第12話 初めての訪問者(2)
やっとの思いでみんなに席に着いてもらうと、アイリスはお茶を入れた。セフィロスの前に置き、次にノクトとエレノアの席にもお茶持っていく。
「あ……の、これは僕たちの分でしょうか?」
「はい、そうですが」
2人は唖然として、自分の前に置かれたティーカップを凝視していた。
まさか、お茶の入れ方がおかしかったのだろうか? アレクシア直伝の入れ方をしているはずなのに……。
固まったまま尚も動かない2人をみて、ハッと気が付いた。
「もっ、もしかして紅茶はお嫌いでしたか? ごめんなさい。私、好みも聞かないでお出ししてしまって……」
やってしまった。初めてお茶をするというのに、好みも聞かずに一方的に出してしまった。ホスト失格だ。
「確か他に、ハーブティーが何種類かあって。カモミールとレモングラスとそれから……」
「アイリス様、それならこの前フレイ様が持ってきてくれたコーヒーなんて言うのもありますよ!」
イオアンナがすかさず合いの手を入れてくれる。
「そうだったわね!何がお好みでしょうか?」
もう半分泣きたいくらいの気持ちになっていたら、向こうのテーブルからクックッと言う笑い声が聞こえてきた。
――セフィロスだ。
「すっ、すまない。ノクト、エレノア、有難く入れてくれたお茶を頂きなさい。」
「いえ、そんな訳には。セフィロス様にも好みを聞かずに勝手にお出ししてしまって……」
「この2人は紅茶が好きなはずだ。そうだろう?」
「はい」
「それでは有難く頂戴いたします」
もう何が何だか分からない。オロオロとしていると、セフィロスが再び堪えきれないとばかり笑っていた。
――この方は、こんな風に笑うんだ。
いやいや。失敗してばかりだと言うのに、そんな呑気な事を思っている場合では無い。
「アイリス様、私は15億年くらい生きていますけど、神が入れたお茶を飲むのはこれが初めてです」
エレノアがようやく一口お茶を飲んで微笑んだ。
「はい……?あの、普通はお茶を入れないのでしょうか」
「神、自らお茶を入れること自体あまりしないとは言え、趣味で他の神に振舞う者も中にはいるな。ただ、天使にまで振る舞うのを見たのは、其方が初めてだ」
いつも天使達とお茶をする時は何にも気にせず入れていたので知らなかった。それから、とセフィロスがさらに付け加える。
「天使の事を『様』付けしなくていいし、敬語で話さなくても良い。天使は神に仕える存在として最上級神が創ったのだ。例え2人の方が其方より何十億年と長く生きていたとしても」
「そう、でしょうか……」
「そうだ。それでさっきから2人がソワソワして落ち着かない」
「はい、ぜひ『様』付けと敬語はおやめ下さい。」
「私たち神に無下に扱われることはあっても、そうやって丁寧に扱われると、どうしていいのか分からないんですよねー」
ノクトがもう無理とばかり言うと、頭の後ろを掻きながらエレノアも苦笑いしている。
「自分の天使に話しかけるように、気安く接するといい」
分かりました。と返事をしてみたけれど急に態度を変えるのは難しい。とりあえず様付けと敬語をやめて見よう。
アイリスもソファに座り席に着くと、気になったことを聞いてみる。
「先程エレノアが15億年生きているって言っていましたけど、エレノアは後天守護天使なのですか?」
後天守護天使と言うのは、天使同士の間から普通に産まれた天使が、神と契約を交わして守護天使になった者のことを言う。対して、神に直接生み出された方を、先天守護天使と呼んでいる。
最上級神付きの先天守護天使なら、20億歳以上のハズだ。それでアイリスは疑問に思って聞いていみた。
「そうだ。私の神殿で使用人として働いていたんだが、風の守護天使になりたいと変わった事を言ってきたから契約を結んだのだ」
「変わったこと……ですか?」
守護天使は一般の天使なら誰もが憧れる存在だ。高官になるより、財を築くより、何よりもなりがたい。
と言うのも、何億といる天使の中でも守護天使はほんのひと握り。1人の神に最上級神でも十数人、位の低い神なら数人か、もしくは地上に暮らす様な土地神なら1人もいない事もある。
契約を結ぶと守護天使に直接神気を与える事になるので、多く契りを交わしてしまうと力の消耗がそれだけ激しくなる。だから多く守護天使がいるのは力があることの象徴でもある。
守護天使になれば不老長寿になれるし、神と同じ色を貰える。そんな花形中の花形の存在なのにどうして『変わり者』扱いなんだろう。
「アイリス様はまだご存知ないかも知れませんが、セフィロス様の世間の評判はすこぶる悪いんですよ」
答えてくれたのは、クスクスと笑っているエレノア本人だった。
世間の評判……。アレクシアが昔、氷の神より冷たいだのと言っていたアレのことか。
「こわーい風の神に永久に仕えるくらいなら、一般の天使の方がマシ。って言うのが普通の考えですからねぇ」
本人の前でもの凄くハラハラする様な事を言っているのに、エレノアは楽しそうだ。その横で聞いているノクトは表情に乏しいものの、険しい顔をしている気がする。当のセフィロス本人は何とも思わないみたいで無表情で聞いていた。
「でもエレノアはセフィロス様の守護天使になりたいと思ったのですよね?」
「はい、私は見る目がありますから」
エレノアが自信たっぷりに言うので、思わず笑ってしまった。
「ご、ごめんなさい。エレノアのセフィロス様への愛が、すごくよく伝わってきました」
「ふふ、ありがとうございます。そんな風に言ってくれたのはアイリス様が初めてです。私いつも、変わり者扱いですからねぇ」
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