第17話 神獣と神鳥
「こうやって近くで見ると、すごく大きいですね」
今日はセフィロスの神獣・スレイプニルを見せてもらっている。
前回大失敗をしてしまったので、また来るとは言ってくれたものの、本当に来てくれるのかと心配していた。内心ほっとしながら、こうして神獣を眺めている。
いつもセフィロスはスレイプニルに乗ってやって来るのだが、これまで癒しの力の練習をしたりしていてゆっくりと見ることがなかった。
スレイプニルは天界最速と言われるほど早く駆けることの出来るの獣で、馬のような体躯をしている。ただ、たてがみがなく、代わりにトナカイのように長くてこんもりとした、ボリュームのある胸毛がある。真っ白な毛並みが綿雪のようで美しい。
「名前はニキアスと言う」
「ニキアス、素敵な名前ですね。あの、撫でてもよろしいでしょうか」
「もちろんだ」
アイリスはそっと、ニキアスの首元を撫でる。馬のツルリとした毛並みと言うより、うさぎの毛ような柔らかい触り心地がする。
ひとしきり撫でていると、どうにも我慢が出来なくなってきた。ゴクリと唾を飲み込み、そして
――ぼふっ
ニキアスのたっぷりとボリュームのある胸毛に抱きついて顔を埋める。
やっぱり、と言うか、想像していた以上にモフモフ、フカフカで気持ちがいい。
「ニキアスはとっても触り心地がいいですね。まるでコットンキャンディーのようにフワフワで……?あの……、どうかしましたか?」
セフィロスが笑いを堪えていた。エレノアに至っては腹を抱えながら、顔を真っ赤にして笑っている。ノクトはもう呆れ返っているようだ。
また何か変なことをしてしまったらしい。困っているとエレノアが教えてくれた。
「みんな心の中ではそうやって、ニキアスの胸毛に顔を埋めたいなーって思っても、実際に行動に移す方は初めて見ました」
「ごめんなさい。触っていたら気持ちよさそうだったので、つい……」
「いや、構わない。ニキアスの方も満更でもないようだしな」
ニキアスが鼻ずらをアイリスの頬にグイグイと押し当ててきた。
「ニキアスは何か言っていますか?」
「もっとやって欲しいと言っている」
アイリスは遠慮なく抱きついて、毛並みを堪能させて貰う。
神獣や神鳥とは契約を交わした主である神と、その守護天使としか言葉を交わすことが出来ない。なので通訳が必要だ。
「アイリス、其方は今、リアナの神鳥を借りているんだったな?」
「そうです」
アイリスには神獣も神鳥もいない。連絡手段として今は、リアナの神鳥を借り受けている状態だ。
神鳥は主に、手紙を運ぶ役割をする事が多い。手紙は普通は使用人に持たせたり、あるいは手紙を届けるのを生業としている天使もいるが、それよりも早く確実に届けられるので、神はこちらの手段を好んで使う。
リアナが神鳥を貸してくれたのは多分、私がきちんと契約を交わせるかどうか心配したからだと思う。色々と出来ないことが多い私を、リアナとフレイは時々、腫れ物を触るような扱いをする事がある。
「癒しの力の練習も終わったことだ。今度は自分の神獣や神鳥を探しに行ってはどうだ? 私も一緒について行くから、魔物や対処出来ない獣に会っても大丈夫だ」
「でも、そこまでしてもらう訳には……」
守護天使のように絶対的に信頼出来る獣や鳥がいれば、どれだけ心強いだろう。そうとは思うけれど、探すとなるときっと膨大な時間と労力を必要とする事は目に見えている。
「いつもお茶をしていた時間を、探す時間に当てれば良いだけのことだ。とりあえず今は、このヘムル峡谷周辺でしか探せないがな。欲しいだろう?」
アイリスがこくりと頷くと、セフィロスは早速探しに行こうと言って手早く準備をする。
アイリスもドレスから動きやすいように膝丈のワンピースにタイツとブーツに着替えた。さらに、いつものヒュドラの抜け殻が編み込まれたローブを着ようとすると止められた。
「ローブは普通の生地で出来たものを使うように」
アイリスが不思議そうな顔をしていると、セフィロスが続けて言う。
「神気を遮断されると、契約を交わそうとしている獣の方が其方の持つ力を見極められなくなる。それに、神気を抑えてコントロールする練習にもなるからな」
分かりましたと返事をして、イオアンナのローブを借りて出掛けることにした。
「それでは、行ってきます」
「はい。アイリス様、お気をつけて!」
天使たちが手を振って見送ってくれた。とりあえず初日なので、この近辺の森を歩いてみることにした。道すがら、セフィロスが神獣について教えてくれる。
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