第22話 『 ボッチと男子ファミレス会 』

「えーと、それでいったいこれは何の集まり?」


 放課後。真っ直ぐ自宅に帰ろうとした僕だったが、海斗くんたちに捕まりそして半ば強引にファミレスに連行された。

 既に各々が注文した料理がテーブルに並べられている最中さなか、僕と対面する形で海斗かいとくん、遊李ゆうりくん、誠二せいじくんが座っている。


「まぁまぁ、そんな警戒しなさんな。今日集まったのは久ぶりにリアルで話さね? と思ったからよ」

「それなら事前に連絡して欲しかったんだけど」

「まぁ思いついたの昼休みだったし。それに、集まりの目的を話したらボッチ来なさそうだっただもん」


 ということはやはり、この集会は僕に関連することか。

 なんとなく、遊李くんたちが何を聞きたいのか予想できながら、僕は皿に盛られたポテトを一つ抓んで口に運んだ。


「もぐもぐ……それで、僕を連行した理由は何なの?」

「じゃあ単刀直入に聞くけど――ずばり! 天刈とは付き合ってるのか⁉」


 やっぱりそっち系の話題か。

 この間のゲーム集会でも話題になったから、想像は容易にできた。

 好奇心に目を輝かせる遊李くんに、僕は嘆息してから答えた。


「付き合ってません。ただの友達だよ」

「にしては今日の昼休み。楽しそうにゲームしてたよな?」

「……見てたんだ。べつに、友達とゲームすれば普通に盛り上がるでしょ」

「すごい密着してゲームやってなかった?」

「それはアマガミさんのガチャ画面を見てたからだよ」


 ついでにアマガミさんのガチャ結果を教えれば、3人が揃って「やば」と羨ましそうに呟いた。


「……まぁ死ぬほど羨ましいガチャ結果は一旦置いておいて、あれで友達ですっていうのはちょっとなー。男女の適切な距離感とは言えないよなー」

「そうでござる。以前のボッチ氏は男女の距離感というのは弁えていたはず」

「そんなボッチくんが女子と一緒に昼飯を食べて、あまつさえゲームで盛り上がる仲にまでなっているとは……流石に何もないとは言わせないぞ~」

「いや本当に何もないんだけど」

「海斗裁判長! 被告人はこのように供述しております!」


 いつからファミレスが裁判所になったんだ。

 勝手に検察官的なポジションに立ち始めた遊李くんに、無理矢理裁判長にさせられた海斗くんが面倒くさそうに応じた。


「まぁ、教室でボッチと天刈の距離感近くね? って光景何度も見てるから、発言自体は信憑性高いな」

「僕のことを信じてくれてありがとう海斗くん!」


 どうやら海斗くんだけは味方をしてくれるらしい。

 そんな海斗くんに遊李くんと誠二くんは「つまんねえ男だなお前」と悪態を吐く。

 海斗くんは検察官から野次馬に降格した二人に頬を引きつらせつつ、


「でも、実際のところどうなんだよ。お前としては本当に何もないわけ?」

「……それは」


 海斗くんの問いかけに、僕はそれまでとは違って明瞭めいりょうな戸惑いをみせた。


「ただの友達、ってわけでもないよな。前に俺がお前らに突っかかった時、お前は明確に天刈に固執してただろ」


 懐疑かいぎと興味を混じらせた視線を向けてくる海斗くん。それに僕は、コップに注がれた水に視線を落として答えた。


「……まだ、僕にもよく分かってないんだ。アマガミさんは友達だし、尊敬してる人でもある。でも、遊李くんが期待しているような、恋愛関係には程遠い」

「それってつまりあれ? 憧れの人と一緒にいる時みたいなやつ?」

「お前憧れの人いんの?」

「は? いるわけないじゃん」

「それでよくその例え出せたな⁉」


 海斗くんや遊李くんが僕の言葉に首を捻るのに対し、誠二くんだけは共感したように深く頷いていた。


