第38話 デーモンの封印
「デーモン……か」
あの後、如月さんから渡された本を竜也さんに無理を言って一日だけ貸し出させてもらい、今家で読もうとしているところだ。
題名は『デーモンの封印』。表紙にはあの悍ましい見た目の魔物が描かれており、その前には剣を持った人間の姿が描かれている。かなり古い書物らしく、所々焼けてはいるものの全然読めはするくらい綺麗であった。
ご飯も食べ、お風呂も入り、準備万端となった私は早速その本の一ページ目を開く。
『その日、奴は現れた。黒い体に大きな黒い翼。姿かたちは人間そのものであるが、明らかにこの世ならざる者の気配を漂わせている存在。これは私がこの魔物を封印へと至らしめるまでを描いた物語である』
封印? あの時自由に動き回っていたのを見ると封印されていたのが何かしらの原因で復活したという事なのかな?
『その悍ましい見た目と大きな翼をはやしているという点から私はこの魔物の事を『デーモン』と呼ぶことにした。この物語では以降、この魔物を『デーモン』と記す』
それから序章付近はデーモンが如何に甚大な被害をもたらしたかという事について記されていた。
『……今まで述べた通り、私が封印されるまでの間にデーモンは甚大な被害をもたらし続けていた。しかし、奴の他にダンジョン内外を自由に行き来できる存在は認知されていなかったため、その全てが未解決の事件として処理されていたのだ』
ダンジョン内外を自由に行き来する。それは私達からすれば至極当然のことだ。その原理は分かっていない。テレビで専門家さんが話していたのは、何かしらの力がダンジョン内には溢れていて、その力を動力源にして命を動かしているからダンジョン外へ出るのを嫌う節があるのだとか。
簡単に言うと私達にとっての酸素みたいなものがダンジョン内にはあるけど外にはないからわざわざ外に出てくることはないんだと聞いた。
でもあの時、大規模ダンジョン摩天から大量の魔物が飛び出してきた。それを引き起こしたのがあの時の魔物、デーモンだ。
奴が何かしらの力を使って魔物達をその制約から解き放ったのだ。これが全世界のダンジョンで行われたら大変なことになるんじゃないかな?
『実を言うと私もデーモンの被害者である。デーモンの被害者の中で唯一の生存者がこの私なのである。奴に襲われた時、私は運よく逃げることに成功し、警察へと駆けこみ事情を説明した。しかし、案の定、魔物が外に出てくるわけがないと断じられ、不審者に襲われて気が動転した者として処理されてしまった。魔物による被害ではなく人間による被害として捜査されてしまったのだ』
当時はダンジョン協会なんてものはなかったんだろうな。確か発足されたのが十年前くらいの話って聞くし。
『警察ではダメだと判断した私は自力でデーモンを追いかけることにした。幸いにも私の探索者としての職業が『バトルマスター』というアンノウンでかなり強力であったため私は奴の根城を突き止めることに成功した。しかしそれがいけなかった』
そして私はその先を読んで息を呑む。それと同時にこのデーモンという魔物が私の探している魔物であると確信する。
『奴には他者の声や姿を奪う能力があったのだ。少しの隙を突かれた私は声と姿をデーモンに奪われてしまった。それから私は奴の醜い姿のまま過ごさなければならなくなってしまったのだ。正直、その時は絶望した。もう二度と人間社会には戻れないのだと』
『そこからは執念である。不幸中の幸いで能力は使えたため、何とか姿を全身ローブで隠しながら、私の姿に扮し各地で事件を引き起こしているデーモンを追い詰めることに成功したのである』
それからはどのようにしてデーモンを追いかけ、いかに追い詰めたのかが事細かに書かれていた。何が目的かは分からないけど、デーモンは時折人間を襲いながら各地のダンジョンを回っていたのだという。
そしてデーモンが向かったダンジョンからは確実に魔物が外へと飛び出してきていたというのだ。
『そうしてデーモンが孤島のダンジョンへと姿を現した時、ようやく私は追い詰め、封印することに成功したのである。封印が成功したお陰で私は姿と声を取り戻すことが出来たのだ』
封印が成功すれば姿と声を取り戻すことが出来る。ということはこの本に書かれているかもしれな封印方法があれば梓さんの声を取り戻すことが出来るかもしれない。
胸の鼓動が早くなっていく。何か知ってはいけないことを知っているような気持になりながら次のページを開く。
「あれ?」
しかし、その先のページが無かった。強引に破られた形跡があるため、何者かが目的があって引きちぎったのだろう。
肝心なページが読めなかったため、私は少し落胆する。この本、ネットで検索しても一切出てこないし、たぶんこれ一冊しかないから破った本人以外、この先を読むことが出来ない。
「まあでも結構知れたことは多いか。封印方法とかが見れなかったのは残念だけど」
読み終わった後、私は本を閉じ、机の上に置く。取り敢えず梓さんの声を取り戻せることは分かったのだ。封印はできなくても倒すことが出来れば取り戻すことが出来る。
そのことを知れただけでも収穫だ。そう考えてその日はもう眠りにつくのであった。
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