第23話 『 アマガミさんと夜道 』
「あれ? アマガミさん?」
「なんだ。ボッチじゃねえか」
夜。ファミレスでの集会を終えて、帰宅しようと歩いていると偶然アマガミさんと遭遇した。
「こんな時間に遭うなんて珍しいね」
「それはこっちの台詞だよ。何してたんだ?」
「ちょっと海斗くんたちに尋問されてて」
「海斗? ……あー、あのキザ野郎のことか」
「海斗くんは優しくていい人だよ」
すっかり海斗くんに偏見を持ってしまったアマガミさんに苦笑しつつ、
「それでアマガミさんはこんな時間まで何してたの?」
「あたしは後輩と集まっててな」
「へぇ。アマガミさん僕以外にもちゃんと友達いたんだね」
「どういう意味だコラ。返答次第じゃ腹に一発入れんぞ」
「だってアマガミさん。学校だと僕以外と話さないでしょ」
と指摘すれば、アマガミさんはバツが悪そうに呻いた。
「うぐっ。そりゃ、学校じゃ話すのはお前だけだけど、でも、あたしだって他に話し相手くらいいるっつーの!」
「驚いただけで疑ってないよ」と弁明すると、アマガミさんは「そ、そうか」とぎこちなく頷いた。
「……今更だけど、アマガミさんが帰る方角ってこっちで合ってる?」
「すげぇ今更だな。合ってるよ」
既にゆっくりと歩き始めている僕ら。遅れて確認を取ると、アマガミさんが苦笑を浮かべながらこくりと頷いた。
「お家は近いの?」
「いいや。二駅先だ」
「そっか。それじゃ、駅まで送っていくね。女の子を夜一人で歩かせるのは危ないし」
「……素でやってるんだよな。それ」
「? どうしたのアマガミさん。急に顔を手で覆い隠して」
「なんでもねぇ。両目に蚊が入っただけだ」
「緊急事態じゃないか⁉ えっ、本当に大丈夫なの?」
大丈夫だから少し静かにしてろ、とアマガミさんは何か抑えきれない感情を必死に堪えるように呟く。
それから深い息を吐いたあと。アマガミさんはまだほんのりと頬に朱色を残しながらも、小さく息を吐いて、
「ふぅ。もう大丈夫だ」
「そっか。ならよかった」
「はぁ。お前といるとやっぱり疲れるな」
「ご、ごめん?」
「謝んな。べつに嫌とは言ってねぇだろ」
「――――」
夜道を照らす街灯を背景に微笑むアマガミさんは、不覚にも綺麗だと思ってしまった。
不意打ちでもくらったように僕は息を飲んで、思わず足を止めてしまった。
「どうしたボッチ?」
「え、あぁいや、なんでもない」
「そっか。ならいいけど」
眉根を寄せるアマガミさんに、僕は遅れて応じた。
それからアマガミさんは不思議そうに小首を傾げたあと、またゆっくりと歩きだした。そして、僕も少し急ぐように歩幅を合わせる。
「そういや、ボッチとこうして夜一緒に歩くってのは初めてだな」
「あはは。そうだね。なんか新鮮だ」
「それな。なんか、最近は毎日お前といる気がするわ」
「気がするんじゃなくてそうだよ。アマガミさんと話さない日ないもん」
「だな。毎日お前と話してる」
心地よさの中にわずかな感傷が生まれ、それに浸るように僕は会話を続ける。
「お前ってマジで不思議なやつだよな。あたしなんかと関わろうとして」
「何も知らないのに相手を評価するのは違うと思うから。皆が言うアマガミさんが、本当にその通りとは限らないでしょ。だから、僕はアマガミさんを知りたかったんだ」
「どうだ? あたしのこと知って後悔してるか?」
「まさか。アマガミさんと友達になれたことを誇りに思ってるよ」
「おおぅ。まさかそんな風に言われるとは。ちょっとむず痒いな」
ぽりぽりと頬を掻くアマガミさん。そんな彼女に僕はくすくすと笑いながら、
「本当に、アマガミさんと友達になれてよかった。おかげで、毎日が楽しいよ」
「毎日ねぇ……案外、あたしもそうかもな」
アマガミさんがふっと笑った。
「あたしも、ボッチと友達になれてよかったわ。毎日忙しねぇけど、でも、嫌いじゃねえよ」
「――アマガミさん」
微笑み、そう言ってくれたアマガミさん。
その微笑みは誰でもなく僕だけに向けられたものだと分かって。
「? どうしたボッチ?」
「な、なんでもない」
心臓が高鳴って、顔が熱くなる。アマガミさんを、直視できなかった。
視線外すを僕――けれど、そんな僕をアマガミさんは逃がしてはくれなかった。
「あっはぁ。もしかして、照れんのか?」
「べ、べつに照れてなんかないし」
「ふーん。なら顔見してみろよ」
「今はちょっと無理です」
「ほぉーん。へぇ。なんだよ。ボッチも可愛いとこあるじゃねえか」
「照れてないもん!」
「なら見せてみろよ」
「ダメ! 今は見ちゃだめ!」
ニヤニヤと悪い笑みを浮かべながら僕の顔を覗き込もうとしてくるアマガミさん。それに、僕は全力で躱し続けた。
「――もうっ。だから照れてないってば!」
「なら顔見してみろって」
「それは無理です!」
「あははっ。やっぱボッチは面白いな。一緒にいて飽きねぇ。ほいっ!」
「見ちゃだめ⁉」
僕らのそんな下らない攻防は、駅に着くまで続いたのだった。
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