第116話 『 プレゼントはあ・た・し? 』
「お前らに今回手伝ってもらいたいのは――もう分かってると思うが、来週はボッチの誕生日がある。そこで、あたしはアイツに誕生日プレゼントを渡したい」
「はぁぁ。羨ましいなぁ、ボッチくん」
妬みを含めた白縫のボヤキは無視しつつ、
「そこで、心の底から不本意ではあるが……ボッチが喜びそうなプレゼントをあたしに教えて欲しい」
「ボッチくんに誕プレを渡す天刈さん。……尊いっ!」
「萌佳、天刈さん絡むと性格めちゃくちゃ変わるね」
「おいっ、誰かソイツつまみ出せ! うるさくて話が進まねぇ!」
「どーどー。萌佳は俺がお口チャックさせときますから。それよりも意外……でもないか。天刈さん、ボッチに誕プレ渡す気だったんだ」
「当たり前だろ。アイツにはもう一生返せないくらいの恩があるんだ。せめてちょっとでもいいから、こういう時に返していかねーと」
「たぶんボッチは好きでやってることだから気にしなくていいのに」
「そーいう訳にはいかねぇ。あたしは、借りは絶対返す性質でな。……つか、それ抜きにしてもボッチには何か贈りてぇんだよ」
「……なるほどねぇ。どうりで智景が好きになるわけだ」
「あぁ? なんだ人のことジッと見てきやがって。見るならそこのカノジョにしときな」
草摩は「はいはい」と適当に流しながら白縫の頭を撫でてた。それに満更でもなさそうに微笑む白縫。……コイツら、人目を気にせずイチャコラするタイプか。しんど。
あたしがイチャイチャしているバカップルに頬を引きつらせていると、朝倉が「ちょっといいか」と手を挙げた。
「お前が智景に誕プレ渡したいのは分かった。でも、アイツならたぶん、お前に何貰っても喜ぶと思うぞ?」
「だろうな」
「分かり切られてんのもそれはそれで腹立つな」
朝倉の意味分かんねぇ舌打ちは無視しつつ、
「でも、だからこそちゃんと選ばなきゃ意味がねぇ。妥協したものなんか渡したらあたしが後悔する。アイツに、あたしの誕生日プレゼントが一番だって思ってもらえるくらいのものを贈りたい」
ボッチはこんなあたしを見捨てないで傍に居てくれる。ろくでもないあたしを無償で甘やかしてくれる。
あたしに居場所をくれたボッチに、せめて今できる精一杯の感謝を伝えたい。
そんなあたしのその想いを聞いた朝倉たちは、いつの間にか真剣な顔になっていて。
そして、本気になって一緒に考えてくれた。
「ふふっ。なら、ボッチくんに最高の誕生日プレゼントをあげないとね!」
「ああ。……いやでも待て、あんまり高価なものをあげると返って引かれる気がする⁉」
あくまであたしとボッチは友達――いや、それ以上の関係である自覚はあるけど、かといってあまりに高いものをあげたら遠慮っつーか気を遣わせちまいそうだ。
まぁ、その為に朝倉を引っ張り出したんだけど。
「おい朝倉。お前毎年ボッチの誕生日に何あげてたんだよ」
コイツと草摩は確か中学の頃からボッチと親友だったはず。なら誕生日プレゼトも渡してるだろうと思って聞いた訳だが、予想通り朝倉たちは毎年ボッチに誕生日プレゼントを贈っていた。
「何って……特に拘って贈ってたわけじゃねえよ。個人で贈る年もあれば俺と遊李、誠二の三人で合わせて贈ったこともあるしな。ゲームソフトだったりプラモだったりフィギュアだったり」
「今になって思い返すと毎年結構バラバラだったよなー」
「智景は多趣味だからな。その分、何贈っても心の底から喜ばれてたけど」
ふむ。全然参考になんねぇな。
ボッチが多趣味なんてことあたしだって知ってる。もう数え切れないくらいアイツの部屋に入り浸ってるからな。
「お前だって智景と仲いいならそれくらい既に把握済みだろ」
「あぁ。お前らの言ったものは一通りリストに挙げてある。しかし、それだとパッとしねぇーつか……」
「他と大差ないから嫌だ?」
「それだ」
あたしの考えを見透かしたように言った草摩。あたしは正解と指を鳴らした。
ボッチが好きなものを贈るのが妥当なんだけど、それだと他の連中と同じで特別感が出ねぇ。何度も言ってるけど、あたしは特別がいい。ボッチの一番がいい。それ以外は論外だ。
「うーん。でもそうなると結構難しくないかな。ボッチくんの趣味の範囲、かつ他の人たちとは明確に違う何かでしょ。……あっ、香水とかは?」
