第44話 『 アマガミさんと映画館 』
かくして始まったアマガミさんとのお出掛け。僕らが初めに向かったのは映画館だった。
「……映画館なんて来るのいつぶりだろうな」
「もしかして苦手?」
「そういう訳じゃなくてさ。たんに来る理由が今までなかっただけ」
「特別みたい映画がない限り足を運ぶことなんてないもんね。僕は毎年夏に必ず一回は行くけど」
「なんで?」
「だって仮面ラ〇ダーとスーパー〇隊の映画があるから」
毎年友達とそれを観に行くことを明かすと、アマガミさんは「うわっ」と引いた。
「高校生にもなってまだそういう観てるのか」
「分かってないなアマガミさん。小さい頃から憧れ続けてきたものは、いくつ歳を重ねてもその想いは変わらないんだよ」
「カッコいい風に言ってるけど、大人が子ども向け番組を観てるって話だからなこれ」
「失礼な! 仮面ラ〇ダーは子どもも大人も両方楽しめる最高のコンテンツなんだよ! 笑いあれば涙もあるし、何よりアクションシーンがカッコいいんだから!」
「分かった分かった。ボッチくんはカッコいいのが大好きなんだなぁ」
これは完全に子ども扱いされてるな。本当にニチアサはどの年齢層も楽しめるのに。
「よし。今度僕の家に遊びにきたらオススメのライダー作品一緒に観よう!」
「なんでだよっ。あたしは興味ないっつの」
「分かってないなアマガミさん。興味ない人を惹きこむのがオタクという生き物なんだよ」
「普通に迷惑だわ⁉ なんでそんなにあたしを沼に引き込む気マンマンなんだよ⁉」
「僕の趣味を一つくらいアマガミさんにも共有してほしいなって」
「理由が可愛いけど目が怖い! ……たくっ、分かったよ。全然興味ねぇけど、少しくらいなら付き合ってやる。ただつまらないって言っても文句言うなよな?」
「安心してよ。一緒に観ながら魅力を語ってあげるから」
「そこは静かに観させろよ⁉」
そんないつかの約束に胸を馳せつつ、僕らが観ようとしている映画の上映時刻が近づいていく。
「そろそろチケット買おうか」
「だな」
僕の提案にアマガミさんもこくりと頷き、二人でチケット販売機へ向かう。
「やっぱり人気作品の映画だけあって真ん中は埋まちゃってるね」
「だな。あ、でもここの席空いてるぞ。観やすいんじゃないか?」
「じゃあここにしようか」
二人で座席を決め、チケット購入と素早く画面をタップしていく。
手慣れた操作でチケットを購入し終えた僕とは対照的に、映画館に慣れていないアマガミさんは操作に苦戦していた。
「ぼ、ボッチ。慣れてないから傍で見ててくれ」
「ふふ。もちろん」
「うぅ。隣でボッチがチケット買うところ見てたはずなのにぃ」
おろおろする姿が可愛いくてつい頬が緩んでしまった。いかんいかんと気を引き締めつつ、僕はチケット販売機に苦戦しているアマガミさんの補助に入る。
僕が操作の説明をして、アマガミさんが画面をぎこちなくタップしていく。全ての決定を終えお金を入れると、機械からチケットが発券された。
それを握りしめたアマガミさんは達成感に浸るように額を袖で拭った。
「ふー。最近の映画館はこうやってチケット買うんだな。覚えたぞ!」
「あはは。その感想。なんだかおばさんみたい」
「うるせー。子どもの頃は店員がチケット売ってただろ」
「今でもそういう映画館あるけどね。でもこの辺りはだいたい機械でチケット買うのが主流になってるんじゃないかな」
「時代の進歩だなー」
その感想もお婆ちゃんみたいだ。
くすくすと笑っていると、拗ねたアマガミさんが頬を膨らませながら睨んできた。
「ボッチ。今あたしのことバカにしてるだろ」
「してないよ。可愛いなと思っただけ」
「~~っ! やっぱバカにしてる!」
怒ったアマガミさんにドスドスと腕を殴られる。
「痛い⁉ 前から思ってたけど、アマガミさん加減するの下手だよねぇ⁉ 女子とは思えない重い一発一発がくるんだけど⁉」
「は? 全然力込めてねぇけど?」
「それでこの威力なの⁉」
力込めてないのにめっちゃ痛いってどういうことなの? ここは異世界じゃなくて現実世界のはずなのに、アマガミさんだけ世界観が違くない? そりゃ男数人くらい余裕で返り討ちにできるわけだ。
ジンジンする腕をさすりながら彼女の力強さの秘密について考察していると、アマガミさんに背中を叩かれた。
「ほーら、チケット買ったんだしさっさと受付に行くぞ」
「うー。まだ腕が痛むよぉ」
「ボッチはほんとにひょろひょろだな~。今度あたしが鍛えてやろうか?」
「そうなったら僕の命が持たないよ」
「どういう意味だこら。ちゃんと手加減するに決まってんだろ」
「いや今ので分かったけど、たぶん手加減されても意味ないと思うよ。レベル1の僕はどうやってもレベル90のアマガミさんにワンパンされちゃうから」
「レベル1て……せいぜい10くらいはあれよ」
「アマガミさんと比べたら僕なんかスライム以下だよ」
「超弱いな⁉ はぁ。やっぱ鍛えないとダメだな。あたしが直々に特訓してやる」
「死なない程度にお願いします」
僕の懇願にアマガミさんは「任せろ」と白い歯を魅せた。
――くそっ。その笑顔は反則だよ。
「うし。それじゃあ受付行くか。あ、その後はポップコーン買いたい!」
「僕も買おうかな。せっかくだしお互いに別の味買ってシェアしようよ」
「なんか青春っぽくていいな! それやりたい!」
「ふふ。なら決まりだね」
――時折、アマガミさんが魅せる無邪気な笑顔にドキッとしまう。しかし、そんな感情は決して彼女に気付かれないように必死に隠しながら、僕は微笑みを浮かべて応じる。
今日という日にアマガミさんにどんどん魅了されていくことを、この時の僕はまだ知る由もなかった。
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