第40話 理由
新しいダンジョンを攻略し始めた次の日の朝、朝ご飯を食べながらとあるニュースが流れてきたのを見て驚愕に目を見開く。
「えっ」
そこに映し出されていたのは昨日、私が行ったダンジョンだ。そしてそのダンジョンで以前大規模ダンジョン『摩天』でもあった『ダンジョン暴走』が起こったというのである。
「最近、何だか物騒になってきたわね~。大災害とか起こらなかったら良いんだけど」
お母さんの呟きにも応えず、ご飯を頬張るのも忘れてそのニュースに釘付けになる。ダンジョン暴走はデーモンの手掛かりになる可能性が非常に高い。
あの時の口ぶりからしてデーモンがそれを引き起こしているであろうからだ。
「見つけた」
やっと見つけたデーモンの手掛かり。やっぱりあのダンジョンから既に違う場所へ移動してたんだ。
「ご馳走様。それじゃ行ってくるね、お母さん」
「はいはい、いってらっしゃ~い」
はやる気持ちを抑えて私は学校へと向かう。何にせよ、ダンジョンに潜るのは学校が終わった後だ。今すぐ行ってもどうせ止められるだけだしね。
♢
「え、また竜也さんと会いたい?」
「うん、お願い」
学校に着くと私は早速、美穂ちゃんに頼みごとをしていた。頼みごとの内容は以前、ダンジョン協会を案内してくれた美穂ちゃんのモデル事務所の先輩、神宮司竜也ともう一度会いたいという内容であった。
「何、そんなに竜也さんのこと気に入ったの? AZUSAが居るのに?」
「違う違う、そうじゃないの。実はダンジョン暴走したダンジョンの中に入りたくて。でも多分、一般人は入れないよね? だから竜也さんに頼んでダンジョン協会の人に許可を貰えないかな~って」
普通だったらダンジョン協会に繋がりがあったとしても許可がもらえない可能性は高い。でもダンジョン協会のお偉いさんの息子である竜也さんならその許可も通るかもしれない。
最悪、星持ちであることを明かして無理やり通してもらうっていう手段も頭の中にはある。竜也さんには怪しまれるだろうけど、どんな手を使ってでもデーモンの初めての手掛かりを逃したくなかった。
「あー、今朝ニュースでやってたあのダンジョンね。もしかしてあの魔物と何か関係がありそうなの?」
「うん、そうなんだ」
「分かったわ。ちょっと連絡するから待っててね」
それから美穂ちゃんが携帯を取り出し、連絡アプリで竜也さんへと連絡を取ってくれる。少しして返事が来たらしく、美穂ちゃんが圭チアの画面からこちらに顔を向ける。
「今日の17時からだったらいつでもいけるだって。どうする?」
「ぜひ17時からで!」
「オッケー。集合場所は適当に決めてっと」
そうして美穂ちゃんのお陰で竜也さんと再会することが決定したのであった。
♢
「おっ、早かったね」
「あっ竜也さん。遅いです」
「ごめんごめん、ちょっと授業が長引いちゃって」
その日の放課後、近くの公園で待ち合わせをした私と美穂ちゃんは時間に少し遅れた竜也さんと合流することに成功した。
「それで僕にどんな用があるんだい? またダンジョン協会の資料室に連れていってほしいの?」
「いや、資料室は大丈夫なんですけど、そのダンジョン協会に用がありまして。最近、ダンジョン暴走が起こったダンジョンがあるじゃないですか?」
「うん、あるね。それがどうした……ってまさか」
言っている途中に気が付いたのか竜也さんの顔が強張る。まあ、あれだけデーモンの手掛かりを探していたし、私がダンジョンに行きたがっていることなどお見通しなのだろう。
「この非常事態ならダンジョン協会に有名探索者が集まっているだろうから君も会いに行きたいってことなんだろ!? 分かってるね君。いや、不謹慎だってのは分かってる。言いにくいだろう? でも大丈夫、それは僕も同じさ! 探索者オタク心という物は抑えることが出来ない情熱そのものなんだから仕方ないんだよ!」
違った。一体どのベクトルに考えを持っていったらその答えに行きつくのだろうか。百歩譲ってダンジョン探索に乗り込みたいとかいう考えが読み取れなくてもダンジョン暴走を見に行きたいくらいってことなら分かると思うんだけど。
「いや全然違うんですけど」
「竜也さん。それはあなただけです」
「そ、そんな……せっかく仲間が出来たと思ったのに」
予想以上にがっくりと項垂れる竜也さん。ひょっとしてダンジョン協会の資料室に案内してくれたのって私を探索者オタクに引きずり込むための策略だったんじゃないだろうか?
ダンジョン協会に行けば少なくとも協会所属の探索者とすれ違う訳だし。
先程のやり取りで緩んでしまった緊張感を失いながらも、私はコホンと一つ咳払いをして口を開く。
「端的に言いますとダンジョン暴走を起こしたダンジョンを探索しに行きたいと思っておりまして。その許可を竜也さん経由でダンジョン協会に取っていただけないかなというご相談でして」
私がそこまで言うと、竜也さんは少し意表を突かれた顔をしたのちに、今度は真面目な顔をこちらへ向ける。
「正気かい?」
「はい」
見定めるかのような視線。こうしてわざわざ美穂ちゃんに連絡を取ってもらって相談に来ている感じからして冗談ではないとは分かっているだろう。
ただ、ごく普通の女子高生がダンジョン暴走したダンジョンへ探索に行きたい、などと言い出すのは疑っても仕方のない程にあり得ないことだ。
以前ダンジョン暴走が起こった摩天では国内最強の精鋭部隊が乗り込んで結局鎮圧に成功したは良いものの、かなりの痛手を被ったと聞く。誰が好き好んでそんな危険地帯へ足を向けるのだろう?
ベテランの探索者でも関わるのを忌避する、そんな危険地帯に私が行きたいなんて言っても自殺行為にしか見えないのだ。
「茉奈ちゃんって探索者だったのかい?」
「はい、一応」
「なるほど、だから熱心にあの魔物について調べていたのか……それでダンジョン暴走が起こった場所にあの魔物が居るかもしれないからってこと?」
「そうですそうです」
さっき、あまりにも的外れな事を言っていた竜也さんとは思えないほどに物分かりが良い。美穂ちゃんに聞いた感じ、かなりの進学校に通ってるらしく、頭は良いらしいし。
「一つ疑問に思ったんだけど、茉奈ちゃんはどうしてあの魔物の事を調べてるんだ? AZUSAやキャプテンは君には言ってしまえば無関係だろう? 今までは単純に好奇心かなって思って聞いてたけど、ダンジョン暴走が起こったダンジョンに行くほどってなると話は変わってくるよね?」
竜也さんにそう聞かれて、思わず口を噤んでしまう。どう言えば良いのか分からなかったからだ。私の目的はAZUSAさんの声を取り戻して、もう一度あの大舞台に立ってほしいと思ってるから。
ただその理由だと止められる気がする。AZUSAさんの知り合いでもない癖にAZUSAさんを助けようとして暴走しているファンだと思われてしまうから。
まあ、あんまりそれと変わらないんだけど。
でも、お仕事でAZUSAさんと関わらなかったらここまでは思っていなかっただろうし。相談にも乗ってもらったり話をしたりしてAZUSAさんの人となりを知ったから声を取り戻したいという気持ちが強くなったんだ。
少しの間、考えを巡らせた後に、私は顔を上げて少し高い竜也さんの視線と合わせ、こう口にする。
「AZUSAさんを助けたいんです!」
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