第20話 『 アマガミさんとコンビニ 』
登校中。見慣れた後ろ姿を見つけた僕は小走りで彼女へと駆け寄った。
「おはようアマガミさん」
「ボッチじゃねえか」
振り向いたアマガミさんはひらひらと手を振って、それに僕も手を振り返す。
「朝っぱらから元気だなお前は」
「そういうアマガミさんはいつも通り眠そうだね」
「朝苦手っていつも言ってるだろ」
ふあぁ、と大きな欠伸を掻くアマガミさん。
「でも、最近は毎日一限目から登校してるよね」
「そらお前がいるから――なんでもねぇ」
アマガミさんが頬を赤くして、何か誤魔化すようにそっぽを向いた。
それから彼女はコホンッ、と咳払いすると僕に向き直り、
「コンビニ寄るけどどうする? ボッチも来るか」
「うん。同行してもいいかな」
「当たり前だろ」
そうして、僕とアマガミさんは近くのコンビニに足を運んだ。
いらっしゃせー、という店員さんの適当な挨拶を聞き流しながら、僕はアマガミさんの隣をついていく。
「何買うの?」
「昼飯と飲み物。あと菓子かな」
「ごめんね。今日はお弁当作ってきてないや」
「いやいつも作ってきてもらうなんて申し訳なさ過ぎるわ」
そういうのは適度に頼む、と言われたので僕はこくりと頷く。
それから総菜パンコーナーで立ち止まると、アマガミさんはずらりと並ぶパンをじーと見つめた。
「今日は何にすっかな」
「焼きそばパンじゃないの?」
「んないつも同じの食ってたら流石に飽きるわ」
「確かに」
くすくすと笑う僕に、アマガミさんは呆れた風に嘆息する。
「今日はこれにすっかな」
「……コロッケパン」
なんだか焼きそばパンと似た系譜を感じた。
アマガミさんが「なんか文句あっか?」と半目で睨んできて、それに僕は微笑しながらふるふると首を横に振った。
「アマガミさんの食べたいものに文句なんてないよ。アマガミさんはそういう系好きなんだなって思っただけで」
「べつに好きってわけでもねえよ。ただ腹が膨れるからって理由なだけ」
そういえば前に節約してるみたいなこと言ってた気がする。
「好きじゃないけど、美味いし腹が膨れるからって理由で選んでるだけだ。だから特に拘りとかはねぇ」
そう言いながら今度は飲みコーナーで脇目もふらずペットボトルのレモンティーを掴んだ。
「けど、飲み物はレモンティー一択だな」
「好きなの?」
「いやべつに」
しれっと答えたアマガミさんに、僕はあはは、と苦笑。
「濃いものにはさっぱりとした飲み物が合うだろ」
「だからレモンティーと」
「そう。お茶でもいいけど……コンビニでお茶を買うのはなんか損した気になるから買わねえ」
「あ、その気持ちなんとなく分かるかも。僕もコンビニで飲み物買うならパックとかだな」
スーパーの方が何かと安いしね。それに特売とかもあるし。
「コンビニも朝早くやってるから助かるんだけどな。でもスーパーには勝てねえよな」
「へぇ。アマガミさんもスーパー行くんだ」
「お前はあたしを何だと思ってるんだ? スーパーくらい普通に行くっての」
「ごめんごめん。そうだよね。ヤンキーもスーパーは行くよね」
「むしろスーパーに行かねえヤンキーはいねえよ。あたしらだって普通の一般庶民だっつーの」
アマガミさんの言葉に僕はくすくすと笑う。
やっぱりアマガミさんと話すのは楽しい。彼女は少しだけ煩わしそうだけど。
「ボッチは何も買わなくていいのか?」
「……そうだね。じゃあ、チョコでも買っていこうかな」
「いいじゃん。あたしも買ってこ」
「せっかくだしお揃いの買ってく?」
「なんでだよ。好きなもの買え。あたしも好きなの買うから」
「あはは。そうだよね。好みは人それぞれだ」
そんな彼女を横目にチョコを手に取れば、
「……狙ってないよな?」
「なにが?」
僕が手に取ったチョコを凝視しながらアマガミさんが眉尻を下げていた。
きょとん、と小首を傾げる僕に、アマガミさんも同じ商品を手に取りながら、
「あたしもこれにしようとしてた」
「――。……ふふっ。やっぱり僕らって、意外と相性いいよね」
「~~っ! 全然よくなんかないし!」
偶然にも同じ商品を手に取った僕とアマガミさん。
それが嬉しくなってしまってぽろりと本音をもらしてしまった僕に、アマガミさんは顔を赤くしてそっぽを向いた。
「ほらっ、決まったならもう行くぞ!」
「うん。あ、アマガミさんの好きなものって何?」
「なんで急にそんなこと聞いてきやがる?」
「もしかしたら
「~~っ‼ 絶対言わない!」
「えー。教えてくれてもいいでしょ」
「絶対に言わない!」
こんなやり取りは、会計の最中にも。果てには、学校に着くまで続いて。
――こうして今日も、アマガミさんとの楽しい一日が始まっていく。
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