第21話 『 アマガミさんと神引き10連ガチャ 』
「なぁボッチ。このガチャ引いたほうがいいのかな?」
お昼休み。何やら真剣な顔のアマガミさんが唐突にそんなことを訊ねてきた。
アマガミさんが僕に見せてきたのは、『モンスタ』というゲームの画面で。
「あー。激神祭の新キャラね。そういえば今日が実装日だったな」
「そう。ネットだと皆強いって言ってるし、使ってみた動画でも強かったから欲しいんだよな」
アマガミさんがガチャ画面を睨みながら悩んでいる。
「引く前にボッチの意見聞きたくてさ。つーか、ボッチは引くのか?」
僕はさっとアプリを開きつつ、
「うーん。20連くらいなら引いてもいいけど、無理してまで当てるまでの性能はしてないかな」
「え、でも友情コンボ超強くね?」
「そうなんだけどね。でも爆撃型じゃないからそこまで火力は出ないと思うよ。周回キャラとしては十分だけど、アマガミさん。もう周回向けキャラは持ってたよね?」
「おう! ソイツは新春1000連して三体当たったぞ!」
「僕は二体しか当たらなかったよ。……まぁ、既にそのキャラを持ってるなら無理に引きにいかなくてもいいと思うよ。天帝の古城10もその子がいれば余裕だし」
「あたしはまだそこまで行けてねぇよ」
アマガミさんが悔しそうな顔をする。まぁ、そこはこのゲームで最難関クエストだから行けないのも仕方がない。
とにもかくにも無理に引きにいく必要はないと説き、
「でも、アマガミさんが引きたいって思ってるなら引くのがいいんじゃないかな」
「くっ。そうだよな。ガチャって結局、自分がどれだけガチャ欲を抑えられるかだよなっ」
「あはは。そうだね。僕は基本コラボキャラ狙っていきたいからそこまで石貯めてるよ」
このゲームは月に一度くらいアニメや他ゲームとコラボガチャを出してくるので、僕はそれまで石を温存している。
「コラボキャラって基本全員強いからね。下手に引くよりもそっちの方が効率いいんだよね。確定で限定イベントの適正にもなるし」
「知ってる。だからあたしも基本はそのスタンス取ってる。でも、たまにないか? どうしよもなくガチャを引きたくなる衝動ってやつが」
「あー。あるね」
どうやらアマガミさんは丁度その時期らしい。
「それで、結局のところ引くの? それとも我慢するの?」
「引きたい!」
「なら引くべきだよ。ゲームは楽しくやってこそ長続きするもの。無理に我慢してもストレスになるだけだからね」
「こういう時お前の優しさが凶器になる! くぅ。ボッチがそんなこと言うから余計に引きたくなっちまった!」
「あはは。ごめんね」
頭を抱えるアマガミさんを見て苦笑。
それから数十秒ほど葛藤したアマガミさんは、
「無理だっ。我慢できない! 引く!」
結局我慢できずガチャを引いた。
僕は隣で「狙ってるの出ればいいね」と応援しつつ、アマガミさんのガチャ結果を隣で見守る。
ドラゴンの口からぽこぽこと10個の金卵が排出されていき――とそこで、
「「確定演出だ⁉」」
突如、アマガミさんのスマホにアプリからの通知が届いた。それはゲームの演出場の一つ。確定で限定キャラの一体が出てくるなっているというものだ。
その演出により、アマガミさんと僕は思わず叫んでしまった。
そして、僕らの驚愕はまだ続く。
「一個目から止まった⁉ ってことはまさか……」
「うおぉぉぉ⁉ ま、マジか⁉ 当てちまった⁉」
「すご!?」
まさかまさかの一発目でお目当ての新キャラが出てきた。
二人揃って滅多にお目にかかれない瞬間に目を剥く。
この時点ですでに神引きと呼ぶに相応しい引きなのだが、続く四つ目に、
「うそ二体目⁉ なんだこの神引きは⁉」
「もはや神引きを通り越してるよ! 凄すぎる!」
なんとアマガミさん。二体目も引き当ててしまった。
そして驚愕はまだまだ続き、
「やばいまた止まった………うおおおお⁉ ずっと欲しかった限定キャラだ⁉ ……え、うえ⁉ しかももう一体きた⁉」
ここまで来るともうバグを疑うほどの引きだった。
10連ガチャのリザルト画面を見ながら、放心する僕ら。
「……新規限定キャラ2体に、既存限定キャラ……しかも未所持が2体。こんな神引きしてる人、僕初めて見たよ」
「あ、あたしだって驚いてるよ。人生で一番の引きだよこれ」
とりあえずスクショして。
「と、とにかくおめでとう」
「あ、ありがとうな。それと、なんか悪ぃな。ガチャ引けないやつの目の前でこんな神引きみせちまって」
「何言ってるのさ。これはアマガミさんが自分を信じて引いた結果さ。そう。例え、目の前で神引きをみせられて、僕も今なら当てられるんじゃね? って迷い始めてる僕とは違ってね」
「早まるなボッチ! お前はお前の信念を貫くんだ!」
ガチャを引こうとしてる僕を慌てて止めるアマガミさん。
僕ははっと我に返ると、
「いけない! 僕はスルーするって決めたんだ! 何を血迷ってるんだ!」
「そうだ! それでこそボッチだ! お前は強い! 例え目の前で神引きを見せられても動じないくらい強い男だ!」
お互い興奮した余韻が残っているのか、いつもとテンションが違っていた。
それも少しずつ落ち着きをみせつつ、
「……どきどきの実の厳選、どうする? 付き合うよ」
「神引きした友達を前に嫉妬するどころか祝福して手伝ってもくれるとか、ボッチは神かよ」
「いや、普通に嫉妬してる」
「してんのかよ⁉ でも手伝ってくれるとかいい奴過ぎる⁉」
ゲームのガチャは時々友情を破壊するけど、しかし時に更なる友情を育んだりもする。
こうして僕とアマガミさんは、脅威の神引き10連ガチャをきっかけに、また少し友情を深めていった。
「……やっぱ10連だけ引こうかな」
「なんかほんとごめんな⁉ あたしだけいい思いしちまって⁉」
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