第19話 職歴18社目(ラーメン店勤務(アルバイト)。勤務期間1日)

貿易事務でまた転職活動をしようと決意したが、求人がなかなか出てこない。求人が出ても給与面、待遇面、福利厚生面で希望と合わず応募する気になれない。

時間だけが過ぎ、貯金はどんどん減っていくばかりだ。バイトをしないといけないと思った。

正社員で働く前のリハビリになると思った。家系ラーメンが好きなので近所の家系ラーメン屋さんで働きたいと思った。ラーメンを食べる事が好きならば作る事にも興味が持てるだろうと思った。

早速面接をしてくれた。優しそうな店長さんだ。家族の事もあるし、無職で可哀そうだからという事で即採用になった。

こってり濃厚ラーメン屋さんの面接の結果は、あっさり決まった。

朝10時~昼14時までのシフトに入れてくれた。失業給付の関係で週20時間未満になるように調整してくれた。

勤務初日。店長さん。女性店員さんの二人がいた。

私は挨拶をした。「おはようございます。今日から働くことになりました佐々木です。

宜しくお願い致します」と言った。二人とも歓迎してくれた。

店長さんは、女性店員の方に分からない事は何でも聞くようにと言った。

まずホールの担当になるとの事だった。

仕事内容は、お客様が入店したら席をご案内して、お水を持っていき、注文を聞いて、ラーメンの好み(味の濃さ、麺の茹で加減、油の量)を聞く。そして厨房に向かって、注文いただいたラーメンの名前を大声で叫ぶ。この店はライスが無料だったので、殆どのお客様はライスも注文する。ラーメンが出来上がる前にライスをお椀によそい、お客様に提供する。そして厨房の店長さんが「ラーメン提供」と言ったら、ラーメンの中にトッピング具材を乗せて、ラーメンをお客様に提供する。その時にラーメンのメニュー名とお好みを言いつつ、おまちどうさまでしたと言って差し出す。

お客様が食べ終わったらラーメンの丼とコップ、ティッシュなどを片付けて厨房の流しに運ぶ。そして席の上を濡れタオルで拭き、調味料などが減っていないかをチェックしながら次のお客様が座れるように準備をする。基本的にこの繰り返しだ。

先輩の女性店員が話しかけてくれた。

「宜しくお願いしますね。はじめは緊張しますよね」と気持ちをリラックスさせてくれた。

「私、何歳に見えますか?」と聞かれた。

一瞬考えこんだ。マスクをしているので分からないが25歳ぐらいに見えた。

実際より若く言った方がいいのだろうと思って、「20代前半ですか?」と答えた。

彼女は「そうですよね。。やっぱり上に見られますよね~」と少しがっかりした表情になった。実際は18歳の現役高校生だそう。

私は心の中で「えっ」と思った。まさか42歳のオッサンが高校生の女の子に仕事を教わることになるとは思わなかった。

しかし、彼女の仕事ぶりを見ているとテキパキしていて、声もハキハキしていて明るく接客慣れしている。最近の若い子はしっかりしているな~と感心した。

それに比べて私ときたら、覇気のない暗くて元気のないオッサン。何をやっても仕事が長続きしない駄目駄目オッサン。

彼女に聞いたところ、このラーメン屋さんで、1年半バイトをしているのだという。しかも週に5日シフトに入っているという。凄いと思った。

多分、この女子高生は、私より貯金を持っているだろうと思った。

ランチタイムは席が満席になる。行列もできたりする。ライスが無料だから、大きい炊飯器の中のライスがどんどん減っていく。女子高生の先輩はライスを切らさないように、もう一つの炊飯器でご飯を炊く準備をした。

そうしたら店長さんが「なんだよ~。もうすでにこちらで用意していたのに」と、女子高生の先輩に軽く注意をした。

女子高生の先輩は「えへっ(笑)やっちゃいました」と舌を出して笑った。失敗して怒られても全く気にしていない。メンタル強いな~とまた感心した。

私なら犯したミスを気にして一日落ち込んでいただろう。

それにしてもランチタイムは次から次へとお客さんが来てこちらはてんてこ舞いだ。

お水の提供から、注文受け、味の好みの確認。次々にお客さんから呼ばれる。ライスもどの席のどのお客さんに出せばよいか分からなくなるし、そうこうしているうちに「料理提供!」と店長からは呼ばれ、トッピング具材を盛り付け、ラーメンを提供するのだが、これもどこの席のお客さんに提供すればよいか一瞬混乱する。

お客さんが帰ろうとすると、出口のドアを開けてお見送りをして挨拶をする。その帰りがけに食べ終わったテーブルを片付ける。

今日は私が初日だったので3人体制だったが、本当なら二人で捌くらしい。次回の勤務からこれを二人でやる事になる。

デリバリーのオーダーも入る。専用の容器を用意したり、丼物のメニューも準備しないといけない。

この他に仕込み作業がある。

ラーメンの出汁を取るための背脂を初めて見た。ダンボールの箱に冷凍された状態でカチンコチンにぎっしり敷き詰められていた。小型のエイの形をしている。これを叩きながら柔らかくして自然解凍させる。一つ一つ剥がして別の場所に保管する。これが固くて、なかなか剥がせない。イライラする。その間も、お客さんから呼ばれるし、店長からも料理提供で呼ばれる。もうパニックだ。私は戦意喪失して、ギブアップした。一日終わって、店長にメールで退職の旨を伝えた。使用した制服はクリーニングして返却するようにとの事。

私の一日のバイト代は制服のクリーニング代で消えた。

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