第18話 『 漢前だよアマガミさん 』
「ねぇねぇアマガミさん。今日のお昼モンスタやろうよ!」
「たくっ仕方ねぇな。付き合ってやるよ」
「やった」
昨日の出来事から一夜明け、僕とアマガミさんの関係は修復――いや、以前よりもずっと深まった気がする。
僕たちが普段以上に会話に盛り上がっていると、ふと前の方から誰かが近づいてきた。
その生徒は何やら焦っているようにも、困惑しているようにも見える形相で僕らの眼前で立ち止まり、
「どういうことなんだよ⁉」
と唐突に意味の分からない発言を放った。
その怒声に賑わっていた教室が瞬く間に静寂し、困惑したクラスメイトたちの視線が一斉に僕たちに注がれた。
僕はそれを適当にあしらいながら、剣幕をおびた顔をした海斗くんに問いかけた。
「どうしたの
「いやその通りだよ! なんで二人、普通に喋ってんだよ⁉」
「え、だって僕ら友達だし。だから話すのは当然でしょ」
「そうだぞキザ男。あたしとボッチの間に入ってくんじゃねえ」
「キザ男⁉」
ひどく動揺している海斗くんは、かぶりを振ると勢いよくアマガミさんに指さした。
「おい
約束? と僕が怪訝に顔をしかめると、アマガミさんが「ボッチには関係ねぇよ」と頭に手おいて撫でながら言った。
それからアマガミさんは赤瞳を海斗くんに向けると、
「やっぱあれなしで」
「はぁ⁉ そんな訳いかねよ! お前だってボッチが大事だからって飲んだ条件のはずじゃ……」
「あぁ。だからなしだ。――大事な
「――なっ」
「うじうじくよくよしてても無駄だったってコイツに気付かされてな。あたしはあたしのやりたいようにやるわ」
「んなのただの身勝手だろ……」
「海斗くん」
アマガミさんの揺るがない意思を前に狼狽する海斗くん。僕はそんな彼の名を呼んだ。
「な、なんだよ智景」
「海斗くんが僕を心配してくれてるのは分かる。それはありがとう」
「お、おう」
「でもね、これは僕が選んだことでもあるんだ。僕はアマガミさんと一緒にいる時間が楽しくて好きだ。もちろん、海斗くんたちと話す時間や皆でゲームする時間もね」
「だったら俺たちと……」
「さっきも言った通り、アマガミさんと一緒にいる時間だって僕には大切なんだよ。どちらか一方なんて選べない。身勝手なのは、むしろ僕のほうだ」
僕は二人の話し合いに関係ないとしても、その要因を作ったのは僕だ。例え海斗くんとアマガミさんから「違う」と言われても、僕は納得しない。
「僕は、アマガミさんのことをもっと知りたい。友達として。もっと仲良くなれるようになっていきたいんだ」
「だから! それでお前が危険な目に遭ったらどうすんだよ!」
「――アマガミさんが守ってくれるよ」
強く。そう言い切る。
そして、僕の言葉を擁護するようにアマガミさんが告げた。
「あぁ。ボッチはあたしが守ってやる。安心しろキザ男。他の不良どもにボッチは指一本触れさせねえから」
「……んなの、詭弁だろ。納得できっかよ」
「悪ぃけど、お前がどうこう言ったってあたしはもう答え変えるつもりはねぇからな。あたしも、ボッチと話すのは案外悪い気分じゃねえ。いいや、素直に言うわ「、コイツのことを気に入ってる。だから、命を賭けても守ってやる」
「――アマガミさん」
堂々と言い切る様は、思わず惚れてしまうほどカッコよかった。
僕がアマガミさんの言葉に胸を打たれていると、ギリッと比喩表現抜きに音が聞こえるほど奥歯を噛んだ海斗くんが呟くように吐いた。
「……もし智景を危険な目に遭わせたら、今度こそお前から引き剥がすからな」
「あぁ。そん時はあたしも潔くボッチから手を引くよ」
葛藤をみせる海斗くんに、アマガミさんも覚悟をはらんだ眦で応じた。
それはつまり、僕とアマガミさんの関係を認めてくれたということなのだろうか。
そのまま背中を見せて自席へと戻っていく海斗くん。僕は何か声を掛けようとするも、しかし上手く言葉が出てこなかった。
そんな僕に、海斗くんが背中越しに言った。
「智景。今日の夜は、遊李たちとゲームやっからな。言っとくけど、拒否権ないからな」
「う、うん! 絶対行く!」
「ははっ。……俺も少し過保護過ぎたわ。悪ぃ」
自席へと戻っていく海斗くん。その顔がわずかに笑っているように見えたのは、僕の見間違いだっただろうか。
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