第19話 『 アマガミさんとお弁当 』
「はい。どうぞ」
「…………」
「? どうしたのそんなきょとんとした顔して。毒なんて入ってないよ?」
「入ってたら大問題だろうが!」
お昼休み。もはや定番化されたアマガミさんとの昼食時に僕は弁当箱を差し出していた。
自分の眼前に差し出された弁当箱にアマガミさんはぱちぱちと目を瞬かせながら。
「今日はやたらと大荷物だなと思ったけど……まさかその正体が弁当箱だったとはな」
「うん。アマガミさん、きっと今日も焼きそばパン一つだけだろうなと思ったから」
「だから作ってきたと」
「うん。おかずよりもお弁当の方が喜んでくれるかなって」
「なんつー優男だよお前」
アマガミさんが呆れたような、感嘆としたような吐息をこぼす。
「これは、あれか。受け取らない方が困るやつだよな」
「そうだね。流石に僕だけでお弁当二つは食べきれないし、夕食に回してもいいけど……けどアマガミさんの為に作ってきたので、食べてもらえると嬉しいです」
「~~~~っ! わーったよ! 食べるよ! 食べてやるよ!」
「わぁ! ありがとう!」
「たくっ。感謝するのはこっちだっつの」
僕から乱暴に弁当箱を奪うと、アマガミさんは照れくさそうにそっぽを向いた。
「にしてもなんか申し訳ねぇな。最近はお前のメシにありついてる感がすげえや。女子としての威厳をなくす」
「あ、アマガミさんもそういうのちゃんと残ってるんだ」
「おいどういう意味だコラ。そりゃ女子みたいな淑やかさとは無縁だとは自覚してるけど、だからってあたしだって一応JKなんだからな?」
「JKはそんな人殺しそうな目で友達を睨まないと思うよ」
「言うようになったなボッチぃ?」
「今日のオススメはかぼちゃの煮物だよ」
「……あたしの睨みにも怯えないとかマジか」
アマガミさんが呆気取られたように目を丸くする。
それから彼女は諦観したように嘆息すると、ゆるゆると弁当箱を開けた。そして、早速僕がオススメしたかぼちゃの煮物を食べる。
「うーん。砂糖醤油の甘しょっぱさとかぼちゃの甘さが絶妙だぁ。うめぇ」
「ふふ。喜んでくれて何よりです」
アマガミさんの満足そうな顔を見届けて、僕も箸を進める。
「ずっと思ってたけど、なんでお前はあたしにメシ作ってきてくれんだ?」
ふと不思議そうに問いかけてきたアマガミさんに、僕は「うーん」と一考を挟み、
「……好きでやってることだから、かな」
「人に給餌すんのが?」
「言い方はともかく、そうだね。僕は人が喜んでくれる顔が好きなんだよ」
「まさに善良な人間の模範解答みたいできめぇ」
ケッ、と不快そうに顔を歪ませるアマガミさんに僕はあはは、と苦笑。
「お前の生き方にケチつける気は微塵もねぇけどさ。もっと好きなように生きていいんじゃねえのボッチは。その才能ならあんだろ?」
「これでも十分充実してる毎日を送ってるつもりだよ。こうしてアマガミさんと一緒にご飯を食べるのだって、僕が好きでしてることだからね」
「あたしにそこまでの魅力はねえだろ」
「魅力がなくても一緒にいて楽しいと思えることの方が重要だと思うよ」
「そこでさらっとそんな言い返しができるお前はやっぱ人たらしだな!」
突然アマガミさんが顔を真っ赤にした。それを隠すように一心不乱にご飯にかぶりつく。
「あぁ、そんなに勢いおいよく食べると……」
「んぐぅ⁉」
「言わんこっちゃない」
案の定ご飯が喉に詰まったみたいだ。
僕は慌てて蓋を開けたペットボトルを渡す。
「ごきゅごきゅ……ぷはぁ。さんきゅ、ボッチ」
「ご飯はちゃんと噛んでゆっくり食べないとダメだよ?」
「オカンみたいに言うな」
「また喉詰まらせるよ」
「急に正論パンチ⁉」
不貞腐れたように唇を尖らせて、ちまちまとおかずを食べるアマガミさん。
その姿が、なんだかあまりにも愛しく見えて、
「ふはっ」
「あ? なに急に笑ってんだよ?」
「ううん。なんでもない」
「……なーんか怪しい」
思わず笑ってしまう僕に、アマガミさんはジト目を向ける。
それからはまた、いつも通り穏やかな日差しの下で談笑しながら。
「――やっぱり好きだな」
僕はぽつりと、この時間の愛しさを声にこぼしたのだった。
【あとがき】
やだなにこれ青春。
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