第94話 『 キミに会えない寂しさ 』

 ――夜。


「――ふぅ」


 自習を終えて一息吐き、僕はノートを閉じる。

 それから机に置いてあったスマホを手に取るとベッドにダイブした。


「……今日もアマガミさんからの連絡はなし」


 夏休みに入ってから、僕は一度もアマガミさんと会っていなければ電話やメールのやり取りさえなかった。

 最後についた既読は7月25日きりで、それ以降、何度か送ったメールは既読無視されている。


「アマガミさん。大丈夫かな」


 ここまで何の音沙汰なしだと逆に不安よりも心配が勝る。

 連絡する暇がないほど働いている訳ではないと信じたい。でも、アマガミさんのことだからその可能性がないとも否定できない。


 アマガミさんは、自分のことをあまり大切に扱わない人だ。もっと端的に言えば、自分を蔑ろにしている。

 それはまるで、傷だらけの狼が自分から望むように傷を増やしていくように。癒されることを、自分から拒絶ように。


 彼女はそんな孤独な狼と似ている。


 だから僕は、そんな彼女を放っておけなくて傍にいたいと思った。癒しを与えられればいいなと、そんな偽善者まがいの感情を抱いて。


 それが間違いだとは思っていないし、例えそれでも構わなかった。僕が自分をどれほど蔑もうが、彼女の安寧にさえなれたら、それで満足だった。


 言ってしまえば、僕も彼女と同様、自分を蔑ろにしているのだろう。けれど、僕自身は全くそう思っていない。ちゃんと頑張ったら自分にご褒美もあげているからね。


 でも、アマガミさんは違う。あの人はただただ、自分を傷つけようとする。


 僕が見ていなかったら、彼女はずっと自傷行為を続ける。


「……お金って、そんなに大事かな」


 スマホを枕元に置いて天井を見上げながら、ぽつりと呟く。


 大事なのは分かってる。けれど、自分を蔑ろにしてまで稼ぐものではないと思う。


 たぶん。いやきっと、稼がなくてはならない事情があるのだろう。じゃあ、それはなんだろうか。


 好きなものを買う為? たぶん違う。アマガミさんは物欲が少ない方だ。どちらかといえば守銭奴。


 なら生活費を稼ぐ為? これはありそうだな。もしかしたら一人暮らしかもしれないし。あ、でも前に泊った時、家族に電話してたな。その光景を直接見たわけじゃないけど。


 なら、家族を養う為? でもそれなら、僕と遊んでる暇なんてなくて、ずっとバイトしているじゃないだろうか。


 ――分からない。


 どうしてアマガミさんがそこまで必死になってお金を稼いでいるのかが、僕には全く分からなかった。


 教えて欲しい。


 悩みがあるなら、聞かせて欲しい。答えられないかもしれないけど、一緒に悩んで考えることくらいは僕にだってできる。


 キミの声が聞きたい。


「――会いたいよ、アマガミさん」


 真っ白な天井に向かって手を伸ばす。けれどその手は、彼女に届くことは決してない。


 会えない時間が、キミに会いたいという想いを強く募らせていく――。

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