「ボッチ氏の気持ち、拙者はなんとなく分かるでござるよ。拙者も、初めて黒猫のミケ様のサイン会に赴いた時、1分1秒が幸せだったのを今でも鮮明に覚えてるでござる」

「……たぶん、そんな感じかな」

「なるほど。それならばたしかに、ボッチ氏の発言に納得できる部分はありますな」

「納得してくれて何よりです」


 どうにか一人説得することに成功した横で、海斗くんと遊李くんはスマホを見ていた。


「あー、黒猫のミケってたしかイラストレーターだよな。めっちゃ絵が上手い人」

「名前は知ってるわ。うわやばっ。ミケ先生超可愛いじゃん!」


 なんかもう僕のことどうでもよくなってきてない?


 ジト目を向ける僕に気付いて慌ててスマホから視線を外した二人は、コホン、と誤魔化すように咳払いしてから、


「と、とにかく! ボッチの見解は分かった。つまりあれだな。ボッチが天刈に向けている感情は友情とか尊敬であって、決して恋愛感情ではない、ということだな」

「まぁ、百パーセント恋愛感情がないとも否定できないけど」

「「やっぱあんのかよ⁉」」


 遊李くんと誠二くんが大仰に驚愕し、海斗くんが絶望したように頭を抱える。


「う、うん。だって、アマガミさんはすごく魅力的な人だし」

「いやいや! ない! 智景! お前は天刈に毒されてる! 俺は、友人関係は百歩譲って認めたが……しかし交際だけは絶対に認めん!」

「海斗くんは僕のお父さんなの?」

「海斗の過保護さには相変わらずドン引きするけど、しかし今回は一理あるなー。天刈って可愛くはないよな?」

「アマガミさんは可愛いよ?」


 ガハァ⁉ と三人が揃って吐血した。ちょっとそのリアクションはアマガミさんに失礼でしょ!


「ボッチ! お前……本当にどうしちまったんだ⁉ 天刈が可愛いだと⁉ 相手はあの狂狼のアマガミだぞ⁉」

「ボッチ氏! それはボ〇トロールを可愛いと言ってるのに等しいでござるよ⁉」

「そうだぞボッチ! お前はそんな変態趣向の人間じゃないはずだ! 戻ってこい!」

「皆僕とアマガミさんに失礼過ぎない⁉」


 全員からの総批判を受けて、流石に僕も憤りを覚える。


「あのね、皆はアマガミさんのこと何も知らないんだよっ」

「「むしろ知りたくもない」」

「ならいい機会だ。僕がアマガミさんの可愛い思った所を教えてあげる」

「「だから要らないって!」」


 三人から壮絶に拒否されるも、しかしヒートアップした僕は食い下がる。

 皆に少しでもアマガミさんの良い所を知ってもらいたいと思った僕は、三人の抗議を無視して一方的に語り始めた。


「まず、アマガミさんは怖い人ってイメージがあるけど、全然そんなことはないんだよ。そりゃ目つきは鋭いし言葉遣いはちょっと乱暴だけど、でもそこがいいって最近気づいたんだ。それに笑った顔もすごく可愛くてね――」


 そんな語りは、約一時間ほど続いて。

 ようやく終わった頃には、僕はやり切った清々しい顔で、海斗くんたちはテーブルにぐったりと項垂れている惨状が完成していたのだった。


「「……お前もう、天刈大好きじゃん」]





【あとがき】

既に自分の小説を読んでる読者の方ならお察っしかもしれませんが、本作は【出会い婚】と共通の世界観です。なので、『黒猫のミケ』ことミケさんもいますし、美月や晴もいます。

ということは、そうですね。いつかしれっと出てくるかもしれません。

あちらでもアマガミさんの宣伝用のお話が出てくるかもしれませんが、その時はご拝読頂けると幸いです

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