第3話 秘密の夜

 そして、放課後に美術部に来てくれた。星野はソファーに座りまったりしている。


 何だろうこの気持ちは……それは遺伝子が引き合う気分だ。そう、女子同士でも遺伝子が引き合うのだ。


 私は静かにソファーに近づき星野の隣に座る。二人で座ると狭いソファーは星野の息づかいが感じられた。


「キスがしたい……」


 星野が小さな声で呟く。ああああ、私は頭が混乱する。


 落ち着け、落ち着け。私はリップを取り出して、口に持っていく。


「間接キスでいいか?」

「……ずるい、でも、そのリップ欲しいな」


 星野は私の使ったリップを手にすると唇に運ぶ。星野の目がトロンとして、私も気持ちが高鳴る。それは静かに引き合う遺伝子の引力であった。


 ああああ、キスしたい。今ならいける。


 そう思った瞬間に星野は立ち上がり。何時もの場所のパイプ椅子に座る。


「さあ、始めましょう」

「あぁ……」


 私はキスの機会を失った事に絶望する。大丈夫だ、機会はまたある。そう思うと心が落ち着いた。でも、この白さは何、星野の心に触れる度に自分の心が白い事に気づく。純白の白ではなく、何も無い白と言えるのだ。


「所で、星野のヴァイオリンが聴きたいがどう思う?」


 私はキャンバスに手を動かしながら質問をする。コンクールで上位が狙えるのだ、それなりの腕前なのであろう。


「聴きたい?」

「あぁ」


 その問に星野は自分の手のひらを見て考え込む。


「私はヴァイオリンを弾く道具です。望めば弾く事も簡単です」

「ゴメン」

「謝ることはないです。それが私の存在意義です」

「わかった、一度お願いします」


 その言葉に星野は機嫌が悪くなる事もなく、快諾する。


 存在意義か……きっと、星野の心の色はヴァイオリンなのであろう。


 長い沈黙の後で時間が来た事を確認する。


「今日はこれくらにしよう」

「はい」


 私は星野にヴァイオリンを聴きたいと言った事を後悔する。


「明日、ヴァイオリンを持ってきますね」

「わかった」


 このまま星野を帰していいのか?本当に正しい選択なのか?


「ほ、星野!!!」

「どうしたのですか?」

「今日はこの美術部の部室に泊まらないか?」


 驚いた様子の星野であったが、何かを感じ取り静かに頷く。


「本当は今日で最後でした。母はヴァイオリンを辞める事を許してくれませんでした」

「やかり、そうか……」


 私の胸騒ぎは当たっていた。このまま、この部室に泊まればヴァイオリンを辞める意思表示ができる。しかし、星野がヴァイオリン辞めてしまって本当にいいのであろうか?


「星野はヴァイオリンを弾く事は好きか?」

「言ったはずです、私はヴァイオリン弾く道具だと、AIが音楽を奏でるのに似ています」


 とにかく、生で演奏を聴かないと分からないな。そんな事を考えていると。星野がソファーに座る。ここで寝るのだよな。


「何を照れているの、二人で寝ればいいでしょ」


 私は頬をかきながら照れていた。他の寝る場所が無いとはいえ星野が近すぎる。ここは不可抗力だと言い聞かせて星野の隣に座る。


 あああああああ、愛し合いたい。火照る体は星野を求めていた。


 しかし、現実は厳しい、狭いソファーに二人で座っても、触れ合うのは手のひらだけであった。それでも繋がった手のひらは温かく心が落ち着く。そして、辺りが暗くなり、私達は早い時間から寝る事にした。


 部室の照明をつける訳にもいかず。やる事が無いのだ。勿論、スマホの電源は落としてある。


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