第39話 久しぶりのダンジョン配信

「皆さん、お久しぶりのダンジョン配信です」


『うおおお! 待ってたー!』

『最高!』

『待ってたよ!』


 私が挨拶をした瞬間、凄まじい勢いでコメントが流れていく。最近は学校の用事もあり、レコーディングもありで中々ダンジョンでの配信が出来ていなかったのだ。

 それが本日ようやく出来るという事で私自身凄く楽しみにしていた。盛り上がってるのが自分だけだったらどうしようとか思ってたけど、この反応を見て安心したな。


「そういえば配信フォロワー数、600万人突破しました! ありがとうございます!」


『おめでとう!』

『最速じゃない?』

『まだ初めて数か月だよね? 早すぎww』


 最近、「マナ」のアカウントが600万人を突破したのだ。そして「AZUMANA」のチャンネルの方も先日、200万人を突破し、その生放送にも参加した。

 通学時にその数字を見て毎回一人でニヤニヤしている。やはりそれが全てではないにしても数字が増えていくのは嬉しいものだ。


『視聴者数もう10万人いて草』

『10万人とかえぐ』


「もう10万人超えたのですか!? いつもいつもありがとうございます。よし! 皆さんの期待に応えられるよう、今回も頑張ります!」


 そうして私はダンジョンの中へと足を踏み入れる。今回私が攻略するのは家から少し離れたところにある摩天ほどではないが、最初のダンジョンと比較すればかなり大きなダンジョンである。

 私が踏破したダンジョンよりは少し格が上がると聞いたため、あれからデーモンの痕跡も全く見つからないし配信映えしそうだなと思って挑むことにした。


 しかし格が上がるとはいえどのダンジョンも最初の階層はあまり強くない魔物たちが出現してくる。その魔物達を軽々と倒し、ダンジョンを攻略していく。


 第十階層に差し掛かったあたりだろうか。初めのダンジョンのショートカット地点を登録した直後に、ダンジョンの奥の方から酷い地鳴りのような音が聞こえてくる。


「何かあったのでしょうか?」


『地震?』

『いや地震にしては小さすぎる』

『じゃあ何だろ? 魔物とか探索者が出す音にしてはでかすぎるし……』


 コメント欄から情報を得ようにもどのコメントも分からないという意見が多い。ダンジョンはその時その時で大きく表情を変える。

 そのため、未解明な現象もまだまだ沢山残っているのだ。


 あまり気にはならない程度の地鳴り。ただ、胸のどこかで何かが引っ掛かる。恐怖? いや違う。なら好奇心? そうでもない。

 何かは分からないけど、その何かが奥へと進もうとする私の足を止めてくる。


「すみません、皆さん。あの地鳴りが何かは気になりますが、取り敢えずキリが良いので今回の配信はここで終わりにします。見てくださった皆様、久しぶりのダンジョン配信に来てくださり、ありがとうございました! それではまた」


『了解ー』

『おつー』

『無理しないでゆっくり休憩してねー』

『おつかれさまー』

『マナちゃん、お疲れ!!』


 流れゆくコメント欄を名残惜しそうに見つめると私は配信を停止させる。先程まで賑やかだったのも、今は真っ暗なダンジョンの中にただ一人ポツリと立ち尽くしている。

 配信をしていると変な事を言っちゃわないようにして気が張って疲れるけど、楽しいのは楽しい。配信終わりのこの喪失感も最近までは慣れていたのに久しぶりのダンジョン配信だったからちょっと嫌だな。


「なんてね。さ、帰ろ帰ろ」


 配信を終え、仮面を外すと水晶へと手をかざし、入り口までワープする。どういう原理なのかは分からないけれど一瞬で入り口まで戻ってきた私はふと先程まで私が潜っていたダンジョンからとある人物が出てくるのを見つける。


 国内トップの探索者、如月劉全さんだ。如月さんの姿を見た探索者たちが驚きの声を上げるも当の本人は何の興味も抱かない様子で颯爽とダンジョンを後にする。


「如月さんもこのダンジョンに潜ってるんだ。意外だな」


 またダンジョン踏破でも目指しているのかな、とかそんなことをぼんやりと考えながら私も帰路へと向かうのであった。

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