「少し趣味とは離れるけどいい案じゃん。智景も年頃だし、そういうお洒落させるのは悪くないんじゃないか。何なら俺がそれにしたいくらいだわ」
流石は白縫だ。如何にも女らしいチョイス。これまで女と呼べるかは微妙なあたしにはなかった感性で一つ候補をくれた。でも、香水か。
「ダメだな。パッとしない。ボッチは香水よりも柔軟剤の匂いの方がいいしそっちの方があたしも落ち着く」
「なんでお前が落ち着く前提なんだよ。これ智景に送る誕プレの話だろ」
「ボッチが喜ぶかつあたしが優越感に浸る為の会議だ」
「お前の私情マシマシじゃねえか! つか絶対に後者の方に意識が傾いてんだろお前!」
「誕プレなんてだいたいそんなもんだろ」
「智景への感謝どこいった⁉」
確かにボッチには感謝してるし、大前提はそれだ。でも、あたしはあたしが贈ったものを身に付けてるボッチが見てぇ。コイツはあたしのものだって優越感に浸りたい。
「そうなると装飾品がいいのかな。でも、ボッチくんって普段ネックレスとか指輪付けないよね?」
「興味はあるみたいだけど必要だと感じてないみたいよ。前に俺が聞いた時、「カッコいいけど付ける機会がないよね」って言ってた」
「ボッチくんが指輪かぁ……ぷぷっ。想像したらちょっと笑えるかも」
「くははっ! ボッチに指輪とか、絶対似合わねぇ」
「……白縫はまだしも、お前が笑っちゃダメだろ」
腹を抱えて笑うあたしを見て朝倉が頬を引きつらせていた。コイツもボッチのそんな姿想像したらぜってぇ笑うはずだけどな。
あたしは目尻に溜まった涙を拭きつつ、
「装飾品はアリだが、でもそれは最終手段だな。ここから先いい案が出なかったらピアス贈る」
「おっ。あげるものはもう決まってるんだ」
「あぁ。前にボッチと約束したんだよ。アイツがピアス付けるその時は、あたしが買ってやるってな」
「まぁ。すっごいロマンチック! ね、ゆーくん。私たちもそれやろうよ!」
「いいね。なら今度、お揃いのピアス買いに行くか」
「おい! 人のアイディア勝手にパクんな⁉」
白縫のせいで話が若干されたが、それを朝倉が強引に戻す。
「バカップルのイチャイチャはスルーして……お前本当に何贈るつもりだよ? あれもダメこれもダメじゃ、いつまで経っても決まんねぇぞ?」
「んなのは分かってるっつの! ……でも、これだ! ってピンとくるやつがねぇんだよ」
「じゃあもうお前やれよ。ボッチ喜んで貰ってくれるぞ」
「~~~~っ⁉ 急に何アホな事抜かしてんだてめぇ! マジで殺すぞ!」
「ぐえええええええ! マジで殺される⁉」
バカなこと言い出した朝倉の首をあたしは思いっ切り締めた。んな死ぬほど恥ずい真似できる訳ねえだろうがッ!
それから白縫と草摩に全力で引き剥がされたあたし。朝倉はぜぇぜぇ、と荒い呼吸を繰り返しながらあたしを睨んで、
「お前っ、マジで死ぬところだったじゃねえか!」
「うるせえバカが! 少しは真面目に考えやがれ! 次アホなこと言ったらぶっ飛ばすからな!」
「……ちっくしょー。だからこの女とできるだけ関わりたくないんだよ!」
「どーどー。まぁ落ち着きましょうよ天刈さん」
「そうだよぉ。あんな爽やかイケメンぶった非モテ男子の戯言なんて気にしちゃだーめ」
「おいっ白縫! なんで俺にそんな辛辣なんだよ⁉」
「天刈さんの敵は必然と私の敵でもあるから。べーだっ」
「ちなみに、俺はそんな萌佳の味方。悪いね海斗」
「この場に俺の味方が一人もいねぇ⁉」
完全にアウェーな状況に立たされた男の惨めな嘆きを聞きながら、あたしは滑稽だなと邪悪な笑みを浮かべる。
しかし、あたしのことを未だに抑えている後ろのカップルは完全にあたしの味方という訳でもなく、
「……でも、それはそれで意外とアリじゃない?」
「だね。ボッチなら「いいの⁉」って死ぬほど喜びそうだよ」
「お前らどっちの味方だよ⁉ あたしはそんな死ぬほど恥ずかしいことぜってぇしないからな⁉」
ボッチへ贈る誕生日プレゼント。それは中々決まらず、難航していくのだった
【あとがき】
久しぶりの更新です。リアルが忙しいのと今書いてるシーンに集中したくて遅れちゃいました。たぶんここからいつも通り更新していくと思います。
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