突然の連絡


◇◇◇


 諦めたほうが楽だってどんなに思ったか。一緒に笑って、ご飯食べて過ごすだけでどんなに幸せか。友達だって割り切れたらどんなに楽か。頭が腐る程、俺は、考えた。考えたけど、結局、付き合えなくてもただ側にいれたら嬉しい思った。それから高望みはしなくなった。



 大学4年生の冬、国家試験もあるせいかモモが荒れている日が続いた。


 クリスマスの1ヶ月前、モモと喧嘩をした。3週間も口をきかなかった。その辛さは大学1年の時、モモから避けられた時と比べ物にならなかった。気持ちが動いた。人と喧嘩をするなんて初めてだった。面と向かって人に怒れるのが初めてだった。ずっと吃音で言葉が出なかったし、人からどう思われるのか怖かったから、喧嘩なんてしたことがなかった。

 喧嘩の内容はどうでもいい内容で覚えていない。ただ、モモがヤキモチを焼いた事は分った。モモのおかげで俺の世界は広がったけど、モモには心を許せる友達がいなかった。モモの心はいつも塞がっていた。モモは俺を唯一の友達だと思っているから、俺がどこかへ行ってしまうと小学生のようにモモは俺だけにヤキモチを焼く。



 モモがいない時間を通して、モモが俺にかける負担も背負いたいと思ってしまった。とことんモモが好きだった。俺は前より好きが増してしまった。卒業すれば終わると分かっていながら、好きに溢れていた。


 大学4年生のクリスマス。皆でファミレスで勉強をしていた。モモのスマホが長いこと振動していたけど、モモはスマホを悲しそうに見つめて電話に出なかった。

 前は、嬉しそうに出ていた電話。何かのイベントがあると、テスト前だろうが勉強の途中で帰っていた。いつも俺はその嬉しそうな後ろ姿を眺めていた。



 このままの関係で静かに終わればいいやと思っていた。だけど、このままでいたくないとあの喧嘩から思いはじめていた。だから、クリスマスの日、モモの行動の不自然さが気になって仕方なかった。

 前の俺なら、思わせぶりな態度取るなよ、騙されないぞって心の中で思っているけど、今回は、モモに近づきたいと思っていた。


 クリスマスの日、モモを車で送っていった。V字の襟のセーターから、モモの白い首筋が見えた。声をかけてもモモは起きなくて、肩を優しく揺すった。それでも起きない。モモの白い肌。俺の中で何かが崩れた。

 気づいたらモモの柔らかい肌へ手が伸びていた。これは、セクハラ。ニュースで捕まるやつ。モモへ酷い事してるんじゃないかって思った。もう、俺は終った…。

 モモは、ただ「大丈夫」とだけ言った。大丈夫ってなんだ?嫌われるんじゃないか、避けられるんじゃないか、と、思った。


 だけど、その後もモモは一緒に勉強をしてくれた。モモは俺が送って行くよと言うと、逃げはせず一緒にいてくれた。今までと違かった。モモの心の隙間に入りたいと願ってしまった。


 壊れた俺は何とかしてモモが欲しかった。俺の所にくれば俺が幸せにしてやる。今まで無性に何かを欲しがったことはなかった。諦めるだけの日々だった。傲慢だけど、沸々と湧く強い感情を俺はもう止めたくはなかった。今までのようにはしたくなかった。


 モモは何かを受け入れている気がした。覚悟を持って助手席に乗っている気がした。モモが欲しい。俺はとうとう1回の罪じゃ押さえられなくて、1月下旬助手席に乗ったモモにキスをしてしまった。キスの仕方なんて分からない。始めのキスがモモであって欲しかった。俺は馬鹿げてる。同意のキスじゃない。変態だ。理解してる。それでも、モモは俺を受け入れた。


 卒業したらモモは須郷さんの所へ行く。その前にモモが欲しい。俺は、モモと須郷さんがもう終わっていることをキスしたその日、確信した。


 俺とモモの間にあった大きな壁が崩れた音がした気がした。ずっと壊せなかった壁が壊れた気がした。


 モモと俺はキスだけする関係となった。もう友達ではない。それがどんな形でも嬉しかった。モモは、それ以上はさせなかった。


 卒業式が近づく。モモが須郷さんから離れられない事を悟った。それでも今の関係でいたい。いつかモモと隣で笑いたい。


 卒業式後から、モモからの連絡が途絶えた。どんなに連絡しても駄目だった。モモは須郷さんと生きる事を覚悟したんだと悟った。


 それが7月15日金曜日20:30過ぎ、モモから急に電話が来た。連絡が途絶えて4ヶ月経っていた。俺はドキドキした。ワクワクした。だけど、そんな気持ちはすぐに心配に変わった。

 電話の向こう側の声は、声が歪み呂律がまわっていなかった。モモは明るく振る舞おうと冗談を言うけど、モモが泣いていると、すぐに分かった。モモが限界だって直感ですぐに分かった。



 モモの家なんて分からない。それでも、モモの家の近くの最寄り駅まで気づけば車を走らせていた。時刻は23:41。

 

 俺はモモに電話をかけた。もう一度電話に出てくれと、願った。電話には出なかった。

 わけも分からず、コインパーキングに車を止め走って探していた。モモがそこに居るわけじゃないのに。

 もう一度電話をする。電話に出ない。また電話をかける。出ない。何度もかける。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る