第108話 『 アマガミさんとパソコン 』

 ある日の事。


「アマガミさん。パソコン要る?」

「んあ?」


 唐突にそんなことを聞けば、アマガミさんは棒アイスを齧りながら目を瞬かせた。


「欲しいといえば欲しいけど、んな高いもの買う余裕なんてあたしにはねぇぞ」

「学生が買うには結構大変だよね。そんなアマガミさんに朗報なんだけど……」

「なんだ?」

「実は僕、この夏にもう一台パソコン買った……というより作りまして」

「おい待て。作った? 買ったんじゃなくてか?」


 僕の言葉を遮るように訊ねてきたアマガミさん。僕は「うん」とこくりと頷く。


「この夏休みにね、誠二くんに手伝ってもらいながら作ったんだよ。パソコン」

「パソコンって自分で作れんのか⁉」

「パーツさえ揃えればね」


 アマガミさんがギョッと目を剥く。まぁ、そういうのに精通していない人なら驚くのも無理ないか。


「結構楽しいものだよ。パソコン作るの」

「パソコン作ることを夏休みの図画工作の宿題のノリで言うなよ」

「アマガミさんも作ってみる?」

「絶対無理。あたしガサツだしすぐに飽きると思う」

「アマガミさん意外と手先器用で粘り強いと思うんだけどなぁ」


 自分のことを過小評価しているアマガミさんに苦笑しつつ、僕は話を進める。


「それでね、今は新しいパソコンを使ってるから、前のパソコンはもう使わなくなったんだよ」

「ほぉ。つまり、それをあたしにくれるってことか」

「うん。型は少し古いけどまだ現役だし、解体したり売るくらいならアマガミさんに譲ろうかなって思ってたんだ」

「超欲しい!」


 即答するアマガミさん。なら話は早い。


「それじゃあ、アマガミさんにあげるね」

「やったー! タダでパソコンゲットしたぞー!」


 一瞬にして棒アイスを食べきると、アマガミさんはその場で喜びの舞を踊り始めた。


「へへっ。ありがとなボッチ!」

「うわっ」


 感極まったのか、いきなりアマガミさんが僕を抱きしめてきた。

 咄嗟のことで驚いてしまうと、アマガミさんがハッと我に返って、


「わ、悪い! 急に抱きついちまって」


 顔を真っ赤にしながら僕から離れていくアマガミさん。

 そんな彼女に、僕はぽりぽりと頬を掻きながら、


「ううん。アマガミさんに抱きつかれるのは、嫌いじゃないよ」

「――そ、そうか」


 照れくさくも本音を吐露すれば、僕らの間に甘酸っぱさを覚える空気が漂う。

 そして、心のどこかで『もう一度抱きしめてくれないかな』と淡い期待を抱いていると、


「なら、さ。も一回、抱きしめても、いいか?」


 羞恥心に耳まで真っ赤に染めて、僕のことをチラチラと見ながら問いかけてくるアマガミさん。

 僕はそれに、ぎこちなく応じた。


「アマガミさんが嫌じゃないなら、いいよ」

「嫌じゃない。嫌じゃないから、もう一回、させてくれ」


 僕が拒否するはずなんてない。

 アマガミさんに触れるのが好きな僕が、どうしてこれほどまでに可愛いおねだりを断れるだろうか。

 それに、僕だってアマガミさんに抱きしめられたいし、抱きしめたい。

 ゆっくりと近づいてくるアマガミさんに、僕はじっとしたまま、ただその時が来るのは訪れる。

 そして、彼女の甘い香りがふわりと鼻孔を擽って、


「――へへっ。ありがと。ボッチ。大切に使うからな」

「ふふ。こちらこそどういたしまして」


 ぎゅっと抱きしめながらお礼を言ったアマガミさんに、僕は微笑みながらその感謝を受け取ったのだった。



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