第二話 いまになってあなたを知る

よく似た人、よく似た花

 からん、と、ドアに取り付けたベルが、来客を知らせる。

 切り花の手入れをしていた私は、声も出すことなく、顔も上げるようなこともしなかった。ただ静かに、いつも通りに花屋を営んでいた。


 かつかつと、足音が響く。やってきた客は、何かを探しているようだった。それとも、この「花屋」という、人とっては気味の悪い店に戸惑っているのだろうか。


 花には様々な色や形があり、香りも違う。

 そんな花は、全て、枯れるためにある。


「――すみませーん」


 やがて、そろそろと声がかけられる。まだ子供らしさが残った声だった。


「あの、作業中ごめんなさい……薄いピンクの花ってあるかしら」

「――ええ、ありますよ」


 私はハサミを置いて、垂れてしまっていた長い灰色の髪を耳にかけた。


「あちらに……咲き頃を迎えていて、いい具合に枯れそうな――」


 そうしてようやく、顔を上げた。


 ――よく膨らんだ、薄いピンク色の蕾が、目に入る。

 瞬間、私は息を止めてしまった。


 目の前にいたのは、女学院生だった。その灰色の制服からわかる。目が合えば、ぱっちりとした金色の瞳が笑う。


 その雰囲気も。そして明るい茶髪を飾る、薄いピンクの蕾も。

 ――かつて咲いてしまった姉に、よく似ていた。


 昼過ぎのことだった。まだ室内の明かりを灯さなくとも、外から差し込む日光が優しく店内を満たしてくれる、そんな暖かな日のことだった。

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