第10話 最上級神会議(2)
「失礼致します」
アイリスは控えていた隣の部屋から会議室に入る。緊張がピークに達して倒れそうだ。
「ローブはもう脱いで良いわよ」
いつもの明るいリアナの声を聞いて、少しだけ安堵する。ローブを脱いでドレイクに手渡すと、みんなの視線がこちらに集まっているのを嫌という程感じる。
ここに集う7人の神もそのすぐ側に控える守護天使長達も、見た目はせいぜい20歳代前半にしか見えないが、その
「アイリス、皆に挨拶を」
フレイに促されてアイリスは跪いて最敬礼をする。
「太陽の神・フレイ様と水の神・リアナ様の子で、虹の神のアイリスと申します。ご挨拶が遅れてしまい、大変申し訳なく思っております」
「まぁ、隠してたのはこの2人だし、アイリスちゃんに非は無いよ」
早速「ちゃん」付けにしてきたのは、緑と青のオッドアイを持つ神だった。天界でオッドアイを持つ神はただ1人、雷の神・セトだ。
「そうだよー。もう立っていいからさ。それにしても君、すっごくキレイな色を持ってるね。光に当たる度に7色に輝くなんて、ステキ〜」
フレイと全く同じ髪色と目の色を持つのは、確か月の女神・ルナだ。半立ちになって遠慮することなくガッツリ見てくる。
フレイがアイリスに軽くみんなの紹介をしてくれた。
雷の神・セトと、月の女神・ルナは予想通り正解だった。火の神・ロキは燃えるような赤い髪とオレンジの瞳なので分かりやすい。
先程から全く表情を変えないのはやはり、風の神・セフィロスだった。対して穏やかな表情をしている、大地を思わせるような浅黒い肌の男性が大地の神・テスカだ。
「じゃあま、紹介も終わった事だし早速試させてもらおうか」
ロキがおもむろに席を立ち、ズカズカとアイリスの方へ近づいてくる。
アレクシアの火の神による大火事事件話から想像していたよりもロキはずっと小柄で、これは小動物系のジュノといい勝負だ。
いや、足元をよく見るとやたら厚底のブーツを履いている。もしかしたらジュノの勝ちかもしれない。
そんな事を考えていると、ロキが帯剣していた剣を鞘ごとずいっとアイリスに差し出してきた。
「お前、これ持ってみろ」
剣にビクリと反応してアイリスが後ずさると、ロキがニッと笑う。
「これ、俺が1000年くらい愛用している剣だから、絶対落とすなよ」
「ばっかだねー。そんな風な言い方したら、アイリスじゃなくたって怯えるに決まってるじゃん」
ヤレヤレと両手を上げながら、ルナが突っ込みを入れてきた。
「んじゃあアトラス、お前の剣貸せ」
ロキは自分の守護天使長を人差し指でチョイチョイっと呼び、剣を剥ぎ取る。
「ほれ、こっちなら落としてもいいぞ」
ロキはアイリスの手を掴み無理やり剣を持たせてきた。
途端にさぁっと全身が冷たくなる。体の中に冷水を流し込まれたかのようだ。剣を握った手が小刻みに震え、呼吸がはっ、はっ、と早くなる。全身で剣を拒絶しようとしているのが自分でも分かった。
「おぅ……こりゃマジか」
「ロキ、これ以上レディを困らせる事すると僕が黙ってないよ。アイリスちゃん、もう良いからね」
見かねたセトが、ロキをギロりと睨んで剣をアトラスに返してくれた。
「まだ弓とか槍を試してないだろ」
「もう充分だろ。アイリスちゃんが演技しているようには見えなかったし、そもそもそんな事をする意味もない」
ハイハイ、と言いながらロキはプラプラと席に戻っていった。
アイリスは会議室の隅にテーブルを用意してもらい、鎮静効果のあるハーブティーを貰った。自分より上級の方達の中で一人お茶をすするのは失礼なような気もするが、勧められたので素直にいただく。
「フレイ、リアナ。
