第111話 『 アマガミさんと寝ぼけ 』
――8月が明け、9月に入った。
今日から新学期を迎える僕には、登校前に絶対にやらなければならない大切なことがあった。
それは――
「アマガミさん! アマガミさん! 今日から新学期だよ!」
「……んあー? ……んだよ朝からうるせぇ。まだ夏休みだろが」
「夏休みは昨日で終わってるから⁉ 早く起きないと遅刻しちゃうよ⁉」
そう。我が家の居候娘こと、アマガミさんを起こさなければならなかった。
さっきから何度も体を揺らして起こそうと試みているのだが、しかし全然起きる様子がない。
「……今、何時だぁ?」
「何時って。朝7時だけど」
「じゃあ大丈夫だ。あと2時間は寝られる」
「そんな寝られるわけないでしょ⁉ 遅刻確定だよ! ほらっ、朝ごはん用意してるんだから起きて!」
「……うるせー。学校は逃げても朝ごはんは逃げねぇよ」
「何言ってるのさ⁉ 寝ぼけてないで早く起きる!」
「やだぁ。もっと寝るぅ」
「――っ⁉」
無理矢理体を起こした瞬間。駄々をこねる子供みたいに僕に抱きついてきたアマガミさん。
咄嗟の事に硬直してしまった僕に、アマガミさんはお構いなくさらにぎゅっと抱きしめてくる。
「ふへへ。ボッチの匂いだぁ。あたしの好きな匂いぃ。食っちまうぞぉ」
どうやら相当寝ぼけているらしい。普段の彼女からは想像できない気の抜けた有り様に、僕はただただその可愛さに悶絶する。
「(ダメだ! アマガミさんのこと好きだって自覚してから、毎日可愛いが更新されていく!)」
こういう無防備な一面が魅せるギャップがたまらん。オタク心にも男心のどちらにもドスライクで、僕の心臓が朝から盛大に悲鳴を上げていた。
それでもどうにか意識を保ちつつ、
「あ、アマガミさん。ほら、抱きついたままでいいからさ。一緒に下に降りよう?」
「えぇ。やだぁ。このまま二人で寝よーぜぇ」
「ダメだよ。二度寝したら学校に間に合わない。……アマガミさん?」
「……すぅ。すぅ」
「寝ないでよ⁉」
「寝て、ない。目、つむってるだけ」
「いやもうそれ寝てるから! ほら、早く起きて!」
そろそろ本格的に目覚めさせないとマズイ時間になってきた。
アマガミさんの背中を何度か強く叩くと、耳元で不快そうに喉を鳴らす音が聞こえてきた。
「……んだよいってーな。朝から誰だ? あたしを叩くなんて大層な真似するやつは……」
「あ、やっと起きた」
「へ?」
目を擦りながら舌打ちするアマガミさんを見て、僕は彼女が完全に意識を覚醒したことに気付く。
そうして僕がほっと安堵の息を吐いている横目で、アマガミさんはこの状況が飲み込めていないように目を瞬かせていて。
「なんでボッチがあたしの部屋に? ……ってうおお⁉ なんであたし、ボッチに抱きついてたんだ⁉」
「やっぱり寝ぼけてたんだ。もう、大変だったんだからね。アマガミさん起こすの」
「それは悪ぃ……じゃなくて! 早く離れろよ!」
バッと勢いよく背中に回していた腕を解くと、そのまま数メートルほど僕から距離を取っていくアマガミさん。
そして朝から顔を真っ赤にするアマガミさんに、僕はニコニコと微笑みながら、
「寝ぼけたアマガミさん。超可愛かったよ」
「あああもう! 明日から絶対に早く起きてやる――――――っ!」
「……あはは。絶対無理だと思うなぁ」
朝から家中を揺らす絶叫と共に、僕とアマガミさんの新学期が始まったのだった。
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