第41話 証拠
「それにしても驚いたよ。探索者だったのはともかくとして、まさかAZUSAの知り合いだったなんて」
ダンジョン協会への道のりで竜也さんがそう言う。結局、私はAZUSAさんの知り合いであることを明かして竜也さんの説得を試みたのだ。
その結果、オーケーを貰って現在に至る。
「でも僕でも貰えるかどうかは分からないよ。ダンジョン暴走なんてまだ二回目の事例だし。調べた感じだと力のある探索者は許可を貰えるらしいけど、あまり強くない探索者は弾かれているらしいからね」
「でも茉奈ならきっと大丈夫ですよ」
「って美穂ちゃんも言うから承諾したんだけどさ。てかそれくらい強いならもしかして僕でも知ってるくらい有名なの? だとしたらサイン欲しいんだけど」
「いえ、申し訳ないですけど探索者で有名なわけではないです」
有名というのを自分で言うのもなんだか気が引けるけど、少なくとも探索者として有名になったわけじゃなくてあくまでダンジョン配信者として有名になったわけだから嘘じゃないよね。
「そうなのか。まあAZUSAと知り合いってだけで全然凄いと思うんだけどね」
そう言いながら竜也さんが歩いていく。その隙に美穂ちゃんがこちらへ顔を近づけてきて、私の耳元で口を開く。
「AZUSAの知り合いの“茉奈”なんだし気付くと思ったけど、案外バレないわね」
「そ、そうだね、ハハ」
まあでもマナを知らない人なんてまだまだ沢山いるだろうしね。だってAZUSAですら知らない人もいるくらいだし。竜也さん、AZUSAは知っていたけど。
「うん? 二人とも、どうかしたかい?」
「いいえ、何でもないですよ」
竜也さんにそう言われて美穂ちゃんと私はコソコソ話をやめる。不思議そうな顔をしているあたり、本当に正体がバレていなさそうでホッとする。
ここまで素顔の状態で情報を出したのは家族と美穂ちゃん以外で初めてだったからちょっと冷や冷やしていたんだけど、意外と大丈夫そうだな。
「ふーん、まあなんでも良いけど。あっ、一応探索者としての何か目に見える実績とか用意しておいた方が良いかもだけど持ってる? ダンジョンの攻略回数が記録されてる水晶とか」
「大丈夫です。持ってます」
「おっけー。それじゃぼちぼちダンジョン協会に着く頃合いだし、取り敢えずそろそろ父さんに連絡するか」
そういって竜也さんは携帯電話を取り出し、通話をかける。その間、私と美穂ちゃんは少し離れたところで喋りながら竜也さんの事を待つのであった。
♢
「それで? あのダンジョンへ入る許可証が欲しいと言ってるのはその子か、竜也?」
「うん」
時は経過し、現在私達は少し強面のおじさんの前に立っていた。ていうかなんかどこかで見たことあるなと思ったらダンジョン踏破の時に表彰式で星形のバッジを渡してくれたあのおじさんだ。
向こうは私の事に気が付いていないだろうから、今もちょっと疑うような目でこっちを見てきているけど。
「竜也にも少し言っておくがね、ダンジョン暴走というのは君達みたいな一般人が遊びで入れるほど甘いところじゃないんだ。それこそレベル8の魔物が至るところを闊歩している地獄だ。君が行けば一瞬で死ぬ。だから許可証は出せないな」
一度で諦めさせるように敢えて厳しい言葉を選んでそう言っているのだろう。でもこっちとしてもそう簡単に引き下がるわけにもいかない。やっと見つけたデーモンの手掛かりなんだから。
かといってこの話し合いを長引かせてしまっても無理言って会ってもらっている以上、邪魔してしまっている気がして申し訳ない。
「茉奈ちゃん。どうやら無理そうだ。期待させてしまって……」
私は竜也さんの言葉を無視して一歩歩み出ると、おじさんの机の上にコトンと何かを置いて見せる。そしてそれを見たおじさんは驚いたような顔をしてこちらを覗き見る。
「こ、これは……」
「どうでしょう? これでも駄目ですか?」
私が置いたのはあのダンジョン踏破の証となる星形のバッジだ。竜也さんには見えないように置いたのを察したのかおじさんもそれ以上は何も言わずに目を瞑る。ていうか多分、私がマナって気が付いたっぽいな。
一応、一度対面で会っているわけだし。それにしても察するの早すぎだけど。
「……よし分かった。私としても優秀な探索者が調査してくれるのはありがたい。なにせ上位探索者の数は限られているからね。少し待っていてくれ。いや、この場合待っていてくださいと言うべきか?」
「いえいえ、お気になさらず」
そう言うと私はサッとバッジを懐へと戻し、おじさんも立ち上がって部屋の外へと出ていく。
「え、君ってやっぱり有名な探索者なんじゃないの? あんな父さんの顔初めて見たんだけど」
「そんなことないです。ただのしがない探索者ですよ」
そうして待っている間、問い詰めてきた竜也さんの質問をのらりくらりとかわし、それを見て美穂ちゃんがくすくすと笑い続けるという何ともおかしな空間が続くのであった。
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