これまで全く表情を変えることなく、黙って静観していたセフィロスがはじめて口を開いた。
彼が話し始めた途端に空気がピンと張って、アイリスは思わず背筋をのばした。
「さすがセフィロス、察しがいいな」
フレイが苦笑いを浮かべながら返した。
どういう事だろう。やっぱり他の神から見ても私の神気には問題があるという事か。やっと理由が分かるのかもしれないと思うと嬉しいけれど、知るのが怖くなってきた。
「なに? アイリスの神気の何が問題なわけ?」
「ルナ、其方はアイリスの神気をどんな風に感じる?」
「んー、なんて言うか、ふわふわ〜ってすっごく幸せな気分になるなぁ。よしっ、自分ならできるぞ! みたいな希望感と言うか、夢の中にいるみたいな」
「それで、どうしたくなった?」
「え? どうしたくって……。そうだなぁ。アイリスともっと一緒にいたくなっちゃう……って、そういう事?!」
「おい、訳わかんねぇ。そういう事ってなんだよ!」
ロキが半ギレで聞いてくる。
「最上級神の私たちがそんな風に思うんだ。下位の神や天使ならどうだ? アイリスに身を守る術を持たないと知ったら?」
セフィロスの問いに閃ひらめいて、ロキがなるほどと手を叩いた。
「……あぁ、なるほど! 無理矢理、神気を奪うかもしれない、って事か」
「一番の敵は魔物や悪魔ではなく、『神と天使』だ」
「そういう事よ。もし仮に一般の天使を護衛に雇ったとしても、アイリスの神気に当てられて逆に襲われるかもしれないでしょ」
「だからと言って、私たちにまで隠していたのは得策とは言えないがな」
リアナが賛同を得たとばかりに言うと、すかさずセフィロスが切り返す。
「はい、分かってます……」
フレイもリアナもいつもの威厳たっぷりな様子は何処へやら。完全に小さくなってまるで子供が親に叱られているようだ。
「あの……。よろしいでしょうか」
アイリスは恐る恐る挙手をすると、テスカがどうぞと発言を許してくれた。
「皆様の話を聞いていても、私の神気のどこに問題があるのかよく分からないのですが。1番の敵が神と天使と言うのは、一体どう言う事でしょうか」
答えてくれたのはフレイだった。
「アイリス、神が持つ力は体の内から外に向かって、常に放出されていると言うのは分かるね」
アイリスはこくりと頷く。
それぞれの神から出されている力は天界中に広がっている。その神気を一般の天使たちは背中の羽根から受け取り神通力として使う。さらに契約を結んで守護天使となれば、主から直接神気を貰えるようになる。
「神気を自分の体の内に感じることが出来ると思うけれど、この神気と言うのは体液に特に多く宿っているんだ。だから口付けや番う事で神気の受け渡しをし、魔物なら血肉を喰らおうとする」
昔、アレクシアに授業を受けていた時の話を思い出す。
女神の身体に男神の神気が一定量溜まり、女神側の神気と混ざり合う事で新たな神が生まれるのだと。
神というのはつまり、エネルギーが凝集して具現化した存在だ。
「子を成す他にも、力の弱い下位の神に神気を渡すために番うこともある。天使も普段は羽根で受ける神気を、番ったりすれば直に受け取ることが出来る」
だんだん事の真義が分かってきた。そういう事だったのか。ずっと自分が他の神や天使たちから引き離され隠されていたのは。
「君の神気は無条件に幸せな気分にさせてくれる、魅力的な物だ。そばに居ればもっと欲しいと思わずにはいられない。下位の神や天使ならなおさら」
フレイはひと呼吸置いて、そして核心をつく。
「僕とリアナは、抵抗する事の出来ない君が襲われて、無理やり番わされることを危惧したんだ」
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