で海斗氏伝にいくかオススメヘッドホンをピックアップしておくでござるよ』
「マジかよ。なんか悪ぃな。世話になっちまって」
『なに。これも天刈氏のボッチ氏への想いに応えたまででござるよ』
ござるオタクにそう言われて、なんだか照れくさくなるあたし。
ぽりぽりと頬を掻きながら、
「今回はマジで助かった。朝倉とか草摩よりもお前が一番頼りになったわ」
『ははっ。誰かにそう褒められたのはボッチ氏以来でござるよ』
「この借りはいつか必ず返すからな」
『ほぉ。それは大変強力なカードを手に入れたでござるな。では、何かあれば頼らせてもらうでござる』
「おう。マジでサンキューなオタク」
そんなあたしたちのやり取りを朝倉たちは意外だとでも言いたげに見ていて。
「……オタクに優しいヤンキーは実在したのか」
「あぁ! 誰がオタクに優しいヤンキーだコラ! バカなこと言ってっとシバくぞ!」
「やだもう超怖いんだけどこのヤンキー。なんでこんな狂犬を智景は飼い慣らせるんだよ。……あ、おいスマホ投げんな! 壊れたらどーすんだよ!」
また意味分からない事を呟く朝倉。あたしは「じゃあな」とござるオタクに別れを告げて電話を切るとそのまま借りていたスマホを持ち主に向かってぶん投げた。
それからあたしはぐっと両脇を引き締めると、
「うおっし。ボッチに最高の誕生日プレゼント送ってやるぞ!」
「頑張ってね、天刈さん。あ、ちなみにあたしの誕生日は――」
「なにさらっと自分も誕生日プレゼントせがもうとしてんだ。お前にはやらねぇぞ」
「そんなぁ⁉」
白縫に出鼻を挫かれつつも、あたしはやる気を漲らせて、ボッチの誕生日に臨むのだった――。
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