第5話 前代未聞の問題発生

 天界には何百もの神がいるが、これまで披露目の儀で魔物を殺し損ねた事は無い。ましてや武器ひとつ手に取ることも出来ないなど、前代未聞の事らしい。


 リアナとフレイはあれから念の為と弓や槍も持たせてみようとしてきたが、やっぱりダメだった。恐怖で身がすくんで震えてしまう。


 アイリスは鎮静効果のあるハーブティーを飲ませてもらっている間、リアナとフレイが横で話し合っているのをぼんやりと聞いていた。


「何て言うかアイリスは、他者を傷つけることを極端に嫌う傾向にあるみたいね」


「気持ちの問題と言うよりは、身体そのものが拒んでいる感じだよなぁ」


「ねぇ、今思ったんだけど、もしかして守護天使達も……?」


 フレイもリアナが何を言おうとしているのか気付いたようで、練習用の剣や弓を虹の守護天使達の前に用意させた。


「君たちも武器を手に取ってごらん」


 フレイの言葉に、虹の守護天使達は各々に用意された武器を手に取る。


「守護天使達は触れるのか」


 2人はホッと安堵の息をついていたが、水の守護天使達と練習をはじめてみるとその安堵は一瞬で終わったようだ。

 

 通常天使は神と契約を結ぶと、主となった神の神気の恩恵を直に受けることが出来る。

 そうなると武器に主の神気をまとわせて扱えるようになるため、数段強くなるのだ。


 虹の守護天使達は武器を持つことに抵抗心を持たなかったものの、武器に上手く神気をまとわせられずにいた。


「全くまとわせられないって訳じゃなさそうだど……うーん」


「それに筋もなんて言うか……ねぇ」


 武器の扱いについてはよく分からない。ただみんなの表情を見る限りでは虹の天使達は初めてという事を差し引いても、武器の扱いが上手いとは言えないようだ。


「リアナ、アイリスの神気をどう見る?」


「やっぱりあなたも気になった?」


こくりとフレイが頷く。


「自分で自分の身を守れない。守護天使も頼れない。そうなると、この神気はかなり危険だと思う」


「そうよ……ね。守護天使ではなく一般の天使を護衛に雇った所で、余計に危険な目に合うかもしれないし」


「場合によっては位の低い『神』ですら、危険な存在になるかもしれない」


危険……? 思いがけず突然暴走しちゃうとか? そんな事があったら確かに困る。でも自分は花瓶すら壊せなかったし……。

危険な目に合うとか、神が危険な存在とか何だろう?

2人の会話の内容はよく分からないけれど物凄く不安になってくる。


フレイは目頭を抑えながら「んんー」と唸っている。


「とは言え、今は解決策が全く思い付かないなぁ」


「とりあえず披露目の儀は延期という事にして、準備途中の招待状は送らないでおきましょう」


「そうだね。それに成長期を迎えたら、もしかして変化があるかもしれないしね」


 フレイの言うこの成長期と言うのは、神が大人になる事を意味する立神りっしんまでの間に3度訪れる。

 1度目は7歳、2度目は14歳、3度目は20歳の時。生まれた時にはまだ、自身が本来持てる力の1割程度にしかない神気が、成長期と言うポイントを迎えると、グンと身体も神気も変化・成長をする。

 そして無事に3度の成長期を迎え終わると、神としての力を確立できるようになるのだ。


「確かに。しばらく様子見ってことね」


「あの、私の神気はどこかおかしいのでしょうか」


アイリスは勇気を出して恐る恐る2人に聞いてみた。聞いたら聞いたで恐ろしい答えが返ってくるかもしれないけれど、自分の事なのに知らないのは気持ちが悪い。


 アイリスの問にリアナとフレイは互いに顔を見合せ、なんとも言えない表情をする。


「おかしくなんてないわよ! アイリスの神気は他の上・上級神達に引けを取らないくらい素晴らしいんだから!」


「そうだよ。ちょっと心配な事があるってだけで、君には何の落ち度もないから。ほら、今日はもう疲れただろう?ゆっくりと休むといい」


 そう言ってフレイとリアナは、天使達に何やら指示を出して部屋から出ていった。

 何が起きているのかさっぱり分からないアイリスを置いて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る