第93話 『 ここから始める青春群像劇 』

「幼馴染に幼馴染としか思われてなかった」

「人の家に急に押しかけた挙句、そうめん食べながら何訳の分からないこと言ってるの?」


 僕は現状を出来る限りそのまま言葉にしながらそうめんを啜った。

 先述の通り、今日は突然海斗くんが僕の家に何のアポも取らずにやって来たのだ。しかも何故か遊李くんまで連れてきて(彼も僕と同様にアポなし訪問された挙句半ば強制的に連行されたらしい)

 急に遊びに来られても困るのだが、玄関を開けていた先に見えた海斗くんのひどく落ち込んだ顔を見てしまえば流石に帰れとは言えず、ひとまず事情を聴くべくこうして三人で昼食を交えながら海斗くんの話を聞いていたわけだ。


「……ずるずる。それってべつに普通のことじゃん」


 と刻みみょうがをトッピングしたそーめんを啜りながら遊李くんが言う。

 僕もその意見には同意だと、こくりと頷く。


「うん。露骨に避けられたり、以前のように関わりが全くなかったっていう状況よりかは遥かにマシだと思うんだけど」

「だよな。二人で水族館行ったんだろ? むしろ進展してるほうじゃん」


 それに関しても遊李くんと同意見。水野さんは外に出るのがどうやらあまり好きではないようで、そんな彼女が夏休みといえど外出したのは海斗くんの功績と言っていいと思うのだが。

 しかし本人は満足はおろか、この世の全てを憎むようにケッと唾を吐いて、


「してねぇよ。咄嗟とはいえ、抱きしめて無反応だったんだぞ。普通、男女がそうなったらちょっとくらい照れたりするもんだろ」

「じゃあ脈なしだってことだなー」

「傷口に塩塗るどころかもう一回ナイフ突き刺しちゃったよ」


 遊李くん直球にもほどがあるよ。

 何の脈絡もなしに遊李くんに現実という鋭利なナイフで心を突き刺されて、海斗くんが盛大に吐血する。

 テーブルに倒れ込む海斗くん。しかし遊李くんは何食わぬ顔でそうめんを啜りながらナイフを刺し続ける。


「そもそもさ、海斗は水野さんと〝仲良くなりたいだけ〟なんでしょ。なら現状維持の方が圧倒的に海斗に利点があるじゃん」

「ま、まぁ。水野さんのことが好きだから仲良くなりたい、っていう訳じゃないなら、遊李くんの意見が正しいかな」


 海斗くんに全般的に協力するとはいえ、結局のところ海斗くん自身が行動しなければ変化というものは起こせない。水野さんとは心の底でははどうなりたいと思っているのか、そこを明確にする必要がある。

 僕もつるつるとそうめんを啜りながら、


「今一度聞くけどさ、海斗くんは水野さんとどういう関係になりたいの? ただの幼馴染? それとも恋人になりたいの?」

「…………」


 海斗くんは沈黙し、僕と遊李くんは呑気にそうめんを啜る。

 丁度僕らが咀嚼し終えたタイミングで、海斗くんはもう既に僕らが導き出している答えをようやく吐露した。


「……正直に言うぞ」

「うん」「早く言わないとそうめんなくなるぞ~」


 海斗くんは一拍置き、


「……琉莉と、恋人になりたいです」


 顔を真っ赤にしながら、ようやく本音を告げた海斗くん。

 彼が水野さんと再び関係を築いた時からなんとなくそんな気がしてた僕らは、大して驚くことはなく、本心と向き合った海斗くんにただ笑みを浮かべるのだった。


「それじゃあ、やることは一つしかないんじゃない?」

「だね。水野さんを好きになった以上、これからはもっと攻めていかないと」

「待て、誰も琉莉を好きとは」

「好きではないけど付き合いたいの?」

「――っ! ……ああああもう! 分かったよ! 認めるよ! めっちゃ好きだよ!」


 ダン、と机を叩きながら幼馴染に抱く恋情を認めた海斗くん。

 まぁ、僕らとしてはちょっと意外だと思ったけど。


「俺、ずっと海斗はギャルみたいな子がタイプだと思ってたわ」

「ね。海斗くん、付き合うなら明るい子がいい、って中学からずっと言ってたもんね」


 水野さんは海斗くんの好みの女性とは真逆な性格だ。

 外に出るのが好きじゃなくて、休日は出掛けるよりも家でひっそり読書に勤しむような人。それが水野さんだ。

 それを指摘すれば、海斗くんは開き直ったように声を荒げて、


「うっるせえな! 俺だってちょろいなと自覚してますぅ! 琉莉とちょっと話しただけで浮かれたり、本屋寄ったりして、勉強してたり一緒の時間過ごしていくうちにアイツの可愛さに気付いたらいつの間にか好きになってたんだよ!」

「まぁ、水野さん。影が薄いだけでめっちゃ美人だもんなー。スタイルもいいし清楚だし。萌佳に引けを取らん」

「白縫スタイル超いいもんな」

「おい、俺のカノジョを変な目で見んな」

「話題振ったのお前じゃんっ。いてっ! おい、小腹指で突いてくんな!」


 胸の内に秘めていた思いを吐き出したからか、少しだけ元気になったように見える海斗くん。そんな海斗くんにちょっかいを掛ける遊李くんを見て、僕はくすくすと微笑む。


「……その、ありがとな。こんなくだらんねー話に付き合ってくれて」


 彼がぽつりと溢した感謝に、僕と遊李くんはお互いの顔を見合うと、


「気にすんなよ。俺ら親友じゃん。なら、親友の悩みくらい聞くのは当然だろ」

「そうそう。それに前に言ったでしょ。僕は海斗くんに協力するって」

「――お前ら。俺は本当にいい親友を持ったよ!」


 微笑む僕と遊李くんに、海斗くんはたまらず嬉し涙をこぼす。

 僕らが中学時代から築いた変わらぬ友情に感慨深さを覚えていると、遊李くんが「まぁ」と頬を引きつらせながら言った。


「……ここに一人足らん状況がもし本人に後でバレたら、その時俺たちは海斗を見殺しにするけどな」

「そ、それはっ……やべぇ、普通に誠二のこと頭から抜けてたわ」

「あはは。でも誠二くん恋愛経験乏しいし、この場にいてもリア充に対する恨みと鬱憤しか吐かなかったと思うから、呼ばないのは正解だったかもよ」

「「ボッチ(智景)って時々友達死体蹴りするよな」」


 何故か戦慄しながら僕を見てくる二人に、僕ははて? と小首を傾げる。

 とにもかくにも、これから海斗くんと水野さんのラブコメ――ではなく、青春群像劇が始まっていくのだった。




【あとがき】

今週は某ウ◯娘にて推しが実装が決定したので更新頻度少なめとなります(土下座)


よし。ちょっくら天井してくるわ!

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