第110話 『 いつかは訪れる。この恋の行末 』
「……アマガミさんのことが好きだ」
二人だけの小さな花火大会が終わって、今は部屋に戻ってゲーミングチェアに背を預けていた。
ずっと、胸にあった小さな違和感は、それを言葉にした瞬間すっと消えた。
どうやら僕は、これまでずっとアマガミさんのことを〝一人の女性〟として好きだったらしい。
ずっと、この感情は友情かそれに似た何かだと思って過ごしていたけれど、まさか恋情だったとは。我ながら気付くのが遅すぎて呆れている。
でも、その感情を一度理解してしまえば、不思議と胸の高揚は落ち着いて。
「……告白は、まだできないなぁ」
自信がないという訳でもないけど、今のアマガミさんにこの気持ちを伝えるのは躊躇いがあった。
なにせ、アマガミさんはこの家に住み始めたばかりなのだ。ようやく落ち着き始めたのにこのタイミングで告白しても、困惑させてしまうかもしれない。
それに、アマガミさんは今、天涯孤独の状態だ。肉親がいない。頼れる人もたぶん僕だけ。そんな僕に告白されれば、純粋な感情だけの返事はしてもらえないかもしれない。
無論僕の告白を断ったから出ていけ! なんて畜生みたいなことは絶対にしない。仮に恋人にはなれなくても、友達としてこの家を提供し続けるつもりだ。
けれど、僕の方がそれを割り切れても、アマガミさんはどうだろうか。
ヤンキーなのに義理人情が強い人だ。生真面目で優しい彼女は、きっと告白を断ってしまった罪悪感に耐え切れず、自ら出ていくという選択肢を取ってしまう気がする。
それだけは、絶対に嫌だった。
もう彼女の手を決して離さないと決めたのに、離さないと誓ったのに、そうなってしまえば約束を守れない。
アマガミさんの安全と僕の恋心を天秤に掛ければ、傾くのは前者だった。
「……簡単じゃない。それは分かってる」
自覚してしまったこの気持ちを抑え込むのは、容易じゃないということは自分でもよく理解している。現に、今すぐにでもアマガミさんにこの想いを吐露したい自分がいる。
たぶん、どこかのタイミングで爆発してしまうんだろうな。
ここにきて、一緒に住んでいることの弊害が生まれてしまった。以前のように学校でしか会わないのであればまだいくらか冷静になれたのだろうが、今はその気になればすぐにお互いの顔が見れる状況だ。これは僕にとっては相当マズイ。
何なら明日の朝には「好きです付き合ってください」とぽろっと吐いてしまうかもしれない。
それほどまでに、アマガミさんのことが好きになっていた。いや、好きじゃない。大好きだ。ぞっこんである。もう彼女しか見えていない。
恋は盲目。まさしくその通りだった。
でも、僕はこの気持ちは押さえて、隠さなきゃいけない。
せめて、アマガミさんがもう少しこの家に慣れるまでは。
「はぁぁぁ。今日からまた大変だなぁ」
好きな人の前で、うまくいつもの自分を演じられるだろうか。……無理な気がする。好きが募り過ぎて、さらにアマガミさんを甘えさせてしまう気がする。まぁ、今でもわりと甘えさせている方ではあるけど。だってアマガミさんが可愛くて仕方がないんだもの。
そんな言い訳はそろそろお終いにして、現実に向き直らないと。
「いつかはちゃんと、伝えないとな。この気持ちを」
その日がいつになるかは、僕自身も分からない。けれど、遅かれ早かれその日は絶対に訪れる。
その日が来た時、僕とアマガミさんはどうなるのだろうか。
虚空に向かって伸ばした手は、その答えを導いてくれることはなかった。
【あとがき】
1件のレビューありがとうございます。
次話から二学期編突入です。
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