守りたい
皮肉なもので、欲しくて、欲しくてたまらない時には手に入らない。欲しがるのをやめた時、諦めた時に突然、手に入るものもある。
俺は色んな事を欲しがるのを7月15日辞めた。目の前の人の幸せを本気で願った。自分の中にある本能や欲は消えていた。襲ってやろうとか、自分のものにしたいとか、そんな感情はどこかへ飛んで、守りたい気持ちが強まっていた。
モモの唇が俺を求めている。モモが俺を求めている。俺の初めてはモモに染まっている。
俺の心が辛い。我慢できなくてまた、目から涙が溢れそうだった。
「モモ、寝な。夜弱いでしょ。俺とこんな事したって心が痛むだけだよ」
モモの手を引きベッドへ連れて行く。モモに布団をかける。
モモは俺の手を握る。また泣いている。この手で涙を拭いてやりたい。
「中野、中野だからだよ。ごめん、ごめん」
分かってるよ、そんな事。なんでこんな事になっちゃったんだろうな、俺たち。俺の責任でもある、ごめんな。言いたくて言えない。喉の奥で言葉がつっかえる。俺はまた吃音にでもなったのだろうか。
「…ご、めんな」
「中野が好き」
「分かってるよ」
その好きがどの種類の好きか分かってるよ。俺の前で言葉を選ばず、思ったまま言ってしまうのモモらしい。相手が傷つくとか考えず、俺の前ではいつも素直だった。他の人には、傷つかないように、言葉を選ぶくせに。そこがまた好きだし、俺だけなんだって優越感に浸れた。
今思えばクリスマスの日から、モモは俺に遠慮して、言葉を選ぶようになってしまっていた。モモが思った事を言えなくしたのは俺の責任だ。モモを好きすぎた。
「中野が、好きだから。中野だから、他の男子じゃなくて、中野だったから。ごめんね」
ずるい女って思いたい。でも、ずるくはなかった。酔っ払って、理性が保てないだけだ。今のモモはきっと、満たされるものが欲しいだけだ。そして、これは本心で言っていると分かってる。今の俺は、弱々しいモモの全てを受け入れる気持ちでいた。
「分かってるから。うん…。ごめんな、俺が…。もうモモは自分を大切にしなきゃ駄目だ」
俺が傷つけたよな。ごめんな。
「私、く、苦しくて」
モモの手が俺を引っ張る。
「分かってるから」
モモの苦しみの全部は分からない。でも、分かっているよ。モモが俺だから許したのも分かったよ。
「私、あたまくるちゃった…」
モモが俺の腕を揺らす。小さく、力ない声でごめんねを連呼している。
「…モモ大丈夫だから」
「…いきてる…つらい…」ささやくような、途切れ途切れの声でそう言った。頬から涙が溢れている。もう一人で辛さを抱えなくていい。小刻みに、震えるモモ。モモの感じてきたものが重たく俺にものしかかる。何もしてやれない。
何してるんだ、須郷さんは。俺が須郷さんだったら良かった。
モモを守ってやりたい。
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