第42話 暴走したダンジョン内部

「皆さん、おはようございます!」


『おはよう~』

『朝に配信って珍しいね』

『休みだから?』


 土曜日の午前中に配信を始めたからかそんなコメントが流れてくる。そういえば基本的に学校終わりにいつも配信してるから朝に配信を始めるのは初めてかも?


「ですね~。今日はレコーディングも何もありませんので朝から配信が出来るって感じです」


 たまに休日にレコーディングが入って忙しくなるけど、最新の曲ももう撮り終わってかなり暇な時間が流れていたのだ。

 その間にダンジョン配信をしようという算段である。


「それじゃ早速前回の続きからダンジョン探索を再開していこうと思います」


『おっしゃ待ってた!』

『気を付けてね~』


 私が来ていたダンジョンはもちろん、あのダンジョン暴走が起きたところだ。一応、ダンジョン協会の人にはちゃんと配信許可を取っている。

 ていうかダンジョン暴走を起こしてるところで配信をしている人なんて私が初めてなんじゃない? 

 ダンジョン内では未だに強力な魔物たちが跋扈しており、ダンジョン暴走が収まっている気配はない。そりゃあ、こんな所で配信する方が馬鹿なのか。


 でも私としては配信を見てくれる皆が居た方が寂しくなくて良いんだけどな。


『初手からなんかエグそうなの湧いてない?』

『あれ危険度8以上あるでしょ』

『マナちゃんの潜ってるダンジョンってそんなヤバいところなの?』

『てか凄い量居ない? マナちゃんが潜ってるダンジョンってもしかしてあのニュースで話題になってたところ?』

『ダンジョン暴走のとこじゃない?』

『言われてみればそんな気がしてきた』


 まだ何も話していないのにここがどこのダンジョンなのかを当ててくる猛者がコメントに現れる。そうだよ、と言いたいところだけどそれを言っちゃうと色々バレそうだしな。

 それに竜也さんからすれば最近、暴走したダンジョンに入るための許可証を取った女性探索者である私と暴走を起こしているダンジョンで配信をしている『マナ』という配信者を結びつけるのは簡単だろう。


「一応どこのダンジョンかは言えないです。申し訳ありません」


 身バレするリスクを考えて取り敢えず視聴者さんには秘密という事にしておいた。まあどうせ暴走してるダンジョンだって気付いている人にはあんまり意味はなさそうだけど。


「それじゃあ早速始めますね」


 そう言うと私は歌い始める。今回の歌は最近MVがリリースされたばかりの新曲、『いばらの道』だ。

 歌に呼応して至る所から茨が生えてくる。


 地面から壁から天井から、四方八方から生えてきた茨は私が歌うごとに力強く鞭のようにしならせて魔物たちの方へと飛んでいく。

 その威力はまさに破壊的だ。


 私が思い描く通りに魔物達をなぎ倒していってくれる。


『早速生歌が聞けて嬉しいいいいい』

『いつ見ても配信映えするよな~、歌姫って。歌とダンジョン攻略両方できるとか最高じゃん!』

『早く生のマナちゃんが見たいよ』

『ライブはまだですか?』


「ライブは私だってしたいんですよ」


 まだそこには至れてないっていうだけで。最初は夢みたいな話だったけど、今となってはそれも少し現実味を帯びてきているのは確かだ。

 いつか来るんだな、と思いつつまだ来ないでとも思う気持ちがある。それが私の夢だから。


 それからダンジョン暴走で発生した異常種たちを四苦八苦して倒しながらようやく私は第二十階層にまでたどり着く。


「次がボス戦っぽいですね」


 暴走したダンジョンでのボス戦は私も初めてだ。元々が危険度8以上もあるのに、それが更に強くなるって考えたら……。

 いやでもここを進まなきゃAZUSAさんを助けられないんだから。


「それじゃあ行きます」


『マナちゃん! 気を付けて!』

『ファイト!』

『まずは最初のボス戦だ! まあ、マナちゃんなら大丈夫だろうけど』


 コメント欄も私の勝利を疑っていないようで押せ押せムードが流れている。しかし、次の瞬間、雰囲気が変わる。


 ボス部屋で待っていたのは今までの魔物達を遥かに超えるような存在感を放った奇妙な魔物であった。

 

 見上げる程に高く、顔は牛、背中からは大きな翼が生えている。まさに御伽噺で出てくる悪魔のような見た目をした魔物の手には魔物の背丈ほどはあるだろう三又に分かれた槍が握られている。


「また新種ですか?」


『新種だね』

『見たことねえ』

『明らかに強者の感じなんですけど』


 新種の魔物なんてめったに見つからないはずなのに、なんでこうも私の配信で見つかるんだろ。これでデーモンとかも含めたら三回目とかじゃない?


「取り敢えず行きます。『反逆の光』」


 最初は静かなテンポから始まるこの曲はしかして中盤で怒涛の激しい曲調に切り替わり、相手を翻弄する。


 光の速さで飛んでいく私を見もせずに微動だにしない牛顔の魔物。


 このまま攻撃を叩き込んでしまおう、そう思った矢先に魔物の顔が突然ぐるりとこちらの方を向くと、次の瞬間、私の目の前に三又の槍が振り下ろされる。

 一瞬の出来事に私は意味が分からなかった。さっきまでピクリとも動いてなかったのにいつの間にか目の前には巨大な槍が振り下ろされているのだ。


 私は咄嗟に反応して極大の光の槍を生み出して当てる。


 刹那、両者の攻撃が衝突し、すべてを飲み込むほどの超爆発を生み出すのであった。

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